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セカンド・アース  作者: 九重


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学年末決戦 10

「おおうぅっ!」


「はっ!!」


ガキッガキッ!という派手な衝突音と共に、渾身の気合を込めた掛け声が響く。


「やるなっ、これならどうだっ!」


「なんのぉっ。」




砦前門の戦いは、手に汗握る迫力に満ちていた。


「ウオォっ!!」


典韋の大双戟がブォンッ!と頭上を舞って、許チョの顔面めがけ振り下ろされる。


「おォウっ!」


ガツンッとそれを大刀で受けとめると、許チョは勢いに任せて何十キロもあるその武器を弾き返した。


信じがたいことだが、それらは全て共に馬上の動きである。

鍛え抜かれた軍馬も息を荒くし、しとどに汗をかいている。

人馬一体の見事な動きで先刻より戦いは続いていた。




許チョの大刀が典韋の前髪をかすめ、典韋の大双戟が許チョの頬をかすめる。

ビュッビュッと朱液が飛び、互いの顔にかかるが、それらは致命傷と見なされず戦いを止めるまでには至らない。

肉迫する攻撃をあわやという()で互いに躱しながら、しかし2人とも攻めの勢いを失うことはなかった。




延々と続くと思われた戦いだが、なんと先に馬の方の足に乱れが現れた。


まずいと見てとり、許チョは先に馬を降りる。

まだ、いきり立つ愛馬の鼻面を1つ2つ叩き、戦場より離れさせた。


それを見た典韋もヒラリと馬を降り、同じように馬を下がらせる。


2人顔を見合わせた。


「まだまだ。」


「いざ!参る。」


ガッ!!という音が一際高く上がる。


両雄は疲れも見せず、今度は徒歩のまま互いの武器を振るいあった。





・・・永遠に終わらぬかと見えた戦いも遂には決着がつく。


許チョの渾身の一撃を受けた典韋の足が、互いの汗でぬれた地面をズルリと滑る。

僅かな体勢の崩れを見逃さず、許チョの一撃が典韋の胴を払った。


大双戟がその大刀を受け止めて、度重なる衝撃にこらえきれなかった大刀が真っ2つに折れる。



・・・その折れた刀の刃が典韋の横腹にドン!と当たった。



朱液がべっとりと典韋の鎧を汚す。

その勢いは、どれほど固い鎧でも突き通すであろうと思われるかのようだった。



受け止めた大双戟にもビシリ!とひびが入る。



睨みあい、互いの武器を捨て、2人同時に今度は素手で組みあおうとした、その瞬間。



「勝負あった!3−2岩間、致命傷。戦闘不能と認める。」



何時の間に近づいていたのだろう。トレーニングウェアの上下を着た体育教師が冷静な声で判断を下した。




名を呼ばれた岩間も、それを聞いていた戸塚も、一瞬その体育教師が誰の名を叫んだのかわからなかった。


・・・それほどに2人の英雄は、互いの・・・典韋と許チョの戦いに没頭していたのであった。


何度か目を瞬き、目の前にいるのが、かつて互いに互いを認め合った英傑ではなく、ただの学年とクラスで分けられる学生なのだということに気づく。


気づいてしまう。




・・・それは、ひどく(はかな)い姿だった。


たった今まで昂揚し(みなぎ)っていた気が消えていく。


戦場でしか味わえない酩酊にも似た興奮。


全力を出して感じられる限界の力。


たった今この瞬間まで目の前にあった、命をかけて渡り合える・・・敵がいなくなる。




「・・・夢、か?」




折れた大刀やひびの入った大双戟のごとくその全てが消えていた。


・・・もろい夢から両雄は醒めるかのように1つ目を瞬く。




しかし、



「・・・夢ではない!」



大音声が彼らに喝を入れた。


それは、悠人・・・黄忠であった。

敵も味方も砦内に入り乱れ、既に門前には誰もいないと思っていたその場に、ただ1人騎馬の老将は残り、戦いを見届けていたのであった。


「夢でなどあるものか。見事な勝負、この黄忠が見届けた!・・・勝ち名乗りを挙げられよ、牟郷候。不肖この老骨が(しるし)の矢を打ち上げようぞ!」


言うなり悠人は、天に向かい1本の矢を高々と放つ。


どうやら先に花火のついていたらしいその矢は、冬の澄んだ空高く上がり、バァンッ!と弾けた。




呆気にとられその矢を見詰めていた戸塚が・・・ハッ!と笑い、笑み崩れる。


消え去った興奮が体に戻った。




「!!・・・勝ったぞっ。敵将典韋、この許チョが討ちとったり!!」




大声の勝ち名乗りが響き、砦内から轟音のような雄叫びが上がった。


うおうっ!うおうっ!!と雷鳴のような叫びが許チョの勝利を祝う。




その声を聞いて・・・戸塚は、バッタリと地面に倒れた。


「もはや、1ミリも動けんっ。」


大声で吠える。


鍛えられた分厚い胸筋が、大きく上下していた。


こちらはまだ立っているものの、既に戦闘不能の宣告を受けて戦う事の叶わぬ岩間が、その様子を見て・・・呆れたように笑う。


ドッカッとその場に腰を下ろした。


「敗けたっ、敗けたっ!!」


大声で吠える。

ガハハッと天を見上げて笑った。


早春のまだ冷たい空気が爽やかに吹き過ぎる。




そんな両雄を悠人は目元を緩ませて見下ろした。


「休まれよ、牟郷候。後は安心して任せられるが良い。候の戦いと最期(・・)、しかとそれがしが陛下にお伝えしよう。」




「へ?」




ちょっと待て、なんで最期(・・)だ?と聞く間も与えず悠人はニコリと笑うと馬に拍車をかけ、砦内に駆けて行く。


後には呆然とその後ろ姿を見送る戸塚と、弾けたように笑いだす岩間が残った。




「どうやら貴公は死んだことになるらしいな?」


「なっ?」


「死した者に“妻”はいらんのだろう。あの名士どもがこぞって貴公のチャンスを潰そうと桃さんに有ること無いこと吹き込む(さま)が目に見えるようだ。」


「!?」





実は戦い前の蜀軍の会話は、風向きもあって門前にいた岩間には丸聞こえであった。




「・・・そんな、バカなっ!!」




悲痛な大男の絶叫が響く。


岩間は上機嫌に耳を塞いだのであった。


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