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セカンド・アース  作者: 九重


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学園祭 8

ストラテジーゲームの進行を見守る観客は、思いもよらない蜀チームの大胆な作戦に、みな目を(みは)っていた。


「自ら戦力を減らすなんて。」

「だが、確かに1つ1つの軍隊の力とスピードは格段に他のチームより上になっている。」

「既に7つの主要都市に取りついている動きは見事だ。」

「あの少ない戦力で全都市を維持できるのか?」


賛否両論戦わせて1年の動きと戦略を目で追い予想する。

刻一刻と動いていく戦況と三国の情勢から目が離せなかった。




一方、蜀チームの指揮に割り当てられた広い体育館を一目で見渡せる2階ギャラリーの一角では・・・桃が一生懸命理子たちに謝っていた。


「もう!ホントに心配したのよ。何も言わずにいなくなっちゃうから!学校中を捜したんだから!」


理子はプンプン怒っている。


「ごめんなさい。」


反対に桃は小さくなっていた。

オープニングセレモニー後連絡版への一文で姿をくらませた桃を、理子たちは怒っているのであった。


「この学校は無駄に広いんだから。いっぱい捜して、ものすごい疲れちゃったのよ。おまけに途中で貴志なんかに会っちゃうし。」


貴志って誰?と桃は思う。


「桃ちゃんを捜しているから、かまっている暇なんか無いって言っているのに、すごく焦った風に桃ちゃんがどうしたんだ?ってしつこく聞いてくるし、一緒に居た荒岡さんまで何だか急におろおろし出して。」


落ち着かせるのがとってもたいへんだったんだからと理子は口をへの字に曲げる。


荒岡が一緒に居たと聞いて、はじめて貴志というのが仲西の名前だと桃は思い出す。

仲西や荒岡にまで心配をかけてしまったのかと桃はますます落ち込んだ。


「そう言えば、お兄さまも吉田さんが何だか慌てていたと言っていましたわ。」


そう言うのは、理子同様桃に「とても、心配しましたわ。」とやんわりと注意していた2組の文菜だった。


文菜が言うには、文菜の前世の兄である猛と拓斗が2人1組で桃を捜している現場に、吉田と城沢が鉢合わせたのだそうだった。ただならぬ猛と拓斗の様子から事情を聞き出した吉田はひどく焦った風だったそうだ。


「もっとも城沢さんの方が大騒ぎをして、警察だのなんだのと言い出したので、それを必死で止めている間に桃さんが戻ったとの連絡が入って、事なきを得たそうですけれど。」




桃は、思わずこめかみを押さえた。


確かにみんなに見つからないように姿を消したのは悪かったかもしれないが、でも連絡版に伝言は残していったのだ。


(そこまで騒ぎを大きくしなくても良かったのじゃないの?)


どうしてもそう思ってしまう。

少なくとも仲西や吉田には黙っていて欲しかった。

それで、このストラテジーゲームが始まる際に顔を合わせた時に、睨むように見られたのかと桃は納得する。

言葉を交わす時間は無かったものの、怖い程真剣な顔で2人に見られて桃は不思議に思っていたのだった。

余計な心配させやがってと怒っていたのだなと申し訳なく感じる。


「絶対!もう二度と一人でどこかに行ったりしないでよ。」


理子に(すが)られた桃は、「はい。」と神妙に頷いた。


「約束してくださいますね。」


反対側から文菜に手を引かれ、桃はこちらにも「わかりました。」と返事をする。




左右両側に美少女を侍らせた蜀チームの代表である桃は・・・当然ながらゲームの進行の指揮を全く執っていなかった。


刻一刻と変化するゲームの局面に釘付けの観客が、この指揮エリアの様子を見ればきっと唖然とするだろう。

それくらい桃はゲームにかかわっていなかった。



実はそんな必要はどこにもないのである。


既に桃と明哉たちは、戦いの方針も攻略対象も手段もその他必要な事は全て繰り返し話し合いをして意思の疎通をはかってあった。

桃の意図は直接指揮を執る明哉も他の軍師たちも十二分に承知している。

事ここに至れば、桃が下手に口を出すことはかえって戦いの現場を混乱させる弊害を呼び起こすだけなのだった。


戦いの始まった後に優先されるべきは、現場の判断である。

実際に戦わない桃では、戦況をよく把握できず判断を誤る可能性が大きい。

臨機応変に対応するためにも口出しはしない方が良いのだ。


(それに、あんな複雑で綿密な作戦理解できないし・・・)


桃はこっそり心の中でため息をついた。


明哉と内山が中心になって組み上げた今回の作戦は、微に入り細に入り、相手の対応次第に寄って変化させる局面は、なんと数万通りにも上る。


(覚えられっこないわ。)


桃は早々に白旗を上げた。

確かに桃は、単純な作戦ではなく複雑な策を練って机上の空論を現実にしろとは言った。

言ったが、それにしたって限度というモノがあるだろうと思う。

ものの本によれば、将棋の局面の変化数は10の220乗、囲碁の局面の変化数は10の360乗あるのだそうだが、今回のゲームにおいて明哉たちが検討した局面の変化数はそれに筆頭するのではないかと思われた。

そこから厳選した数万通りなのだと言われて、はいそうですかとそれを理解できる頭など桃は持ち合わせていなかった。


「・・・任せます。」(訳:好きにしろ。)


桃はそう言った。


感じ入ったように深く頭を下げた明哉たちはゲームに集中している。

この指揮エリアに明哉と内山が詰め、各人形に西村や天吾たちがついて動かす様子は真剣そのものだ。


「相変わらず呉の守りは堅固ですね。」

「魏の策も臨機応変で、しかも攻撃力が昨年より強くなっています。」

「なかなかこちらの誘いには乗ってこない。」



桃を中心に、理子と文菜が少しでも桃を自分の方に引き寄せようと火花を散らせている直ぐ傍で、明哉と内山は戦況の分析に余念がなかった。


桃はそんな2人に目を向ける。


(楽しそう。)


そう感じた。


階下に目を転じれば、西村たちも生き生きとホワイトボード間を動き回っている。


ふとこちらを見上げた牧田と目が合った。

両脇に理子と文菜をくっつけている桃の様子に苦笑した牧田が小さく桃に手を振る。

桃も笑って手を振り返した。


ざわざわというざわめきが周囲に広がって行く。


「おい、見たか?」

「何かの合図なのか?」

「何をする気だ?」


憶測が憶測を呼び、動揺が客席と敵陣にまで広がる。




「桃ちゃん。これが終わったら一緒に回りましょうね!」


無邪気な理子の誘いに「そうね。」と頷く桃だった。

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