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セカンド・アース  作者: 九重


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学年末決戦 13

呂布、字は奉先。


圧倒的な武力を持ち名馬赤兎馬を従える最強の「飛将」と呼ばれた(おとこ)

三国時代一二を争う武将でありながら、しかし呂布は安定した根拠地を持つことができず、曹操と劉備の連合軍の前に敗れた。


今世になれば、串田にもわかる。


前世の呂布は自分の利益のためだけに戦い、裏切りを繰り返してきた。これでは誰の信頼も得られないに決まっている。


(そこが、俺と劉備との決定的な違いだったのだろう。)


劉備とて最初に呂布と出会った時は、関羽、張飛といった手強い弟分を従えていることだけが多少目立つ程度の義勇軍の一翼でしかなかった。

しかし劉備は、義に厚く、自分の損得よりも他人を思いやる仁徳を備え、その度量の大きさでみるみる周囲の信頼と支持を集め、ついには蜀の君主となった。


(全て俺にはなかったものだ。)


だからこそと串田は思う。

今世では自分が信じた者のために一心に生きようと。

自身に仁徳がなければ、仁徳の有る者のために生きれば良いのだ。


それが串田の答えだった。


(そして、俺は桃に出会った。)


劉備であった前世を背負いながら“女”となって幾度もの辛い転生を乗り越えてきた人物。

劉備の言で殺されたという過去を持つ自分が、その確執を超えてあっという間に惹かれてしまった“女”。



(これは、運命だ!)





・・・呂布は、思い込みの激しい男であった。





その“思い”の元、串田は現在もの凄いテンションで戦い続けている。


「呂布なり、呂布なり。曹操はいずこにありや。」


叫び、ただ一人敵陣に斬りこみ、戟を振るう。

右へ左へと、その朱色の戟が舞う度に、敵がばったばったと倒れていった。

あまりの勢いに、最初は迎え撃とうと奮い立った3年の武将たちも、ついには逃げ惑う(ちり)(あくた)のようになってしまう。


「呂布だっ。」


「呂布来る。」


それは、怖れと共に耳をつく叫びと成り果てた。




そして―――いよいよ串田は、最上階へと辿(たど)り着く。


ここから先は、望楼(ぼうろう)へと続く急な階段があるのみである。

その中に堂々と魏の旗が(ひるがえ)っていた。


びゅうびゅうと風が吹き渡る。




曹操・・・吉田は、その望楼に居た。




「そこかっ。曹操、出会えっ。」


旗と吉田めがけ、串田は猪突する。

しかし、流石にその階段には魏の名だたる武将たちが集中して(たむろ)し、この先は一歩も通さぬとばかりに守りを固めていた。


「我は曹仁(そうじん)。来れや、呂布。」


徐晃(じょこう)ここに在り。呂布など我が大斧の(さび)にしてくれよう。」


飛び出して来た2人は、いずれも曹操配下の名将だった。


「おうっ。束になって来いっ。」


2人を同時に相手どりながら、呂布は戦う。

その目は同時に望楼の中の曹操を睨み付けていた。



曹操・・・吉田はニヤリと笑う。

細められた二つの目は、ここまで来られるものなら来てみろと串田を挑発しているかのようだった。


「おのれ、匹夫。」


串田はブンブンと戟を振り回す。




・・・しかし流石の呂布も、ここに来て連戦に次ぐ連戦の疲れが見えてきていた。


「おうっ!」


「うおぅっ!」


「なんのっ。」


掛け声も勇ましく2対1で戦っているが、その旗色は明らかに悪い。

それでもやられぬところが呂布であった。


「くっ・・・」


徐晃の大斧が、今までで一番呂布の体近くに振り下ろされる。


「はっ!」


それを躱しながら、曹仁の剣を打ち返す。


二合、三合と打ち合うに連れ、呂布の額からは玉のような汗が噴き出し、息は荒く、肩が大きく揺れるようになってきた。


「くそっ。」


何度か相手の剣や斧が体を掠め、うっすらと朱色が体に線を引く。


その失態に悔し紛れに繰り出した呂布の戟は、大きく空を切った。


たまらず体勢を崩したその隙を、曹仁は逃さず打ち込んでくる。


鋭い剣が呂布の首を狙った。



「呂布、討ち取ったり!」



大声で上げた勝ち名乗りは、しかし一瞬だけ早かった。



「させるかっ!」


声と共に一陣の風が起こり、呂布と曹仁の間に誰かが入り込む。

キン!と澄んだ音がした。



「あなたの相手は私がしよう。」



寸でのところで曹仁の剣を受け止め華麗に弾き返したのは、荒岡・・・呉の周瑜であった。

美麗な男がニコリと笑う。


「突出しすぎですよ、呂公。別の入口から侵入した私たちとこの下の階で合流してから望楼に挑む予定でしたでしょう?」


苦言さえも優雅な響きを持って聞こえる周郎は、その麗しい容姿からは想像もできないほどの強い剣士でもあった。

彼とてこの場に辿り着くまでには、幾度の修羅場を乗り越えてきたはずであるのに、息ひとつ乱していない。


「出過ぎた杭は打たれるのですよ。」


渾身の力を込めた曹仁の剣を、片手で軽々受け流しながら、周瑜は呂布に向かって顔をしかめて見せた。



「全くだ。」



その周瑜の傍らで、徐晃の大斧を自分の矛でがっちり受け止めながら松永・・・程普が頷く。



「関将軍も張将軍も呂公が先に行ったことを酷く心配し怒っていたぞ。」




「?!・・・あいつらが。」


串田はちょっと感動した。




―――しかし、残念な事に実情はちょっと違う。


確かに利長や翼は「呂公は頑張りすぎだ。」と苦い顔をしたのだが、それは決して心配した上での発言ではなかった。



既におわかりだろう。・・・彼らが怒っていた本当の理由は、自分が倒す敵が減ってしまったからである。


敵を倒せなければ、桃の生写真は手に入らないのだ。


独り占め反対!と怒鳴る翼の声が聞こえるような気のする現状だった。




「すまない。俺は、(こころ)(はや)りすぎたようだ。」


そんな実情を知るわけもなく、串田は神妙に謝る。

天を仰ぎ、大きくため息をついた。




午後を大きく過ぎた早春の空は、地上の戦いを他所に優しい色を見せている。




望楼を巡るその戦いは、周瑜、程普といった新手な敵の登場に一気にざわめきたち、他の魏の武将たちも(こぞ)って参戦してきていた。




一息をついた串田も、「よし!」と言って立ち上がる。

再び戟を振りはじめた。

今度は突出せず、呉の2人と息を合わせた見事な戦いを演じる。




風は吹きすぎていった。





しばしの後に、串田は、ふと思いつく。



「奴らは?」



奴らとは、利長と翼のことであった。

2人がそんなに怒っていたのであれば、本来この場に飛び込み串田を諌めるのは利長と翼であったはずだと今更ながらに気づいたのだった。




しかし、何故か来たのは周瑜と程普である。

串田は知らなくとも、何が何でも先頭で戦いたい理由のある2人はどこに行ったのであろうか?






---その理由は、直ぐに明らかになる。



「皆さん、ご無事ですか?」



澄んだ少女の声が周囲に響いた。



「!?」



(おとこ)たちの動きが止まる。





ついに、最終決戦の場に桃が登場したのであった。

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