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セカンド・アース  作者: 九重


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学年末決戦 14

「桃っ。」


思わず串田が叫ぶ。

桃は、その周囲を、利長をはじめとした五将軍に守られ、この階の出入り口に立っていた。


「利長、翼、隼。行って。」


桃の命に3将軍はたちまち飛び出し、串田たちの元に来て戦い始める。


「なんだ。あんまり残っていないな。」


「頑張りすぎだぞ。呂公。」


「周公も程公も、俺たちの分も残しておいてくださいと頼んだはずでしょう。・・・25人目だ!」


最後の数字はなんだかわからないが、正直加勢はありがたかったので、串田はホッと肩の力を抜く。




「まだ早過ぎるでしょう!」


反対に怒り出したのが周瑜・・・荒岡だった。


実はこの階に来る寸前、階下で合流した荒岡や利長たちは、話し合いで二手に分かれたのだった。


1つは、先行する串田を助けるチーム。

もう1つは、もう直ぐやってくるという報せの入った桃を守り、望楼までの道の安全が確保されてから桃と一緒に進軍するチーム。


悩みに悩んだ利長たちは・・・それでも桃を守る方を選んだ。


そして荒岡たちは串田に合流し、安全になってから階下に合図を送る手はずになっていたのだった。



しかし、未だ荒岡は合図を送っていない。

まだまだ魏の武将は多く残っていて、安全が確保されたとはとても言える状況ではなかった。


「何故、上がって来た!?」


詰る荒岡の質問に答えたのは、桃本人であった。


「私が、行きましょうって言ったんです。」


「桃さん。」


桃は決意を込めた瞳を荒岡に向ける。


「戦いは、望楼への階段だけだと報告を受けました。ならば一気に総力で攻めた方が早いと判断しました。」




・・・確かに、その判断は正しい。

しかし、判断の正しさと安全の大きさは必ずしも一致するものではない。むしろ反比例するケースの方が多いのだ。


今も・・・





「あれはっ。」


「昭烈帝だ。」


魏の武将たちがざわめき始める。


「昭烈帝!その首もらった。」


桃の姿を認めた者たちが、大きな喊声(かんせい)を上げて―――それが口火となった。


ある者は階段上から弓を射かけ、またある者は脇から飛び降りてがむしゃらに桃へと突進をはじめる。

もちろん、そのことごとくは、蜀の五将軍と彼らに率いられた武将、そして周瑜や程普を助けんと次々と現れた呉の武将たちに退けられはしたが、それでも敵の弓矢の届く範囲に桃が居るという事は、大変な事態であった。


「陛下に一矢たりとも触れさせるものか。」


桃の前面に立ち、聖・・・趙雲が矢を打ち払う。


「然り。」


その横から魏の武将に向かい百発百中の矢を射ながら悠人・・・黄忠が力強く頷いた。




確かに、彼らに守られた桃には、誰一人触れることすらできないように見える。


それでも尚、荒岡は不安にかられていた。

万が一にでも桃を傷つけたくないと思う。


「しかし・・・」


それ故に、なおも言い募ろうとした荒岡だったが、その彼を新たに現れた人物が宥めた。



「大丈夫だ。(かい)。」



それは、剛をひき連れた仲西だった。


「こちらの心配はいらない。それよりもお前は一刻も早く魏の旗を奪え。・・・もはや時間がないぞ。」


悠々と桃の横まで歩み寄り、しかし仲西は心配そうに空を見上げ、足元に目を落とした。


並ぶ自分と桃の影が・・・長い。


そう、決戦最終日、戦いの終わりを告げるその刻限は、刻一刻と迫っているのだった。




―――そしてそれこそが、桃が無理を言ってでもこの場に現れた本当の理由でもある。



(このままでは、間に合わない。)



桃の武人としての勘が、そう告げていた。




今更言う間でもないことであろうが、1年が完全制覇をするために必要な条件は、全ての砦を落とし、その旗を自軍の旗に取り換える事である。

その最期の1本が、今目の前に見上げる魏の旗だった。


近くて遠い・・・その旗。


そこに至る障害は、もはや望楼とそれに続く階段に詰める魏の武将、そして曹操のみである。


一見してわかる圧倒的な数と武力の大差。


しかし、それだけの戦力差があったとしてもその旗に手が届くかどうかは難しいタイミングと言わざるをえなかった。


「凡地有絶澗天井天牢天羅天陥天隙、必亟去之、勿近也(およそ地に絶澗・天井・天牢・天羅・天陥・天隙あらば、必ずすみやかにこれを去りて、近づくことなかれ)。」


仲西の脇で剛が孫子の兵法を呟く。

それは移動を拘束されるような危険な場所を回避することを説いた教えであった。


魏の旗は、高い望楼の上に在り、その元へと続く道は、急な階段ただ一カ所のみである。

狭い階段は、こちらの動きを拘束し、常に落下の危険を伴う。



「・・・あまりにこちらが不利だ。」



剛の言うとおりであった。


上からの敵の攻撃を遮るものもなく、しかも一度に通れるのはせいぜい数人でしかない階段。

疲れの見えてきた串田たちに代わり、今は利長たちがそこを攻めているが、その通路を完全に制圧するためには、圧倒的に時間が足りなかった。



考えれば考える程、ありとあらゆる情勢が圧倒的な数で押しているはずの1、2年の不利を示している。




だからこその吉田の余裕なのだろう。


「勝利は、譲ろう。しかし、完全制覇は防がせてもらう。」


望楼から下を見下ろし、吉田はニヤリと笑ってそう言った。




桃は、ギュッと唇を噛む。


雨霰と降り注ぐ矢。

徐々に押してはいるものの、中々崩れぬ敵。

刻一刻と迫りくる、終りの時間。



桃の背後に立つ、明哉や内山、智也たち名士陣も徐々に焦りの色を濃くしていた。




「・・・私が、行きます。」




ついに、桃はそう言った。

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