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セカンド・アース  作者: 九重


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学園祭 13

 南斗高校学園祭フィナーレの舞台となる中央ステージを囲む生徒と観客は、一種異様な雰囲気に包まれていた。


「不正投票だ!」


眼鏡の奥から碧の瞳を光らせて仲西が糾弾(きゅうだん)する。


「いいがかりも(はなは)だしい。」


フンと吉田が鼻を鳴らして嘲笑(あざわら)った。



最高の盛り上がりを見せた学園祭のラスト。

ミス&ミスター南斗高校の発表が、今まさに行われている最中の事だった。


最初に、ミスターの発表がされたのだが・・・


大方の予想を(くつがえ)し、ミスターとして選ばれたのは、3年1組“吉田達也”であった。

僅差で2位が荒岡、その後に仲西、明哉と続く。


「荒岡がミスターでないはずがない!」


仲西は確信を持って言いきった。

昨年のミスコンで荒岡はミスもミスターもダントツの得票だったのだ。対して吉田はそれなりの票は集めるものの上位3位にも入っていない。

その人気が今年になって、それ程大きく変わるはずはなかった。

少なくとも仲西にはそんな変化は一切感じられない。


「お前たちの票は1年に喰われたんだ。」


仲西の言葉に怒ることもなく、上機嫌に吉田は解説してくれた。


「今年の1年は、多川を筆頭に女性好みの美形が多い。結果女性票はバラバラに割れた。残念なことに俺への票は男が中心だからな。しかも、俺を指示してくれる者は心変わりなどしない。」


吉田がそう言った途端、地を這うような野太い男の歓声が会場に響く。


「魏武帝陛下万歳!」

「陛下に忠誠を!」

「魏武帝陛下!」

「陛下!陛下!」


口々に男たちは曹操を称える。その声は大地を揺るがすかのようだった。

片手を上げてその大歓声に応えて、吉田は余裕綽々(しゃくしゃく)と笑う。


「!!・・・しかし!」


唇を噛んで、仲西はなおも自分の意見を変えなかった。

確かに吉田の言うような現象がなかったわけではない。それでも、自分はともかく、荒岡が吉田に負けるなど考えられなかった!


仲西は吉田を睨みつける。



「・・・陛下。」


そんな仲西に荒岡が声をかけた。

荒岡自身は、自分がミスターに選ばれなかった事をそれ程気にしているわけではない。むしろそんなものに選ばれない方が、面倒事に時間を削られる事がなくて良いとさえ思っている。

だが、自分のためにこれ程に怒ってくれている仲西の思いは、素直に嬉しいと思った。

その心に応えたい。


「票の開示(かいじ)を求めます。」


荒岡はきっぱりとそう言った。

票を開示すれば吉田の言う事が本当かどうかわかる。


吉田はニヤリと笑った。


「悪いが、それは無理だ。」


少しも悪がってなどいないような口調で、そう答えたのは城沢だった。


「無理?」


「何故だ!?」


「集計の終わった票の上に、うっかりアイスコーヒーをぶちまけてしまったんだ。」


それもコーヒーポットごと全部と、あっけらっかんと城沢は言った。8人分のアイスコーヒーを吸い込んだ票は判別不能になって捨ててしまったとも。


「というわけだ。」


吉田の細い目が笑みを浮かべる。


「貴様!ぬけぬけと!!」


仲西は激昂した。

どう見たって、不正をして証拠を隠滅したとしか考えられない。


他の生徒や観客たちもざわつき始めた。


「立ち合いをしたのは誰です?」


荒岡は冷静に質問する。


「俺と堤坂と岩間だ。」


スラスラと城沢が答えた名前は、生徒会メンバー・・・つまりは、バリバリの曹操の家臣ばかりだった。

堤坂も岩間も根は真面目な信頼のおける人物だが、彼らが吉田に逆らうはずはない。

しかし、ミスコン自体が生徒会主催の行事であるからには、その事に異議を申し立てるわけにはいかなかった。


「1年の“山本拓斗”は立ち会わなかったのですか?」


拓斗の前世である華キンは、謹厳実直、清廉潔白で有名な人物である。しかも2学期が始まったばかりの今はまだ、1年の桃の配下だ。拓斗であれば真実を話してくれるのではないかと荒岡は思う。


「あいつは生徒会のメンバーじゃない。」


吉田はしれっとそう答えた。

今までメンバー同様・・・いや、それ以上に扱き使ってきて、この場でその発言は厚顔無恥にも程があると言えよう。


「恥を知れ!」


仲西は頭から火を噴きそうな勢いで怒鳴った。



・・・一方荒岡は、何故そこまでして吉田がミスターになりたがるのかが不思議だった。


現に昨年までの吉田は、こんなミスコン自体に興味の欠片も無く、自分が何位であろうと気にかけた様子もなかったのだ。

むしろ、ミスとミスターになった者が、体育祭後さまざまな場面で学校の顔として引っ張り出される事を忌避(きひ)していたようにすら見えた。何かある度に、ミスに選ばれた女子と共に表に立つ荒岡に対し「ご苦労な事だな。」と皮肉に声をかけてきた事さえある。


(それなのに、何故?)


考えこんで・・・荒岡はハッ!とする。


そう。ミスターは、ミス(・・)に選ばれた者と、今後様々な場面で“一緒”に行動することになるのだ。


「・・・まさか?」


荒岡が愕然(がくぜん)と呟くと同時に、もういいか?と聞いて、返事も聞かずに城沢がミスコンの発表を続ける。



次は、ミス南斗高校の発表だった。


3位に文菜。2位に理子が選ばれる辺りは流石といえる。


そして・・・



「ミス南斗は・・・1年1組“相川 桃”さんです。」



城沢は、はっきりと桃の名を呼んだ。


荒岡が大きく舌打ちをする。


「桃さんが目的か!」


思わず怒鳴った。

気づいた仲西も唇を噛みしめ拳を握る。


ミスとミスターになれば、今後一緒に行動する機会は格段に増えるのだ。学校の代表としてペアでカップルのように振る舞う事を要求されることもある。

吉田がそれを狙ったのは、火を見るよりも明らかだった。


「残念だが荒岡、今回のお前のミスへの票も、桃に次いで第2位だ。」


もちろん無効票だがなと楽しそうに吉田は話す。


ミスターへの票の真偽はわからずとも、ミスコン全体の最高得票が荒岡なのは間違いない事だった。しかし、もちろんそれは、今のこの事態を何ら変える事はできない。



当の桃は、自分の名前が1位として呼ばれた事に呆然としていた。


「え?」


何かの聞き間違いかと思う。


「きゃあっ!凄い!やっぱり桃ちゃんだわ!」


桃の隣では、理子が我が事のように喜んでいる。


「え?え?」


桃はやっぱりわけがわからなかった。


そんな桃に苦笑しながら吉田が近寄ってくる。

桃の1位をやはり!と喜び合っていた利長たちが、ハッとして桃を庇おうと動くより早く、吉田は桃の手を取ると素早くサッ!と舞台に引っ張り上げた。


舞台に上がれるのは、ミスとミスターのみだ。

手を出すことができずに利長たちは歯噛みする。


うおおぉっ!と大きな歓声が周囲から上がった。


桃は、びっくりして目を瞬く。

まだ信じられなかった。


「しっかりしろ。俺の(・・)“ミス”。」


・・・桃の頭が、ようやく事態に追いついてくる。


「こんな事は、不正です!」


思わず桃は叫んだ。


「残念だが、仲西や荒岡が何をどう言おうと俺がミスターなのは、既に決定事項だ。」


吉田の言葉に、首を大きく左右に振る。



「・・・私が(・・)、ミス南斗高校だなんて、何かの間違いです!」



自分などより理子や文菜の方がずっと女の子らしいし美人だと桃は思った。彼女たちを差し置いて自分がミス南斗になんて選ばれるはずがないと桃は主張する。


驚きに細い目を見開いて・・・その後吉田は実に楽しそうに笑った。


「そっちか?ハハッ・・・やはり、お前はいいな。・・・安心しろ。お前の選出は、不正じゃない。」


お前は(・・・)、間違いなく皆に選ばれたのだと吉田は言う。


“お前は”の辺りが、何をか言わんやであった。


桃はやはり信じられない。


呆然としている間に、吉田が桃をピタリとエスコートして舞台中央に進む。

利長や翼、明哉たちから射殺すような視線が刺さったが、曹操がそんなモノを歯牙にもかけるはずもなかった。


なんだかわからない内に、桃は頭に可愛いティアラを被せられる。


よく似あうと吉田が桃の顔を覗きこんだ。



「まるで花嫁のようだな。・・・これから俺とお前は、南斗高校の代表だ。よろしく頼むぞ。俺の(・・)“ミス”。」



そう言った吉田は、桃のあごに手をかけて、驚いたまま固まっている桃の顔を上向かせ、自身は少しかがんで顔を傾けると・・・ほんのり赤く染まっている柔らかなその頬に、ゆっくりと周囲に見せつけるように“キス”をした。



歓声と怒号と悲鳴が、同時に沸き起こる!


「いやぁっ!桃ちゃん!!」

「魏武帝!」

「桃!」

「殺す!絶対、殺す!!」

「陛下!」

「このクソガキが!うちの可愛い娘に!」


何かおかしな声も混じって聞こえたような気がするが・・・大混乱の興奮の坩堝(るつぼ)の中、南斗高校学園祭は、無事?幕を閉じたのであった。

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