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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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48.王城での舞踏会(4)

 ティアナは緊張をしていたが、マリウスが「大丈夫だよ」と言ってリードをする。人々からの視線は気になったし、ほかのペアたちのダンスも気になって、どうにもティアナは視線をきょろきょろとあちこちへと向けてしまう。


「ティアナ」


「はっ、はい!?」


「僕だけを見て?」


「んえっ!?」


 一体何の話だ、とティアナの声が裏返る。が、マリウスはそれを「緊張しているのだな」と思った様子だった。


「公爵家で練習していた時みたいに、僕のあごあたりだけ見て、集中して」


「あっ、あっ、そうね」


 公爵家でマリウスと練習をしていた時、どこを見ていいのか困っていたティアナに、マリウスは「顎」を見るように勧めた。目を合わせるのはなんとなく気恥ずかしいし、かといって、女性側が男性を見るように少しだけ顔をあげないのはおかしい。なので、顎。


 そんなことを思い出させてもらったため、ティアナは「顎……顎……顎……」と、ひたすらマリウスの顎を見て、音楽とマリウスがかすかに囁く「1,2,3……」というカウントだけを聞いて、足を動かしたのだった。




 ようやく1曲踊り終わって、ティアナはもうそれだけでへとへとになり、マリウスと共に踊りの輪から抜けた。「体力には自信があるのに、気力が伴わないわ」と言って、彼女は壁際にあるソファへとマリウスと共に向かった。


「今、飲み物を取りに行ってくるから。ちょっと座っていて。その後、ぐるりと一周回ってから離れよう」


「ありがとう」


 気力が伴わないどころか、少しだけ人にあてられた。ううん、とティアナは少し背をソファの背もたれについていると、知らない男性の2人組が「大丈夫ですか」と声をかけてくる。


(ああ~、面倒くさいことになってしまったわ……)


 悪気はないのかもしれない。善意でもないかもしれないが。大丈夫です、と言っても、彼らはティアナの前に立って話を続ける。10代後半の2人組は、どうやら侯爵家の傍系の令息とどこぞの伯爵家の令息らしい。


「2か月前に白銀の聖女に手紙を送ったのだけど、読んでもらったかな? もちろん、誘いへの断りの手紙が届いたから、読んではくれていたと思うんだけど……」


「ええっと……」


 正直なところ、どこの誰からどんな手紙がきたかなんて、何一つ覚えていない。ティアナは曖昧にもごもごと困ったように口ごもる。


 マリウスは一体どうなっているんだ、と、男性2人の間から目線を更に遠くへやると、マリウスはマリウスで、どうやら女性たちに捕まってしまったようだった。頼みの綱のパトリックはパートナーと3曲目のダンスを踊っているようだし、もうこれは詰みか……とティアナは投げやりな気持ちになる。


(第一! わたしとマリウスは婚約者同士なのに、どうしてそこに他の異性がやってこなきゃいけないの!?)


 むむ、っと口を軽くへの字にするティアナ。自分のところに来ている男性たちも男性たちだが、マリウスを囲んでいる女性たちも女性たちだ。婚約者がいるんだから、放っておいてくれないか……それはともかく、どうしようか。うまくこの2人を追い払っても、ほかの男性が自分をちらちら見ている……ティアナはううん、と困った。


 と、その時。見慣れぬどこかの貴族令嬢が、ティアナの前に立つ2人の前にすすっと入って来た。ぎょっとした男性に


「大聖女様は少しお疲れのご様子ですよ」


と言って、彼女はたどたどしい声音で「大聖女様、こちらへ」とティアナの手を取った。ソファから立ち上がったティアナは「申し訳ありません」と、彼女に手を引かれるままに歩く。


「あの、助けていただいてありがたいのだけど、どちら様ですか?」


 そのティアナの問いに答えず、その令嬢はバルコニーにティアナを連れていく。ありがたいことに、そこには誰もいない。白塗りの椅子に令嬢は座ると、がくりと目を閉じて体の力を抜いた。そして、彼女の体からはコンスタンツェがするりと出てくる。


「ああ~、他人の体を操るのは一苦労すぎるわ……この程度が限界……」


「まあ、コンスタンツェだったの!?」


「そうよ。ねぇ、なんなの? マリウスは。あなたのこと放っておくなんて、許せないんだけど。あっ、でも、ダンスはまあまあだったわ。まあまあね」


 そう言ってコンスタンツェはバルコニーの手すりに座って――風に見えるだけだ――ティアナに告げた。


「違う違う、それどころじゃないのよ。ね、どうやら、公爵に使った手口と同じ方法で、今晩マートリー男爵って人に借金をさせるみたいなのよ」


「ええっ!?」


「もしかしたらと思っていたけど、もしかしちゃってたみたい。でも、わたしがいける範囲では、もうマートリー男爵の姿が見えなくて」


 そう言ってコンスタンツェは「だから、あなたが必要なのよ」とティアナに言う。


「マートリー男爵? 一体どんな方かしら。わたし、わからないのよ」


「ええっとねぇ、なんかえんじ色のジャケット着てる人」


「ええ?」


 まずはこの会場のどこかにマートリー男爵がいるのかどうかを確認しなければいけない。とはいえ、ティアナが一人でうかうか歩いていれば、また同じように男性たちに声をかけられてしまうだろう。バルコニーからちらりと様子を見るが、マリウスは女性たちに囲まれながらも、ティアナを探して視線をさまよわせているようだった。


「ううんと、マリウスのところに……」


 ティアナがそういうと同時に、コンスタンツェは「いたわ! マートリー男爵の声が聞こえた。あっちよ!」と叫んだ。


 さすがに耳が良い。彼女が「あのたくさん集まってる、黄色いドレス着ているご令嬢のあたり!」と指示した場所は、人が集まりすぎている。ティアナが目を細めても、一人一人をしっかり見ることが出来やしない。


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