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セカンド・アース  作者: 九重


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冬休み 3

ちょっと、短いです。

利長の家からの帰りの電車の中で、桃は翼に「好きだ。」と告白された。


戸惑う桃に、翼も利長と同じく「わかってる。」と笑う。

その笑顔は、本当に屈託のない晴れやかなモノだった。



「俺も、自分の“好き”が、どういう“好き”なのかいまいちわからないもんな。」



その理由を聞いて、桃は口をポカンと開ける。


翼は困ったように、短い黒髪をくしゃりと握りしめた。


「桃を“好き”なのは、間違いないんだ。一番、最高にものすごく“大好き”だ!それだけは胸を張って堂々と言える。・・・ただ、俺の場合その“大好き”には当然兄哥も入っている。俺には、桃と兄哥と俺の3人がバラバラになるなんて考えられないんだよな。」


これって普通に女の子が“好き”の“好き”には考えられないことだろう?と翼は苦笑する。


確かにそれはそうだった。


普通、恋する“好き”にはもれなく独占欲がついてくる。

利長は生涯桃の一番近くに居たいと言ったし、明哉などは、桃を自分1人のものにして、連れ去り閉じ込めてその瞳に明哉以外の誰も映らぬようにしてしまいたい!とまで言ったのだ。


思い出した桃は、ポッと頬を赤くする。


「まあ、俺も兄哥以外の奴が桃の側に居るのは面白くないけれど、それが兄哥だったらイヤじゃないんだよな。」


自分で自分の考えに戸惑うように、翼は首を捻る。


「・・・兄哥には、告白されたか?」


顔を近づけ、上目づかいに聞いてきた。


「!」


夜の雪景色が桃の脳裏にパッと蘇る。

赤くなりながら、桃はコクンと頷いた。


「そっか。・・・良かった。兄哥は、ちゃんとコクられたんだな。」


翼は本当に嬉しそうに笑った。


「ここで嬉しい俺の“好き”って、やっぱりおかしいんだろうけど・・・俺は3人で居られれば、それがどんな形でもかまわないんだ。もちろん桃が俺を選んでくれれば凄く嬉しいけど、兄哥を選んだとしてもやっぱり嬉しいと思う。どっちだって3人一緒なのは変わらないんだし。」


翼の中で3人のきずなは、何があろうとも切っても切れない確かなモノのようだった。


桃にもその気持ちがわかる。

利長に告白された時と同じだ。


2人が自分から離れるなんて考えられない。


利長同様、翼の魂が自分の側近くにあることは、ごく当たり前の事だった。


転生を繰り返し、ようやく巡り会えた2つの魂を決して失いたくはない。



でも・・・


「翼は、“共に生き、共に死なん”でいいの?」


一度利長にダメ出しをくらった桃は、恐る恐るそう聞いてみた。


もはや自分たちは、劉備と関羽と張飛ではないのだ。

3人共にあっても、その有り様は違って当然だった。



でも・・・


「当たり前だ!」


翼は、桃の言葉に大きく頷いてくれる。


桃はホッと息を吐いた。

確かに、桃と翼は同じ位置(レベル)にいるようだった。


2人顔を見合わせる。


「どんな“好き”でもいいよな?」


「うん。」


一緒にいれて嬉しくて幸せで、ずっと一緒にいたい。


それだけは間違いない。



「例えどんな“好き”だろうが、俺のこの“好き”が誰かに劣るとは思わない。」



「・・・私も。」



だったらそれでいいかと2人は笑った。




年末の帰省ラッシュとは反対方向の東京行きの電車は、時間帯も相俟(あいま)ってガラガラに空いている。


次は翼の降りる駅で、翼はそこから自分の家方面への電車に乗り換えることになっていた。

本当は桃の家まで送ると言ってくれたのだが、流石にそれは遠慮したのだった。


もっと一緒にいたいからやっぱり送れば良かったとぼやく翼の子供のような態度を、桃はクスクスと笑う。



拗ねて唇を尖らせた翼の顔が・・・近づいてきた。





「え?」





2人以外は居眠りしているおじいさんだけの車内で・・・翼は桃に触れるだけの軽いキスをした。



びっくりする桃の顔を、今度は翼が可愛いと言って笑う。



「兄哥とはキスした?」



桃は首をフルフルと横に振った。


あちゃ〜っと翼は頭を抱える。

困った堅物兄哥だなと、ため息をつく。



「じゃあ、これは兄哥の分。」



そう言うと翼は、今度はもう少し長く桃に口づけた。





電車のスピードがゆっくりと落ちていく。


ゴトッと揺れて、唇が離れた。


翼の降りる駅に電車が近づく。


男にしては大きな黒い瞳の中に、目を見開いた(自分)が映っていた。




「今度兄哥とキスする時は、俺の分も一緒に2回して。」




なんだそれは?と桃は思う。


翼はとびきり可愛く笑った。



「じゃあ。桃。良いお年を。」



電車が駅に着いて、荷物を担いだ翼が上機嫌で手を振り降りて行く。



「・・・良いお年を。」



まだ呆然としたまま、桃は呟いた。


手を口に当てる。


やっぱり翼の“好き”は、よくわからない。




ガタンという電車の発車する時の揺れで目を覚ましたおじいさんが、1人赤くなる少女を不思議そうに見ていた。

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