第42話 LIVE 鴻鵠建設、帆置知彦の怪異解体配信 #怪異性ハシバミ除去 #後編
【カメラの映像】
ホイールを回転させたまま静止するバケットホイールエクスカベーター。
「では、ここで、新たに作詞、作曲した我が社の社歌をお披露目するとしよう。さすがにもう櫻衛建設の社歌を流するわけにもいかないからな」
バケットホイールエクスカベーターのスピーカーから和楽器混じりのオーケストラのイントロが流れ出す。
画面にクレジットが表示される。
鴻鵠建設社歌
作詞・作曲・編曲:『神童』
歌唱:沙津真ちぇすと[フォースウォールプロダクション]
『耐火』
【チャット欄】
・沙津真ちぇすと?
・VTuber
・Vに社歌歌わす気かこの社長
・これも時代か
・そういう問題なのか
・『神童』『耐火』ってなに?
・そういう怪異
・そもそもなんで社歌
・社歌=音響重機と思うとわかりやすい
・その考え方でいいのかよ
◇◇◇
【カメラの映像】
カメラが空中移動を開始、バケットホイールエクスカベーターのアームの上を映し出す。
そこに現れるのは、消防服風の衣装の少女型怪異『耐火』と、黒髪に和装、小さな帽子をアクセサリーのようにつけたVtuber、沙津真ちぇすとの姿だった。
マイクを持ち上げ、歌が始まる。
【チャット欄】
・Vが現実で受肉した?
・3Dお披露目どころの騒ぎじゃねぇぞ
・ホログラムとかコスプレイヤーとか?
・いや、さすがに再現度が高すぎる
・怪異とか異変のレベル
・あっちのヴォカロっぽいのはなんだ
・あれは本当にヴォカロっていうか、ヴォカロのゲームを作ってた会社がビル火災で壊滅したときに生まれた怪異。
◇◇◇
【カメラの映像】
起こせよ現場 轟け鉄輪
我らが名こそ 鴻鵠建設
大地を刻み 天を組み
形なきものに 秩序を与う
【チャット欄】
・普通に歌うまいな
・沙津真ちぇすとはフリーの歌い手からスカウトだから元々歌属性よ
・『耐火』さんは親の声より聞いたヴォカロ声
・もっと親の声を聞け定期
◇◇◇
【カメラの映像】
図面は誓い 計算は牙
正確無比の 一打ちで断て
崩れし祠も 悪しき館も
砕き築かん 次なる世界
オーケストラとボーカルが〈えいちさま〉と集落を飲み込む。肉の壁として立ちふさがっていた男たちが狂ったように絶叫し、バケットホイールエクスカベーターに突っ込んでいく。
だが、数メートルも行かないうちに足を止め、絶望に似た表情を浮かべ、嘔吐し、絶叫し、うずくまり、倒れ込んでいく。
【チャット欄】
帆置知彦:我が鴻鵠建設の社歌には破邪顕正、降魔調伏、交通安全、無病息災、安産祈願、学業成就、商売繁盛、五穀豊穣、国士無双、その他諸々八八種に渡るおめでたい利益がぎっしりと詰め込んである。〈えいちさま〉の影響で、今日まで洗脳状態だった人間が喰らえばただでは済まない。薬物依存の人間の身体から一瞬で全部の薬物を抜いたようなものだ。離脱症状で意識も消し飛ぶ。
・こっちで解説するんかい
・喋ると歌の邪魔だから
・社歌を食らわすな
・ご利益は草
・これまさか、交通安全の利益で停まって無病息災の利益で洗脳が解けてゲロはいてんじゃ……
・そっちかよ……
帆置知彦:いや、工事安全だ
・誤差だよそれは
・工事安全バリアーの恐怖
・ありがたやと拝めばいいのか草を生やせばいいのかわからないよ!
帆置知彦:拝みたまえ
・意味のわからん歌詞とご利益に神演奏と良ボーカルが乗って感情と脳がバグる
◇◇◇
【カメラの映像】
法より速く 理よりも深く
未来の礎 われらが打つ
名を残すなら 今この瞬間ぞ
道なき道を 均すは我ら
「レフ、倒れている連中を移動させてくれ」
帆置知彦は黒い身体に赤い翼の猛禽『副官』を放ち、前方で動けなくなった男たちを移動させ、バケットホイールエクスカベーターの前進を再開した。
一三五〇〇トンの大鉄塊のクローラからの振動に〈えいちさま〉の樹体が怯えるように打ち震え、電子レンジで加熱されたように煙を放ち、しなびていく。
【チャット欄】
・触る前からしおれていってる
・社歌パワーか
・歌の力ってすげー
・世間一般でいう歌の力とはだいぶ違うと思うが……。
・こーこくけんせつ♪
・おーおおー
・適当に歌うな
・はい! はい! はい! はい!
・らーららー
・ペンライト振りたい
・つっこめーっ!
◇◇◇
【カメラの映像】
鴻鵠建設 進めよ現場
止まるな重機 止まるな意志よ
掘れ、穿て、 打て、築け
我らの手こそ 世界を造る♪
社歌が終わり、沙津真ちぇすとと『耐火』がマイクを下ろして一礼する。
掘削円盤が〈えいちさま〉の根本へ食い込み、軽々とすくいあげる。
長く硬い根を引き抜き、引きちぎって、天に掲げるように真上に差し上げる。
〈えいちさま〉の幹が断末魔のような音をたてて破裂し、どろどろと樹液を吹き出した。
「仕上げと行こう。『副官』こいつを放り込んでくれ」
帆置智彦が空に向かって投げあげた爆発物マークつきのトランクを、巨鳥の怪異『副官』の爪が捕まえ、バケットホイールエクスカベーターに持ち上げられた〈えいちさま〉の幹の裂け目に押し込んだ。
「フィナーレだ。〈えいちさま〉の爆破を決行する」
スマートフォンの発破用アプリを起動。
パスコードを入力。
起爆ボタンを長押ししてカウントダウンを開始する。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……起爆!」
バケットホイールエクスカベーターに持ち上げられた〈えいちさま〉が光の柱に呑まれる。
【チャット欄】
・ゼロ!
・ゼロ♡
・ゼロ! ゼロ! ゼロ!
・粉☆砕!
・爆☆砕!
・完☆全☆破☆壊!!
・破壊☆ブレイク☆エクスプロージョン!
◇◇◇
【カメラの映像】
跡形なく焼き尽くされ、消滅する〈えいちさま〉。光が収まったあとに残るバケットホイールエクスカベーターの偉容。
パトカーのサイレン音が聞こえてくる。
【チャット欄】
・完☆全☆消☆滅☆DA!
・DAIKASSAI!
・徹☆底☆破☆壊
・天☆魔☆覆☆滅
・九☆蓮☆宝☆燈
・エクスカベーターさん無傷で草
・おまわりさんこっちです
◇◇◇
【カメラの映像】
パトカーから降りてくる警官、刑事たちが集落の住人を保護、拘束していく。
【チャット欄】
・あ、そっちか
・てっきり巨大重機暴走罪と樹☆木☆大☆爆☆破☆罪かと
・ニュース速報出た。東京都奥多摩町榛寿谷、殺人、監禁、死体遺棄などで強制捜査
・地名伏せた意味なかったな
◇◇◇
【カメラの映像】
「では、あとのことは警察諸君に任せて退散するとしよう。弊社の活躍と社歌に感動した諸君は忘れずにチャンネル登録と高評価をしていってくれたまえ。コラボ先の沙津真ちぇすとくんとフォースウォールプロダクションのチャンネルもよろしく。ではまた会おう」
画面が切り替わり、鴻鵠建設の社名ロゴと、協力フォースウォールプロダクション、沙津真ちぇすとの名がクレジットされる。
【チャット欄】
・終わっちゃった……
・相変わらず社長は相変わらずでなにより
・元気過ぎるわ
・いまごろ全方面大パニックやろなぁ
・まさに社長
・大☆喝☆采
・88888888!




