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68(3)

 思わず振り返ると、霞美はぴんと背筋を伸ばしたまま、小刻みにレバーを動かし、絶え間なく発射ボタンを押し続けていた。クスリでも打ったように、完全に目が据わっていた。

 信じられない話だが、ほとんど無駄撃ちがないのだ。残像が生じるほどの高速でボタンが押されるたびに、確実に隕石が落とされる。この娘は、真面目なのだ。驚くべきは、その糞真面目さに、身体能力が追いついている点だった。

 あっという間に、ワンステージがクリアされ、野次馬たちがどっと歓声を上げた。いつの間にかゲーム機の周りは、黒山の人だかり。

 警告音が鳴った。

<未確認飛行物体接近>

 レーダーにはすでに、無数の機影が映っていた。銃座から通信回路が開かれたらしく、小画面に霞美の顔が映っていた。面倒だから教えなかったのに、もうこんな小技まで把握している。

「この照準なんですけど、長距離ビーム砲ですよね」

「こちらから仕掛けるというの? まあいいでしょう。好きにしたら」

「でも、まだ向こうが撃ってないのに、発砲しちゃうと……」

「だいじょうぶ、やつらはすでに、別のステーションを屠っている設定よ」

「じゃあ、遠慮は要りませんね」

 遠隔戦は、あまり得意ではない。というより、常に接近戦に持ち込んでいたから、ほとんど試していない。とりあえずセオリーどおり、大きめのデブリの後ろに回りこみ、静止状態に機体を保った。この体勢を維持するのも、操縦者として、なかなか骨が折れる。

「OKよ。お手並み拝見といきましょうか」

 頭上で光が走り、長く尾を引きながら、前方に消えた。少し間をおいて、ぼっ、と光の輪が広がった。命中だ。連鎖的に爆発が続いたので、何機か道連れにされたのだろう。

(巧いじゃない)

 長距離砲は、命中すれば得点が高い。現に、スコアはうなぎ上りに上昇を続けている。いくらだったか忘れたが、たしかゲーム会社との提携で、ある数字を越えれば、けっこう大きな賞金が出るのではなかったか。

 これまで二葉はほとんどスコアを気にしたことがなく、スカッとすればそれでよかった。賞金にも興味がなかったが、ここにおいて霞美が金を欲していたことを、思い出さずにはいられなかった。この手の賞金は、チャイナタウンの大食い大会同様、人間の能力ではまずとれないところに、設定されているわけだが。

(ひょっとすると、ひょっとするかも)

 レーダーに映る機影は、すでに三分の一以上が撃ち減らされていた。けれど、このまま素直にやられ続けてくれるほど、このゲームは甘くない。ステージが進んでいなくても、こちらのレベルを読みとって、反則的に強さを増してゆく。けっきょく二葉のやり方では、いつもすさまじい乱戦の中で撃墜されて終わりだったし、それはそれで楽しかった。

 警告音が鳴り、光の塊が目の前にせまっていた。大急ぎで逆噴射をかけ、デブリを身代わりに脱出した。その爆発がおさまらないうちに、逃げこんだ次のデブリも粉砕された。

「埒が明かないわ。接近戦に持ちこみましょう」

 とはいえ、あくまで背後のステーションを守るのが使命だから、不用意に突っ込むわけにはいかない。霞美が機転を利かせて砲撃を中止し、かわりに小型ミサイルを一斉に放った。敵はまんまと挑発に乗ってきて、見る間にスクリーン上に姿をあらわし、自機の周りを取り囲んだ。

 隕石と異なり、今度は敵の動きが複雑である。また向こうも発砲してくるので、エナジーシールドがあるとはいえ、直撃を食らえばたちまちお陀仏。

「望むところ!」

 ようやく本領発揮とばかりに、二葉は操縦桿に齧りついた。雨あられと降りそそぐビームを避け、体当たりをかわす。霞美は間断なく弾幕を張りつつ、相変わらず恐るべき正確さでビームを放ち、敵機を撃ち落としてゆく。とくに得点の高い高速機は、洩れなく落とされた。ギャラリーがどよめき、歓声や口笛が飛び込んできた。

 さんざん撃ち減らされた敵は、たまらず退却を開始した。逃げ惑う機体を、霞美は容赦なく掃討する。ひでえ、と野次馬の一人が叫び、どっと笑い声が続いた。敵機が目視できなくなった後も、レーダーは母船がまだそこにいることを示していた。霞美が放った長距離砲は、直撃にもかかわらず、母船に影響を与えなかったようだ。

「無駄よ。至近距離からでなければ、ボスは倒せない」

 そいつは不敵にゆっくりと近づいてきた。やがてスクリーンに映し出されたのは、球根型の巨大な円盤の周囲から、触手状の衝角がいくつも突き出ている、グロテスクな機体だった。中心には眼球をおもわせるコアが埋めこまれていた。エイジあたりが目にしたら、さぞ眉をひそめたことだろう。

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