表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明暗の天才  作者: AKIRA
2/3

魔法の歴史

 魔法。 

 それがこの世界に登場したのは、2015年、123年前の事である。

 日本の札幌で生まれたその男の子は、生まれた時は健康な赤子そのものであったが、3歳の時に手のひらから炎を出現した。

 このニュースは瞬く間に全世界に広がり、当初テレビで放送された時はマジックだ、インチキだ! と騒がれた。

 その男の子が成長し、12歳の時に世界で2番目の魔法使用者がこの世に生をおとした。ドイツのアウグスブルグで誕生したその女の子は体を宙に浮かせてみせたのである。


 その後、3人目、4人目と生まれ、2065年にはその数は100を超えた。

 しかし、問題は、日本とドイツにしか生まれなかったのである。当時の学者は環境、血筋、病気、あげく宇宙からのエネルギーまで、様々な説をだしたが、正しいところは結局わからなかった。


 原因はともかく、こうして生まれた魔法使用者は国に手厚く保護された。結果、日本とドイツは高い軍事力を保有する事になった。なにせ、魔法は核兵器と同等もしくはそれ以上の能力をもっている。

 第二次世界大戦を経験し、ポツダム宣言を受諾し、平和主義を唱える日本はそれを絶対に戦争に利用しないと国民に発表した。

 ここで名乗りを上げたのは戦争主義の人間。「今こそ立ち上がる時。ドイツと日本国民は神に選ばれし選民であり、これは世界を支配しろとの神の啓示である」とうたい、魔法使用者を解放しろ、と政府にデモを起こした。

 

 同じようなことがドイツでも起こり、あと一歩で第三次世界大戦突入といったところで、他の国にも魔法使用者が生まれ、各国は睨み合いの情勢になった。魔法使用者を抑止力とし、世界中が火薬庫と相成ったのである。


 同時に、これは世界の終末の予兆であり、最後の審判の時であると考える宗教が一切の欲を捨てるべきであると、隠居する人間と、魔法に科学でもって対抗しようとする団体が対立。

 宗教の広範囲布教と、科学の急速な発展をもたらすことになった。


 魔法が生まれて123年。

 当時よりは様々な事が分かってきている。

 まず、魔法というのは血筋が大きく影響する。魔法使用者同士の間に生まれる子供は色濃くその能力を受け継ぐし、魔法使用者と一般人との間に生まれる子供も高い確率でその能力が遺伝する。

 無論、一般人同士でも魔法使用者が生まれる事もあるが、確率は低い。


 その中で、日本にも強い魔法使用者をもつ家が生まれた。

 政治的、経済的に強い権力をもつ、「御三家」と呼ばれる家である。(さざなみ)家、(かすがい)家、(いしずえ)家の三家である。

 それに次ぐ強い力をもつ三十二の家。三十二柱と呼ばれる家は御三家を支え、今や日本を支えている。

 

 魔法は学者の間で、3つの系統に分けられ、それが世間にも浸透している。

 基本系

 化学系

 物理系

 の3つである。


 基本系は、さらに5つに分けられ、炎・水・風・土・光の5つである。

 これらは、術式により、空間に炎や水を生み出す魔法である。人間は頭の中で術式を描き、それを空間に投射することにより、事象の改変を行う。


 化学系は、物質を改変する魔法である。

 これは術式を物質に直接投射することにより、水を水銀に変えたり、土を金に変えたりする。

 いうなれば、構造の改変である。


 物理系は、物理を改変する魔法である。

 重力を無にしたり、空気の流れを変えたりする。

 他の系統に比べ、強力に見えるが、これをうまく扱う人間はいない。


 今、全世界の魔法人口の90%は基本系である。

 残り5%がそれぞれ化学系、物理系。


 以上、魔法の現在と歴史である。




 この学校の試験の説明をする前にこの国の魔法教育について説明させてほしい。

 魔法が誕生し、多くの組織が生まれた。

 その中でも魔法に大組織と呼ばれるのが、魔法警察、魔法教育委員会である。


 魔法教育委員会により、小中学校の義務教育に基本魔法理論が組み込まれ、全国に魔法高等学校と魔法大学が相次いで設立された。

 魔法使用者の就職先としては、自衛隊、消防士、魔法警察官などに絞られる。そこでの仕事から逆算され、魔法高校での試験内容ではそれを意識した内容となっている。


 魔法理論。

 魔法実技。


 魔法理論の方に関しては、まあそれほど説明が要らないと思う。

 魔法の歴史、理論、仕組みなどをペーパーテストで試験する。


 問題は魔法実技である。

 これはさらに、術式展開速度、魔法展開速度、魔法(クオリティ)、魔法最大威力、魔法有効最大範囲の5つに分類される。


 そもそも魔法を発現する行程とは、

 ①術式を脳内で組み上げ、それを、例えば手のひらに投射。

 ②その術式に体内から魔力を流す。

 ③空間に発言した魔法を対象に当てる。

 といった具合である。

 

 術式展開速度は、言葉通り脳内でどれだけ術式を素早く展開し、投射できるか。

 魔法展開速度は、体内からの魔力をどれだけ早く術式へと流せるか。

 魔法質は、無駄のない術式と無駄のない力の量を試される。

 魔法最大威力は、機械により発現された魔法の力を測る。

 魔法有効最大範囲は、どれだけ遠くに魔法を届かせられるか。


 

 魔法高等学校の試験は魔法理論30%、魔法実技40%、一般強化30%で行われる。

 この成績によって、クラスが振り分けられるのである。






 さて、申し訳ないが石江雪斗の話をさせてほしい。

 学年の成績上位者であるAクラスの人間にはその得意魔法にちなんだ二つ名がつけられることが多い。俺にも二つ名が一応あったりする。


「無能」「頭でっかち」


 まあ、多分に悪意が込められている事は否定しない。

 現2Aの一部のメンバーを除いて、ほとんどの生徒は石江雪斗を落ちこぼれ、恥さらし、漣啓太の金魚のフンなど様々な蔑称でよぶ。

 

 なぜか?

 答えは簡単だ。


 魔法の攻撃性の皆無。


 俺の魔法実技の成績。

 術式展開速度を除くすべての項目において、0。

 

 え?

 

 と思われた方に説明させていただく。

 現在の世界の魔法の常識では、攻撃性のない魔法など確認されていない。

 つまり、俺の魔法は魔法として認識されていない。


攻撃できない魔法と一口に言っても、様々な例外は存在する。例えば、身体強化魔法。これは物理系の一種であるが、攻撃魔法ではない。そして、防御魔法。読んで字のごとくである。

しかし、攻撃魔法を全く使えないという魔法使用者は世界には石江雪斗を除いて、存在しない。

 もちろん、魔法が現れてから123年。前例のない魔法使用者などいくらでもあるだろうが、攻撃できない魔法使用者という異様さにデリケートになっているのだ。

 

 それで、攻撃できない魔法しか使えない俺は「無能」。

 魔法実技はほぼ0に関わらず、魔法理論の点が異様に高いため、「頭でっかち」という不名誉としか言えない二つ名を賜っているわけである。

 

 


 新学期初めての授業も終わり、男子寮へ戻ろうと廊下を歩いていると、廊下の先から顔見知りと思われる人物が歩いてきた。


「ご無沙汰しております。雪斗様」

「いえ、こちらこそ。お久しぶりです。椿先輩」


 艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、スラッとした体躯なのに出るとこは出て、体中から色気を醸し出している。三十二柱の一家、神無月家の一人娘にして「風の精霊(エアリエル)」の二つ名をもつ。

 

 神無月椿先輩。

 東京魔法高等学校の副生徒会長にして、漣啓太の右腕。

 風の魔法に関しては、高校生トップレベル。

 その清楚な雰囲気と、息を呑むほどの美人ということもあって、男子生徒から驚異的な人気がある。


 女子生徒の人気を独り占めしているのが啓太だとすれば、男子生徒から神と崇められているのが、椿先輩である。



「雪斗様。ちょうどお伺いしようと思っていたのです」

「? 俺にですか?」

「はい」


 ふむ。

 気のせいか、嫌な予感しかしない。

 

「申し訳ありません」


 謝られた。

 突然。

 俺の背中を汗がツツーッとつたっていった。これが冷や汗というヤツか。


「ええと、とりあえず頭を上げてください」

「ありがとうございます」


 先輩でもあり、俺よりもはるかに実力が上位である椿先輩に頭を下げさせている状況に耐えられなくなった俺は、とりあえず頭をあげてもらう。


「とりあえず、どうされたのですか?」

「……すみません。それを話せない事も含めて謝罪致しました」

「……」


 俺の中で恐怖心、懐疑心がムクムクと広がっていく。

 この人がここまで頭を下げるという事は、結構なおおごとである。それも、俺が被害を受ける類いの。


「あなたも苦労されていますね」

「……それはお互いさまでしょう」


 椿先輩が眉尻を下げて苦笑する。

 そんな表情も綺麗で画になる。


「大丈夫です。啓太のあれは、慣れています」

「本当にご迷惑おかけします。いつか、このお礼は必ず」


 椿先輩は頭を下げると廊下の反対側へと歩いていく。



 俺はその後ろ姿を眺めつつ、ため息を吐いた。

 


 

 


1/4日 加筆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ