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セカンド・アース  作者: 九重


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冬休み 4

無駄のない美しい軌道で剣が一閃される。


「!!」


間違いなくその刃にかかると思われた体が目の前からスッと消え、かわりに自分の頭上から重い剣が落ちてくる。

ガキッ!と音を立てて刃と刃がぶつかった!


「やるな!兄哥。」


「なんの!勝負はこれからだ!!」


一歩も引かぬ迫力で剣を打ちあっているのは、利長と翼だった。


双方真剣で、その剣筋は見えず、超人のような絶技が繰り広げられている。

髪の毛一筋の間合いを間違えれば、どちらかが血の海に沈むような戦いが続いていた。




・・・とはいえ、安心していただきたい。


別に利長と翼が、ついに桃を巡ってケンカをはじめたとかそういう訳では決してない。


此処は南斗高校の無駄に広すぎる体育館。


3学期の始業式の1日前に全員集まった桃たち1年生は、新年らしく“人間すごろく”をしていたのであった。


体育館いっぱいに“すごろく”のコースを作り、自分たちがコマになって進む楽しい遊びであるはずのこのゲームは・・・しかし、途中のマスに書かれた指示が凝っていすぎて・・・とんでもない事になっていた。



利長が止まったマスに書かれてあった指示は、


【次にこのマスに止まった人と戦い、勝てば10マス進める。】


というモノだった。


誰が来るかと待ち構えていた利長の元に来たのが翼だ。


「へぇ〜?こいつは面白そうだ。兄哥と言えど、手加減はせぬぞ!」


「当たり前だ。休みでなまった体を取り戻すのに丁度いい。死ぬ気で来い!」


・・・いや、これはすごろくの遊びなのだから死ぬ気(・・・)はないだろう?というごく普通のはずのツッコミをする者は誰もいなかった。

見事な剣技を披露する2人に感心するのも桃くらいなもので、ほとんどの者は嬉々として戦いはじめた2人をいつもの事と無視してすごろくを進めていく。



巨大サイコロを振って別のマスに止まった西村が、冬の最中に額に脂汗(あぶらあせ)(にじ)ませて難しい顔で考えこんでいた。


そのマスに書かれてあったのは、


【一番嫌いな(・・・)人の良いところを3つ言えたら6マス進む。】


というものだった。




「・・・言えるか!!」


いや、そこは嘘でもイイから言うべきだろうと近くの者は思う。

遠くで、わけもわからず睨み付けられている明哉が怪訝な顔をしていた。



他にも、


【四言詩を詠う。】に止まって、途方に暮れる戸塚とか、


【孫権のモノマネをする。】に止まって、けしからん!と丁度側に居た天吾にくどくどと説教をはじめる剛とか、


オーソドックスに、

【誰か1人をスタートに戻すことができる。】に止まって真剣に悩む拓斗。


【もらったお年玉の合計金額を言う。】に止まり、「嫌味か!?」と怒鳴る串田等・・・“人間すごろく”は、異様な盛り上がりを見せていた。




「誰だ!?こんなすごろくを作ったのは!」


いまいましそうに怒鳴るのは、


【誰かがゴールするまで正座する。】に止まってしまった蓮である。


プルプル震えながら、もう絶対立てないだろうと涙目になっていた。



「俺だけど?」



平然とそう言ったのは・・・牧田だった。


やっぱりお前か!とは、誰も言えない。

皆の恨みがましい視線を平然と受け止めながら、牧田は美しく笑った。


「感謝して欲しいな。俺の機智(きち)に。」


そう言うと牧田はゴール近くの1つのマスを黙って指差す。


それは前後のマスの指示によりゴールする前に必ず誰もが1回は止まるマスで、その指示は、


【一番好きな人の名前を叫んでゴールする。】だった。


・・・誰もが、1回は止まるのである。



「桃も、ここに止まるのか?」



誰かが呟いたその声に、全員がゴクリと唾を飲んだ。


もの凄い勢いでサイコロが振られはじめる。


そうして進んだ仲間たちは、件のマスに止まると。


「桃!」


「桃だ!」


「桃ちゃん!」


「桃しかいない!」


次々とそう叫んでゴールして行った。




もちろん、例外もいないわけではない。


「・・・お兄さまです。」


耳まで赤くして恥ずかしそうに文菜が言えば、猛が応えぬはずもなく。


「・・・文菜。」


小さな声でしかし、はっきりと名前を呼び、猛はゴールした。


感極まった文菜に飛び付かれて照れる猛は、美形ではなくとも文句なしにイイ男だ。

頼むから他の者たちもこういう真っ当な恋愛をして欲しいと願うのは間違いではないだろう。




しかし、そんな2人を羨ましそうに見ながらも、やはり変わらず桃の名を叫ぶ者は減らず、すごろくは進む。





ついに、桃がそのマスに止まる時がやってきた。


突如、周囲がシンと静まり返る。


(え?)


桃は驚いた。

何かあったのかとキョロキョロするのだが、おかしなところは何も見当たらない。


首を傾げる桃を全員が固唾をのんで見守っていた。


(えっと・・・別に何もないわよね?普通に続けていいの?)


疑問に思いながらも自分の止まったマスの指示を読む。



(・・・一番、好きな人?)



桃は目をパチパチと瞬いた。

足元に書かれた指示をもう一度確認して、顔を上げる。


全員が自分を見ていた。



(・・・えっと?)



指示の内容よりも、この異様な雰囲気が怖い。


どうしよう?と思った桃の目の前で・・・理子が勢いよく右手を()げた。


それはまるで授業中に答えのわかった生徒が挙手するような様子で・・・



「理子?」



思わず桃はそう呼んでいた。



桃がそう言った途端、


「きゃあっ!!やっぱり!そうよね、桃ちゃん。桃ちゃんと私って相思相愛よね!?」


理子が大声を上げて飛びついてきた。


「理子!お前やり方が汚いぞ!」


「不正です。」


「今のは無効だ!」


全員から一斉に抗議の声が上がる。

あかんべをして桃にしがみつき、「絶対一生桃ちゃんから離れない!」と理子は堂々と宣言した。




人間すごろくは・・・大混乱になった。


呆気にとられてその騒ぎを見ながら・・・桃はクスクスと笑いだす。


冬休み前と少しも変わらぬみんなの態度が、心から嬉しかった。


顔を上げる。



「みんな、大好き。」



喧噪の中、誰にも聞こえないだろう言葉を桃は呟く。



明日から3学期だわと桃は思った。


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