学年末決戦 4
すいません。また短いです。
きりが良いものですから…。
次話、頑張ります!
「呉の様子はどうですか?」
桃の問いかけに剛は「そうだな。」と考え込んだ。
「蜀に対しての印象は決して悪くない。昨年春から今までの戦いぶりに関しては、感心する者がほとんどだ。桃に対しても、外見、性格、そしてカリスマ性に皆惹かれている。桃に紹介してくれと頼んで来る者の処理がたいへんな程だ。それと同時に2学期の間にわしへの信頼も確固たるものとなっている。もちろん、陛下への忠義はビクともするものではないが・・・わしが進言し陛下がお認めになるのであれば、蜀と和平を結び、此度の学年末決戦での蜀の勝利を認める形での終戦協定を結ぶことを受け入れる者は、3分の2は下らないことだろう。」
フムと、桃は下あごをゆっくり撫でる。
「魏は?」
「呉とほとんど似たような状況だと言える。」
聞かれた拓斗は、生真面目に桃を真っ直ぐ見返す。
「もちろん俺には剛のように周囲を従える権力はないが、俺の話に真剣に耳を傾けてくれる者は多い。陛下の統率力は失礼ながら呉大帝よりも大きくていらっしゃるから何よりも陛下のご意志が第一ではあるが、陛下が頷いてくださるのであれば、蜀の全校制覇を共に支えるという形で和平を結ぶことを認めるに否を唱える者はいないだろう。」
桃は瞳を閉じて、暫し考え込んだ。
「どちらもやはり、和平は君主の考え次第ということですか・・・」
黙って聞いていた明哉が2人の話をまとめる。
理子が仲西とお弁当を食べている昼休み。
桃と明哉は、剛、拓斗と共に1年生に与えられた校内のミーティングルームで話し合いを行っていた。
内容は、学年末決戦の中での魏、呉との和平協定、それも蜀の優勝を認めるという形での和平を結べるかどうかの可能性の検討だった。
最善の戦いというものは、実は戦わずにして勝つことであるということをここに居るメンバーは当然熟知している。
戦わなければ、敵にも味方にも損失が全く生じず、最大限の利益を得ることができるのだ。
話し合いで勝利を得られればそれに越したことはないのである。
それは、当然剛も拓斗も望むべき形で・・・
「すまない、桃。“待っていて欲しい”などと言いながら、わしは呉の全てをまとめきれず同盟まで話を進めることができなかった。」
潔く剛は頭を下げる。
剛の参加で呉は強い結束力とそれに伴う力を手に入れていたが、それでも2年全体をまとめあげて蜀への同盟を申し込むというところまでは、まだ行き着いてはいなかった。
「それは俺も同じだ。」
拓斗も並んで頭を下げる。
「桃、お前に手を差し伸べると約束していたのに、俺はその手を此度の戦いに間に合わせることができなかった。本当にすまない。」
拓斗のハードルは剛よりもなお高いと言えるだろう。
・・・なにせ吉田は“俺様”だ。
吉田が蜀との同盟に頷くことなど、余程の事が無い限りは考えられないことだった。
共に頭を下げる剛と拓斗・・・張昭と華キンに、桃は小さく頭を横に振る。
「頭を下げる必要などありません。2人ともよく頑張ってくれました。2人の働きは何にも勝るものです。・・・だって私たちは2人の話から“何”を目標にすれば良いのかがわかりましたから。」
桃の言葉に、剛と拓斗は驚いて顔を上げる。
「・・・目標?」
「要は、魏、呉共に君主が同意すれば良いのでしょう?」
桃はニコリと笑ってそう言った。
そう、明哉も先刻2人の君主の考え方次第だと話していた。
「狙うは・・・魏武王と呉大帝。」
一段低くなった声できっぱりと言い切る桃の口元は緩く弧を描いている。
「そうですね。両方の君主か、そうでなければその2人にとって自身が落とされたと同様のショックを与えられる人物を手に入れられれば、戦は私たちが勝ったも同然でしょう。」
明哉が言う同様のショックを与えられる人物とは、2年で言えば荒岡(周瑜)を、3年であれば堤坂(夏候惇)を差すのだろうと思われた。
・・・確かに今の2年と3年の情勢は、吉田と仲西さえ頷けば、他の者から和平への不満が出ることはなさそうだ。
剛と拓斗は、そこまで舞台を整えてくれたのである。
桃の笑みが更に深くなる。
下あごに当てられた手は、満足そうにゆっくりと動いた。
「・・・狙うは、わずか首2つ。攻撃目標を絞り一気に決着をつける。」
その瞳は深く、強く光る。
剛も拓斗も明哉も、その目から視線を外すことができない。
冬の日差しがミーティングルームの中を照らしだしている。
澄んだ空気の中に佇む小さいはずの少女が、とてつもなく大きく見える明哉たちだった。




