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 たしかこのタイプは搭乗型と遠隔操作型の二種があり、外見上の区別はない。両腕にあたる部分が小型のガトリングガンになっており、弾帯をぶら下げた姿は、いかにもおぞましい。

 鉢合わせの戦闘に、火力の違いはさほどモノをいわない。何百年前だか知らないが、荒野にガンスリンガーが誕生した時代と同じである。より早く、より的確に、弾を撃ち込んだ者の勝ち。おれは片膝をつき、右側のやつの「眼玉」を、あやまたず撃ち抜いた。

 眼窩が火を吹き、斜めに傾いだチャペックは、あっちこっちの継ぎ目から火花を吐き出しながら、ガトリングガンを乱射した。マキはすでに身を伏せ、トリベノはリュックを盾に、うずくまっていた。抜け目のない爺さんだ。流れ弾を食らって、相棒の片腕が吹き飛んだ。打ち尽くしたところで、前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。

 その頃には、二体めの眼玉が吹き飛んでいた。念のため、おれは同じポイントにもう一発撃ちこんだ。そいつは一発も撃つことなく、文字どおり立ち往生したようだ。ざっとこんなものだと自賛したいところだが、こんな玩具にやられていては、処理班なんか勤まらない。

 ウンともスンとも言わないのを確かめてから、おれはチャペックに近づいた。ぐるりと一周してみたが、首をかしげるばかり。

「首を捻挫でもしたかの、お若いの」

「見てのとおりさ。胴体を開く仕掛けも見当たらなければ、アンテナらしきものもない」

 搭乗者もおらず、かといって操られている形跡もない。おのずと答えは一つに絞られる。すなわち、こいつはみずからの「意志」で動いていた、という。

 意味ありげに笑うばかりで、相変わらず爺さんは何も教えてくれない。が、ピルトダウン人なみのおれの頭脳も、幽霊船に来た当初から付きまとう符合に、さすがに気づいていた。眼玉だ。旧式にせよ、あんな眼玉のついた軍用チャペックなんか、見たことがない。そしてそれは、最初に襲ってきた掃討車と、明らかに同種の仕掛けである。

「問題なければ、先へ進もうかの」

 大ありなんだが。あえて黙っていると、トリベノはリュックを背負い、マキも立ち上がって、膝を払ったりしている。口答えしても仕方がなさそうなので、おれはまた先に立ち、ドアを潜った。

 真の闇ではなかった。中には薄明かりがあり、面前にそびえる、赤く錆びた金属の壁を、ぼうっと浮かび上がらせていた。どうやら壁が二重になっているようなのだ。ただ、内部の壁には屋根がなく、第一の壁の天井付近で切れいてた。支柱だろうか、円筒形の巨大な棒を囲むように、無数のパイプが絡みつき、天井の中心に潜りこんでいた。

 襲撃者があらわれる気配はなく、壁にはドアもハッチもない。そのまま壁に沿って、反時計回りに歩を進めると、赤いポスターがまたひとつ見つかった。ただし、これには光沢がなく、薄汚れて、所々、腐食したような穴が開いていた。明らかに、かなり以前に貼ったものとおぼしい。

「エイジ」

 マキの目線を追うと、壁の上に金属のステップが打ちこまれていた。一人が登れるくらいの幅で、上方の切れ目まで続いている様子だ。

 できれば御免こうむりたかったが、ほかに方法はなさそうだ。おれは火をつけた煙草をくわえて、ステップに手をかけた。乱暴に揺すってみたが、しっかり壁に食いついて、びくともしない。おれの下にマキが続き、トリベノがシンガリをつとめた。プルートゥは爺さんのリュックに飛び乗り、あくびをしているから呑気なものだ。

 こんなところを背中から狙い撃ちされては、ジ・エンドである。眼玉つきチャペックたちに、もうちょっと知恵があれば。そう考えると、ゾッとしない。しかも、さっきから何やら視線を感じて仕方がないのだ。動きを止めて辺りを見回し、トリベノの皮肉らしい視線とぶつかって、また登り始める。これを何度も繰り返した。

「五、六階建てのビルくらいはあるな」

 落ちたらお陀仏だ。と言う代わりに、煙草を吐き捨てた。あやうく唇を焼くほど、すっかり短くなっていた。赤い小さな点が、壁にぶつかって火の粉を散らしながら、はるか下方の闇に消えた。

 ようやくステップを登りつめた。もはや下を見る気力もない。ありがたいことにと言うべきか、壁の上辺は意外に厚く、ちょっとした通路ほどの幅がある。中心の円柱に向かって、四方から橋がかかっている。いや、これも支柱に過ぎないのか、街路からドームへ至る橋と似たような、ただの細長い金属板なのだ。

 足元の五メートルほど下まで、壁の内側には、なみなみと水がたたえられていた。こんな薄暗がりの中でも、その異様な青さが目についた。もし水の中に光源がなければ、こうは映らないだろう。現に、いくつかの弱い光点と、ひときわ強い一つの光が、青い水の中に確認できた。数匹の水棲ワームが、光の上を横ぎった。

 マキは仮面の上から口もとに手をあてていた。まるでほとばしる悲鳴か、もしくは吐き気をこらえるように。トリベノを見れば、四つん這いになって縁から身を乗り出し、じっと水槽の中を覗きこんでいた。日頃の皮肉屋はどこへ行ったのか、ううと苦悶するような声を洩らした。

「こいつが……バルブなのか」

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