第22話 1年前・卒業式当日の城下町酒場にて
エリカやマリネッタたちの卒業式の同日。
首都の酒場。
酒場には魔法力で映し出された映像が映り、そこには魔導士たちの卒業式典が華やかに映し出されている。
酒場にいる戦士や冒険者風の男や女たちは不機嫌そうにその映像を見た直後、それぞれの懐や鞄、さらには剣を吊るベルトのポシェットなどから何かのアイテムを取り出した。
金属でできた小型の板に何かの宝石の様な石が埋め込まれたそれを彼が指で押すと、控えめに光ってそこから映像が表示された。
魔道アイテム・造影晶
通信機能や各地の報道が見れるそれは魔導士技術者が開発した卓越した発明だった。
極めて特殊な魔法力と魔導技術者のハイレベルなスキルがなければ模倣することすら叶わず、帝国に次ぐ魔法技術を持つ共和国各国やエルフ、魔族、その他のモンスター系種族たちもリバースエンジニアリングの要領でコピーすることを試みているもののそれはできていない。
それのスイッチをオンにすると魔水晶が輝き、先ほどと同じ映像がどのチャンネルに変えても流れている。
この世界では魔法が高度な通信手段となっており、まるで電信やPCのように機能する。
キャスターたちも全員魔導士であり、報道機関は最低でも第2級魔導士ないしそれに準ずる資格と力を持つ者が多い。
「ケッ、魔導士魔導士ってえらそばりやがって!!そんなに魔法が偉いのかい!!」
「全くだ。おかげで俺らは下層扱い。腕力がなきゃ解決できねえことも多いってのによ!」
酒場で昼間から強いジンにビールを割った酒を本来ビールを入れる大ジョッキに入れて一気飲みする冒険者風の男たちがべらんめえ口調で愚痴をこぼし続けている。
机の上には食い散らかしたニシンの油漬けや、ピクルス、ハム、トマトの薄切り、鶏肉の蒸し焼きの残骸が乗った大皿が複数枚ある。
軽装の鋼の鎧に腰には両刃の鋼の剣を携えた戦士風の中年男は席に座りながら新聞を片手にそう吐き捨てるように言った。
他の席ではその様子に眉を顰める戦士たちもいる。
「ああやってやけ酒飲んでるようではあいつらも終わりだな」
「まあそれは厳しい意見だぜラストルフ。この帝国では帝国貴族と魔導士がすべてを牛耳ってて俺らでも相当の手練れでなきゃ戦うことすら叶わないんだからよ。他国ではそれなりの実力者なのにこの帝国じゃあ末端の雑兵にしか仕官できねえんだから荒れるのも無理ねえよ」
「ヒック!」
「俺らもやっとこさ地方のモンスター討伐と共和国との戦争で食っていけてる。共和国の魔導士はここのよりはるかに弱いから対処できるし」
「だがこの国の魔導士は強い、強すぎる、ヒック!おまけに戦闘だけでない、政治も奴らの意のままだ!」
「そりゃ魔導士も主要なのはみんな帝国の世襲貴族ですからね」
古より魔法が発達したこの世界では物理的攻撃は無力化される傾向が強く、火器の類は発達しなかった。よって魔法を使う魔導士の優位性は物理攻撃を主にする戦士階級などよりもはるかに高く、同時に世襲貴族が魔導士の教育ノウハウを独占に近い形にすることで政治的な力も絶大なものを持つに至った。
物理的な力で攻撃する者たちは魔力をも破壊する極めてハイレベルのクラスの者しかこの帝国ではまっとうな地位を得られていない。
ヴァールハイト帝国の魔導士たちの誇る防御魔法は他のそれとは一線を画していて、打撃では相当ハイレベルの戦士しか彼女たちのそれを貫くことはできない。
唯一の例外はラグナロク鋼の存在。
あらゆる魔法防壁を貫けるラグナロク鋼で出来た武具を用いればそれほど力がなくとも第一級魔導士の防御魔法すら貫いてダメージを与えることは理論上は可能である。
しかし、ラグナロク鋼で出来た武具は伝説上の逸品にしか用いられていない超レアアイテムで、しかも精製技術が秘伝であったためか再現して生産することは帝国の技術でもってしても不可能であった。
他の共和国、魔族たち、エルフ諸部族、モンスター系部族もこぞってそれを試みたがいずれも失敗した。
今となってはラグナロク鋼を精製する魔法術式をマスターした者は魔導士の中でも途絶えたとするのが定説となっている。




