47.王城での舞踏会(3)
「いいお友達ね、マリウス」
「多分そうなんだとは思うよ」
一応それは認めるマリウス。パトリックも「そうだろう、そうだろう!」」とにやにやと若干人の悪そうな表情でマリウスを見る。
「まあ、最初にわたしが声をかけて、人々を少しは牽制をしておいた方が良いと思うぐらいは、マリウスはあまりこういう場に出てこないからね」
「それは感謝をしているさ。最初からティアナ目当てのやつらに声をかけられていたら、うんざりしていたところだ」
「本当は、みな、うずうずしているだろう。ティアナ嬢目当てで。始まるまでは僕と話をしているといいさ。特に何か用事がなければ、だけど」
「君、パートナーは? クナープ伯爵令嬢かな?」
「そう。彼女なら、あそこで友達と談笑をしている。わたしも先ほどまでは他の友達と話をしていたが、いやあ、あまりにマリウスが珍しいのでね」
ティアナは驚いて
「そこまでわたし目当ての方なんていらっしゃらないでしょう? 婚約者もいるんですもの。それに、皆様パートナーがいらっしゃいますよね?」
と言ったが、パトリックは「いやいやいや」と首を横に振る。
「そんなことはないさ。大聖女となれば、時には国をひっくり返す神託を得る。たとえばだけど、その神託を自分の利に還元しようとするやつらがいたとする……」
「まあ、そんな大した神託なんて」
「ありますよ、ティアナ嬢。たとえば、どこそこの鉱山で土砂崩れが起きて、このままでは鉱山から採掘が出来なくなる……なんて神託が来たとしましょう。もし、その鉱山と競合をしている鉱山を、わたしが所有していたら?」
「……」
マリウスが「おい」とパトリックを小突いた。
「まあ、そういうわけです。勿論、受けた神託を曲げて伝えるなんてことは、聖女にあるまじき行為だ。そして、そんなことをマリウスは許さない。彼は案外とこう見えて、国に対してはまっすぐな人なのでね」
それへは反論を口にするマリウス。
「こう見えてっていうのはどういう意味だい? それに、僕は国に対してまっすぐではないよ。ただ、どうでもいいと思っているだけだ」
「おやおや、未来の宰相が」
「それは、弟の方だ。僕は、どうでもいいが、民の生活は守りたいと思っているだけだよ」
その会話をティアナの中で聞いていたコンスタンツェはぬっと出てきて「マリウスって素直じゃないわよね」とティアナに言うものだから、ティアナは吹き出しそうになる。
と、直後。楽団のラッパが高らかに鳴り響いた。舞踏会が始まる合図でもあり、王族の入場の合図でもある。人々は手に持っていたグラスをテーブルに置いて、みな前方を見る。一旦楽団も演奏を止め、会場はしん、と静まり返る。
「あっ、よろしくないわね。姿を消すわ」
そう言ってコンスタンツェはすっと姿を消す。その静けさが、王族を迎え入れるものだと彼女は気づいたからだ。万が一、王族の誰かが聖女の力を持っていて彼女がみつかると問題になる可能性がある。かつ、ティアナの中に入らないということは、ここで起きることを全部しっかり知りたいということだろうか。
直後に、王族の名乗りが室内に響いた。広間の奥の大きな扉が開き、そこから国王、王妃、そして王太子2人や王女が続く。広間にいる多くの人々は、一斉に王族に対して礼をした。
「みな、面をあげるが良い」
高い位置に用意をされていた玉座に座った国王は、低く響く声で皆に告げた。室内は静まり返っているため、彼の声は風魔法を使っていない。だが、それでも広い会場で朗々と響く国王の声は、心地が良いものだった。
「本日も舞踏会を開催出来たこと、非常に嬉しく思う。半年に一度のこの機会、みな、大いに楽しんでもらいたい」
あっさりとした言葉だったが、国王からはそれだけだった。どうやら、毎月開催はしてものの、半年に一度の時しか国王の挨拶はないのだと言う。人々が国王に一斉に礼をすると、ほどなくして楽団のラッパが鳴った。
「それでは、王室主催の舞踏会の開幕です。まず、1曲目は……」
と、音楽と共に曲の紹介が行われる。パトリックに話を聞くと、4つの曲で1巡、それが4回繰り返されるのだと言う。最初の1巡目までは、曲紹介が行われるとのことだった。
「ティアナ。僕たちは2曲目だけを踊ろう。君が出来るダンスは2曲目と3曲目だけだと思う」
マリウスもその「4曲」についてはあらかじめわかっていたようで、彼女にそう言って微笑んだ。パトリックは「失礼」と言って、自分のパートナーの元へ戻っていく。
「ちょっとだけ、ぐるっと回ってくるわねぇ~」
声だけが聞こえる。相変わらずコンスタンツェは王族に警戒をしているのだろう。ティアナは軽く「うん」と頷く。
1曲目が流れている間、周囲からの視線が多少気になって居心地が悪い。仕方がないとはいえ、マリウスに、ティアナに、明らかに人々の好奇の目は向いている。それを、2人とも「面倒だな」「面倒ね」と呟いて、互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「2曲目を踊り終わったら、分かれる前にぐるりと歩いて来よう。コンスタンツェが行ける範囲を広げてあげないといけないからな」
「確かにそうね」
「さ、じゃあ、ティアナ。曲が変わるよ」
1曲目と2曲目の間を埋めるように、音楽の調子が変わる。それまで踊っていた人々のうち何組かは互いにパートナーに礼をして、再び男性の手に女性が手をのせて、軽やかに中央から抜けていく。抜けた人々は、給仕の者からグラスを受け取り、壁側に置いてあるソファに座ったり、あるいはそのまま料理が並んでいるところへ行ったりと、人それぞれだ。
そして、それとは逆に2曲目から入る組は、そっと混じって、やはり互いに礼をする。礼の間すら、リズムをとっているようで、互いに目を見かわしてすぐに2曲目のイントロに合わせて足が動き出す。何度か同じリズムを繰り返しながら、音が大きくなっていき、やがて2曲目が始まる。




