54.大団円(1)
さて、あの後、例の音声記録を行うペンダントを国王に渡し、それから国王は王妃と話し合いの場を設けた。
王妃ははじめこそはしらを切っていた。国王に音声記録を聞かせられ、借用書を突き付けられたのち、マートリー男爵との面談を行っても、だ。音声記録から、そこにマートリー男爵がいることは明らかだったものの、マートリー男爵の声はうめき声しか入っていない。王妃は「マートリー男爵の方から話があると言われたので、あのサロンに通したのだ」と言い張ったが、では、借用書とは何だ、と追及をされて言葉に詰まった。
これらのやりとりには、マリウスが同席をした。彼はホロゥを見ることが出来るため、王妃がホロゥを使おうとすればわかるだろうとのことで国王に呼ばれたのだ。一応「ジェルボー前公爵が被害者だったので」という表向きではあったが。
しかし、ありがたいことに王妃はホロゥを使わなかった。彼女はなんらかの能力でマリウスと同じように、ホロゥを祈りの間から連れ出せる。それははっきりしていた。だが、その数は少ないし、ホロゥが使える期間も短い、要するに弱い。だから、コンスタンツェが人の体内に入った時のようにすぐではなく、マートリー男爵がサインをするのに時間がかかっていたのだろうとマリウスは推測をした。
更に、彼女が操れるホロゥの最後の一体は、あの顛末で慌ててティアナたちを追わせてしまい、ティアナに切られてしまったようだった。もう、彼女は次に祈りの間に行く時にしか、あるいは、滅多にはいない市井の間にほんの時々浮いているホロゥを探すしか、ホロゥを手に入れることは出来ないのだ。
そして、コンスタンツェが以前聞いていた「もう一人の男」は、多分金貸し屋、つまるところマイツェンの息がかかっていた者で、王城御用達として出入りをしていたマイツェン家の商人ではないかということで、話は終わった。まだ、この件は調査が続くものの、マリウスが聞ける話はここまでとのことだった。
それから、これは余談だが、ティアナは残念ながら、魔力の扱いがまったく進歩していないとローマンに言われた。だが、彼はとくに上から怒るわけでもなく「魔力に気付くところから始めているのだから、時間がかかるのは当たり前だ」と言ってくれた。それに、少しは救われた気になる。
「まだ完全な王妃の自白には至っていないんだけど、少なくとも王妃が神殿に訪れることはなくなるみたいだね。それから、マイツェンとの癒着が別にもあったことも発覚して、そちらが大きな問題になっている。確かに、マイツェンが王妃付きになったのは5年も前だし、その当時から何かしらあったんだろうさ」
とはいえ、国王は問題をあまり大きくしたくないようだった。王妃の手によってなされた借用書騒動は、それぞれの者たちに王族の国庫から金を返し、他言無用としたようだった。ジェルボー公爵家は、それを受け取らなかったけれど。
今日もマリウスの部屋で、上質な茶を振舞われながら彼の報告を聞くティアナ。最近ではエントランスで執事に出迎えてもらって、そこから案内人も断ってさっさとマリウスの部屋に1人で来る。すっかり慣れてしまい、更に彼女はお茶のお替りまで申し出る始末だ。
「王妃がホロゥを使って人を操れるようになったのは、2年ぐらい前だっていう話なんだよね」
「ふうん」
「ふうん、じゃないんだよ」
マリウスはそう言いながら「あげる」と自分の焼き菓子をティアナの方へと押しやる。ティアナは「ありがとう!」と微笑んで、さっそくそちらに手を伸ばす。その遠慮のなさを、彼はにこにこと笑うだけだ。
「それ、どうしてかわかるかい」
「わからないわ」
「君が聖女になって、ホロゥをたくさん切ったからじゃないかと僕は思うんだよね」
「……え?」
一体どうしてそんなことに、ときょとんとして、焼き菓子にフォーク入れた手を止めるティアナ。
「2年前ぐらいから、僕も少しずつホロゥの扱いがうまくなっていった。そして、君に会う数か月前ぐらいから、引っこ抜けるホロゥの数も増えたしね。それは、自分の修行の成果か何かなんだと思っていたんだけど……」
「違うの?」
「あの当時、君は祈りの間にいるホロゥをもう本当に一人残らずというぐらい、ざくざく切っていただろう?」
マリウスの話によると、どこまで信ぴょう性があるかはわからないが、あの宝剣にはホロゥから魔力を抽出する役割があるのではないか、ということだった。
「え? でもそれじゃあ、わたしの魔力が増えるのと、マリウスの力が増えるのと、何か関係はあるの?」
そうティアナが言うと、ぬるりとコンスタンツェが体内から出て来た。
「そうかもしれないわねぇ~! あの宝剣は、ほんっとうに宝剣なのよ。もう、代わりの魔道具は作れないっていうぐらい、とびっきりのね!」
きゃは!と笑うコンスタンツェ。マリウスは苦々しい顔で
「君はどこまで知っていて、どこまで黙っていたんだい」
と冷たく告げた。
「やぁだぁ、違うわよ。ねぇ、ティアナ、言ったでしょ。わたし、生前のことはそこまで覚えていなくて……でも、たくさんのホロゥの残滓を取り込んで大きくなっちゃったんだって……」
そう言って、くるりと回るコンスタンツェ。
「わたし、混じり物だから時々色んな記憶が出てくるの」
「そんな君に尋ねたいんだけど。あの祈りの間の像はなんなんだい?」
「残念ながらそれは知らないってば。あの像から神託を得るなんて話も知らないわ。でも、ホロゥをたくさんあの部屋に集める役割を担ったせいで、何か、こう、バーンって力を得たんじゃない?」
マリウスは嫌そうな表情で「ええ?」と言うが、コンスタンツェは真面目な表情だ。
「昔の魔法使いたちは、すごい探求心があって、そして、実験したがりだったのよ。だから、そんな、なんていうの? えーーーと、一大……一大計画? であの祈りの間を作ったり像を作ったりしていたら、像に何か仕掛けをしていてもおかしくないと思うのよねぇ。それが、何がどうなって神託を得られるまでパワーアップしたのかはわからないけど!」
なんてね!と笑いながら、再度くるくると回るコンスタンツェ。ティアナの中で休むことが増えた彼女だったが、外に出ている時は案外元気そうだ。力を抑えるとか、そういう考え方はないのだろうかと呆れるティアナ。




