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セカンド・アース  作者: 九重


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学年末決戦 12

「これで15人目だ!」


矛で敵の胸を突いて翼がどうだとばかりに大きな声を上げる。

既に朱液が減りすぎて、相手の胸には掠れた(あと)しか付かないが、矛の勢いに押されてヨロヨロと後退した相手は、文句も言わず自分の戦闘不能を受け入れた。これ以上抗ってなお酷く翼に叩かれてはたまらない。


「こっちは、17人目だ!」


今しも1人の敵を足元に捻じ伏せ、その喉元に槍を突きつけた隼が大声をあげる。足元の敵は情けなくも両手をあげて降参の意志を示していた。

勝ち誇ったように隼は、翼を見る。


「チクショウ!俺のルートには、呂布が先行しているからどうしたって俺の方には獲物が回らないんだ。ちょっとは手加減しやがれ、呂布の戦闘バカ。独り占め反対!」


小さな子供のように不満をもらす翼に、利長は大きなため息をついた。


呂布・・・串田も、他ならぬ張飛に戦闘バカ呼ばわりされたと知ればきっとゆでだこの様になって怒ることだろう。声の聞こえる範囲にいなかったことが幸いである。


「益徳。貴公の戦い方は無駄な動きが多すぎる。だからあんなに派手に戦っていても実績があがらないのだ。もっと確実に相手を仕留めろ。・・・こういう風にな。」


そう言いながら利長の大刀が、この隙に逃げようとした敵の背中を一直線に切り下げる。


「うっあぁっ!」


背に真一文字の朱液(当然掠れている)をつけられた敵は、悲鳴を上げて倒れた。

実に見事な華々しい剣捌きである。確かに確実さはあるが、派手さ加減では翼といい勝負なのではないかと思える見栄えのする一撃であった。


「18人目だ」


フッと笑いながら利長が数える。


「クソッ。流石兄哥。負けるものかっ!」


「何をっ!・・・桃の“レア生写真(・・・)”を手に入れるのは俺だ。誰にも渡すものか。」




・・・・・・・・・・・・




魏の砦に襲い掛かり、バッタバッタと敵を叩き伏せているこの先陣3人。


何を隠そう彼らは、この戦いの最中に敵を倒した数を競い、勝者は桃の限定“レア生写真”をゲットできるという特典をかけて争っているのであった。


倒された敵が何とも言えぬ表情で呆然とする。

“お前ら、マジか?”とその目は語っていた。


残念ながらマジもマジ、大真面目な3人である。




事の起こりは、やはりというか何というか・・・理子だった。


昨晩来たるべき明日の最終戦に備えて早めに寝ようとしていた3人の元に来た理子は、「ジャ〜ン!」という効果音の擬声つきで桃の生写真を見せびらかしたのであった。


「こ、これはっ?」


「この前のバレンタインの時に撮ったのよ。・・・女子みんなで男子全員分のチョコを作ってあげたでしょう。その時の桃ちゃんのエプロン姿があんまり可愛かったものだからっ。」


語尾に間違いなくハートマークのついているような弾んだ声だった。



確かに、2月14日のバレンタインデーに1年の全男子生徒は女子みんなからだと言われて全員同じ手作りのチョコレートをもらっている。

もちろん彼らが本当に欲しかったのは桃からの特別なチョコレートであったのだが、(猛を除く。猛は当然文菜から特製チョコをもらっている。その日の猛がやっかみ半分で他の男子から袋叩きにあったのは仕方のないことだろう。)現時点では、桃が本命チョコを、2年3年を含めた誰にも渡さなかったという事実で我慢するしかないのが現状であった。



その写真は、桃がメイド喫茶のメイドもかくやというような超可愛いフリフリのレースエプロンを着て、なおかつ猫耳レースカチューシャをつけているという悶絶モノの写真である。

しかも、ご丁寧に恥ずかしそうに頬を染めたアップの上半身写真とエプロンの裾をツンと押さえてポーズを決める全身像の2枚セットであった。



「こ、これは・・・」


「チョコの材料を買いに行ったお店で衣装も一緒に売っていたから、つい買っちゃたの。女子全員、色違いのお揃いなのよ。桃ちゃんはやっぱり白よね。」


全員で撮った写真もあるのよと言って、理子はキャッと頬を染める。桃を中心に桃にまとわりつくように女子全員で撮った写真は、そのビジュアル的に、とても男子に見せられるようなモノではなかったため、流石の理子も今は持参していない。



「・・・どうしてこれを俺たちに?」



すぐさま写真に手を伸ばしたい気持ちを抑えて利長が問う。


理子はフフンと笑った。


「あなたたち3人が明日先陣を切るって聞いたから、どうせならご褒美が有った方が頑張れるんじゃないかって思ったのよ。」


私って天才よねと理子は自画自賛する。

間違いなく天才的な小悪魔だろうと3人共、思った。


「あ!大丈夫よ。ちゃんと桃ちゃんには了解をもらってあるから。桃ちゃんは自分の写真なんかで喜んでもらえるなんて思えないって言って、あんまり本気にしていなかったけれど、“それでもイイならかまわない”って言ってくれたから。」


そんなバカなと桃が思ったのは間違いないことだろう。うっかり理子の口車に乗ってしまったのだろうと思われた。


理子のやり口のあくどさに利長は天を仰ぐ。



それでも今彼らの目の前に、桃の生写真があるのは紛れもない事実で・・・



「・・・写真はそれだけか?」


「当たり前じゃない。こんな貴重なモノ、そうそうプリントするわけないでしょう。データはきっちり芽生ちゃんが管理しているわ。」


芽生・・・前世の孔明の黄夫人の生真面目な顔が脳裏に浮かんだ。確かに芽生ならデータに何重にもロックをかけて厳重に管理していそうだった。



「条件は?」



写真は2枚しかないのである。

理子が何の裏心もなく激励するためだけに彼らにそれを渡すとも思えなかった。


案の定、理子はとっても良い笑みを浮かべる。



「敵を一番多く倒した人に2枚ともあげるわ。」



手に入れたければ頑張ることねと言った理子は、間違いなく小悪魔・・・いや、大魔王のようであった。



利長、翼、隼の3人の答えなど聞くまでもないだろう。





「出合え!匹夫。疾く来て俺と戦えっ。」


大音声の呼び声が砦の中に響き渡る。


「魏の奴ばらは、腑抜けばかりかっ。」


「やって来い。死を賭して戦おうぞ!」





・・・生写真のために死を賭して戦いたい者などいないだろう。



戦いは着々と進む。



理子命名『馬に人参大作戦!』が、明哉や内山の立てたどんな策よりも成果を上げたという事実は、公式に記されることはなかった。


余談ですが、作者は「指輪物語」が大好きです。

ドワーフのギムリとエルフのレゴラスが敵を倒した数を競うシーンも胸をわくわくさせて読んでいました。

今回のお話はそこから来ているのですが…どうしてこうなった?

自分の思考回路が残念でなりません。

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