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第2章:最初の冬

島に寒波が訪れて数日が過ぎた。地表の草木は白く凍りつき、森林はまるで死の静寂に包まれたかのようだった。上空には分厚い灰色の雲が広がり、雪は今もなお静かに降り続いていた。鉱山労働者たちはキャンプの小屋に閉じこもり、ストーブの燃料を節約しながら身を寄せ合っていた。


ジャック・ローガンは鉱山の監督小屋から双眼鏡を覗いていた。遠くの火山の火口付近には雪が積もらず、もやのような蒸気が立ち上っているのが見える。「やはり、あそこは地熱がある……」


そんな中、カイ・ナンブはピーター博士、動物学者のサラ・ブレイク、植物昆虫学者のハロルド・グリーンらを伴って、火口へ調査に出かける準備をしていた。ピーター博士が言う。「この雪の中でも、火口には何か生命の兆しがあるかもしれません。禁断の地だという伝承はあるが、科学的な証拠が必要だ」


カイは首を振りながらも、彼らの後を追う覚悟を固めていた。祖父の言葉が脳裏をよぎる。「火口に近づくな、パラヤーダはそこに潜む」だが彼には分かっていた。もし本当に何かが起きるとしたら、今しかない。


調査隊は凍った木々の間を慎重に歩き、雪に足を取られながらも徐々に高度を上げていく。空気は薄く、吐く息は白く濃く、風が体温を奪っていく。


やがて、一行は火口の近く、岩が露出し雪が溶けている場所へと辿り着いた。岩の隙間からは蒸気が吹き出し、空気は不思議な湿気と硫黄の匂いを含んでいた。ハロルドは興奮を抑えきれずに岩場に近づく。「これは……間違いなく地熱活動の影響だ。植物の成長に必要な条件が揃っている」


サラは双眼鏡で周囲を観察しながら、「動物の足跡は見当たらないけど、何かがこの場所を利用している可能性は高いわ」と呟いた。


ピーター博士は、手帳を取り出して火口周辺の観察を記録する。「アボリジニの伝承では、この火口は“命を与えし場所”とも呼ばれている。死と生、両方の象徴なのかもしれない」


カイは黙って岩場の奥を見つめていた。その目には警戒と、何かを思い出すような遠い光が宿っていた。彼はまだ言わなかった。あの岩場の奥に、ある植物が生えていることを。祖父から、何度も言われていた禁断の実──パラの存在を。


この時はまだ、誰も知らなかった。 数日後、この場所を訪れるのは、飢えた獣たちであるということを。




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