俺① ―プロローグ含む―
全6話。
「あなたはなぜ、無事なのですか?」
「――何も持っていないからです」
そう、他の奴らは溺れていった。自分に。
◇ ◇ ◇
「おめでとうございます!あなたがたは第23回転生者に選ばれました!」
まぶたを開けると、目の前は知らない天井だった。
俺は身を起こし、あたりをみわたす。
そこには、天使らしき女と、俺と同じような状況らしき男女数名が混乱した様子で座っていた。
「よって、転生前にチートスキルを一人一つ授けます」
天使(仮)がなにやら説明をしている。
「あなたが異世界に行っても困らないよう、スキルを選んでくださいね!」
なるほど、異世界にいく代わりにチートがもらえる、と――。
「チートは一覧から選んでもいいですし、認められる範囲ならば自分で考えていただいても大丈夫です」
「おれ!おれは未来が見たい!」
一番前にいた男が最初に名乗り出た。
「運命予知ですね、授けましょう」
そいつを皮切りに、他の人も欲しいチートを言っていく。
「あたしは心を読みたい!」
「他の人を従わせたい!」
「死なない体が欲しい」
そんな願いが、並べられていく。
「皆さんの申し出を受理しました。異世界へ行ってらっしゃいませ」
チートを望んだ者たちを送り出し、天使は俺に目をむけた。
「あなたはどうしますか?」
俺は少し悩んで、言った。
「自制心をください」
「克己心ですね、わかりました。それではいってらっしゃいませ」
終始真顔だった天使に送られ、俺は異世界へと旅立った。
◇ ◇ ◇
それから俺は、自律した生活を送った。
無駄に寝すぎることもない。
酒におぼれることもない。
堕落した生活を送っていた地球のころと決別するかのように。
病気や料理の知識など、こちらの世界の人には目新しいものも多かったようで、聞かれるたび快く答えた。
やがて仲間もでき、小さな村で小さな雑貨屋を営んで生活している。
「おーいハヤト、こっちは頼んだぞ」
今も仲間が俺を呼んでいる。
転生前より、ずっとラクに生きている――そんな気がした。