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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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49.マートリー男爵を追う

「どの人?」


「ここからじゃ見えないけど、えんじ色のジャケットに黒のパンツを履いている人よ」


「うーん?」


 目を細めてコンスタンツェに言われた方向を見ても、えんじ色のジャケットに黒いパンツなんて、なかなか見つからない。それにいらだって、コンスタンツェは「ああーー!もう!」と叫ぶ。いつもと違って彼女の姿が見えない状態なのがもどかしいし、それはコンスタンツェも同じなのだろう。だが、それでもコンスタンツェは姿を隠したままだ。


「ほら、もっとあっちに近づいて頂戴。これじゃあ、わたしが彼の様子を見るにも見られないじゃない」


 ティアナはコンスタンツェに急かされて歩き出した。すると、なんとなくあの人ではないか、と辺りがつく人物にようやく気付く。


「あっ、動いちゃう! 先に行くわね!」


 見れば、マートリー男爵は広間の両脇についている複数のドアのうち、最も奥まったドアから外に出ていこうとしている。彼を案内している人物に、ティアナは見覚えがあった。マイツェンだ。慌てて彼らを追う。見逃しては、逃がしてはいけない。そのためにも本当はマリウスに来てほしかったが、彼を呼んでいる暇はなかった。


 だが、今の彼女はどこでどう歩いても目立ってしまう。コンスタンツェがティアナから離れて先に向かっているようだったが、通路に出たティアナを呼び止める声が後ろからかかった。


 それを聞こえていない振りをして歩こうとしたが、相手はどうやら走って来たようだ。後ろから「大聖女様」と言って、手首をつかまれる。そんな風に異性の体に簡単に触れることはマナーとしてはよろしくない。だが、ティアナはマナーがどうこうという以前に、先にコンスタンツェに行ってもらっているのに……と、そちらの方が気がかりで心が急く。


「なんでしょうか」


「どちらに行かれるんですか」


 見れば、年のころはそうティアナと変わらなそうな男性だった。だが、顔には見覚えがない。王城の舞踏会に参加している時点で貴族であることはわかっているが、ただそれだけだ。


「えっと……」


 どちらに、と言われてしまうと答えに窮する。こちらこそそれは聞きたい。一体自分はどこに行くのか。だが、さすがにそう聞くわけにもいかない。ただ、行く先に兵士が立っていることは薄々気づいてはいた。


「そちらは王族が立ち入る場所ですよ。どこかと間違えたんじゃないですか」


 だが、ティアナは今や「大」聖女だ。彼が言う「王族が立ち入る場所」は、先日パトリックの父親であるランメルツ伯爵に案内をされた記憶がある。とはいえ、それをそう説明するのも面倒だ……そう思うティアナに、彼はぺらぺらと言葉を続けた。


「僕は王城の中は結構詳しいので、僕に聞いてくだされば案内出来ますよ。舞踏会で出入りが出来る広間以外にも、庭園や、いくつか見ることが許可された場所がありますから」


 そう言って、男性は少し強くティアナの手首をつかむ。それどころではない、と振りほどこうとするが、案外と彼の力は強い。


「まさか、今日大聖女様とお会い出来るとは思っていませんでした。そのう、僕が出した手紙は、読んでいただけたのでしょうか。そうだ。あなたは公爵令息と婚約をなさっているという話ですが、それは本当ですか? さっきダンスを踊っているところを見ましたが……彼はああ見えて変わり者ですよ?」


 マリウスのことを「変わり者」扱いするその男に、ティアナは幾分むっとして言い返した。


「申し訳ありませんが、あまり手紙を読むのは好きではないんです。それに、毎日たくさん手紙を受け取っていますし、お誘いはみな断る方向でお返事をしています」


 はっきりとそう言ったものの、男は引き下がらない。このままでは、手が、足が出てしまう……しびれをきらしたその時、ティアナの耳に救いの声が響いた。


「僕の婚約者から手を放してくれないかな?」


 ティアナの手をつかんでいた男性は振り返る。そこには、静かに、けれど何やら怒りを抑えたような難しい表情をしているマリウスが立っている。


「ちっ……っ! マリウス……」


「やあ、バルドゥール。久しぶりだね」


 その声音はいつもの彼のものより、少しばかり低い。


「マリウス、お知り合い?」


「うん。まあね。知ってはいるけれど、仲は良くないよ」


 そう言いながら、マリウスはティアナと男性の間に割り込むと、いまだにティアナを掴んでいる彼の手を強く握る。


「離してくれるかい? 彼女にきちんと断って、体に触れているのかい?」


 そう言って、マリウスは軽く首を傾げる。彼の瞳は冷たくその男性に注がれている。ちっ、と小さく舌打ちをした男性は


「お前、どうやって大聖女様に取り入ったんだよ。お前みたいなやつがさぁ……」


 と、本音を口にした。


「どうだろうが、君には関係がないよね? 僕たちはもう婚約をしているんだしさ。言っておくけど、君、パートナーを放置してティアナに声をかけに来るなんて、よっぽどじゃないか。さっさと会場に戻るといい。彼女は僕が庭園に連れていくよ」


 マリウスがそう言うと、男性は悔しそうな表情を浮かべてから、それでもティアナに礼をしてその場を離れた。彼が会場に戻る扉を開けて中に入ったのを見届けてから、ティアナは「はぁ~……」と息を深く吐き出す。


「ありがとう、マリウス。助かったわ」


「いや、僕こそごめん。君を一人にしてしまって……大丈夫かい?」


 ティアナはマリウスを見上げた。彼は心配そうにティアナの肩に手をかけて覗き込んでくる。その手の温かさにほっとしたと同時に、なんだか体の力が抜ける。


「ああ……ちょっとだけ、怖かった、みたい」


「そうか。ごめん。少し休もうか」


「で、でも、コンスタンツェが……」


「コンスタンツェがどうしたんだい?」


 そこでティアナはコンスタンツェが先に行ってしまった――とはいえ一定以上はティアナから離れられないだが――ことと、マートリー男爵がこの先にいること、そして、どうやらそこは「王族しか入れない」場所だということを伝えた。


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