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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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36.マリウス来訪(1)

 ティアナは王城図書館から借りた書物を夜遅くまで読んで、翌朝寝坊をした。寝坊と言うのは、単に彼女が「最近ちょっと体がなまっているから!」と、朝から鍛錬をしようと思っていたからだ。


「はぁ~! とはいえ、体は動かさないとねぇ~」


 そう言って、ティアナは身支度を整える。ドレスではなく、乗馬をする時のようなパンツスタイルで、軽装なシャツ。どうせ、体を動かした後はそれらを脱いでしまうのだし、わざわざきっちり着込むこともない。楽な恰好で、髪を後ろにひとつに結って木剣を持った。


 与えられた別荘で唯一不満があるとしたら、剣の鍛錬を出来そうな場所がないということだ。仕方がないので、庭園の一部の植物を移動させ、無理やり場所を作った。その植物は門のあたりに並べられ、若干「何故ここにこんな植物が?」と思うような、少しばかりおかしな状態になっているが、ティアナは気にしない。


 木剣を振る。もともと、幼い頃から剣の鍛錬はしていた。正直なところ、そう腕前は良い方ではないと思う。少なくとも、実家の領内の騎士たちと比べれば。だが、祈りの間でホロゥたちを倒すぐらいで考えれば、十分に役立っている。


 最初、コンスタンツェは面白がって、木剣を振っているティアナに話しかけていた。しかし、すぐに飽きたようで「もうちょっと寝よ」と言ってティアナの体の中に入っていった。それを、ティアナは止めない。コンスタンツェが自分の体を出入りすることへの抵抗も、もはやまったくないと言ってもいいだろう。


「お嬢様」


 しばらく無心で木剣を振るっていると、アルマが声をかけにくる。手を止めて、ティアナが「どうしたの」と言えば、アルマの後ろにマリウスの姿が見えた。ティアナは、ひゅっと木剣を肩にあてて、とんとん、と叩きながらマリウスに近づく。


「いらっしゃい、どうしたの? マリウス?」


「君、本当に剣の鍛錬なんてものをしていたんだね?」


「そうよ。でも、今は相手をしてくれる人もいないので、ちょっと寂しいわ」


「僕が相手を出来ると思う?」


「思わないわ。剣を持っているあなたって全然想像出来ないんだけど、実際のところはどう?」


 その質問に、マリウスは両腕を横に開いて、手のひらを上に向けた。どうやら、実際のところも何もなく、彼は剣術とは縁遠いらしい。くすくすと笑うティアナを見て「まあ、そういうことだよ」と、苦笑いを見せながら言う。


「もしかしたら、動きやすい恰好も君に贈った方がよかったかな?」


「それは大丈夫よ。使用人たちが着ているシャツと同じものを着ているだけだもの」


「ええ?」


 ひっくり返った声を出すマリウス。


「君は本当に、ご令嬢なのかなぁ~、疑わしくなってきたな」


「まっ、失礼ね」


「最近思うんだけど、僕が変わり者だとしたら、君は相当な変わり者だと思うよ。ところで、いいのかい、鍛錬を途中でやめてしまって」


 ティアナはばつが悪そうな表情で、少しだけ唇を尖らせて言い訳をした。


「そもそも、鍛錬はもっと朝早くやるつもりだったのよ。今日、わたし寝坊をしてしまってね……だから、明日頑張るわ」


 自分が「相当な変わり者」だと言われたことに対しては、特に何も感じていないようだった。ティアナからすれば、肯定こそしないまでも「勝手にそう思っててちょうだい」程度の気持ちなのだ。


「そうなのかい。でも、そのおかげで君が木剣を振るう姿を見られることが出来てよかった」


「えっ、よかった……?」


「うん」


 一体何が良かったのか、とティアナは尋ねようとする。が、その言葉に彼からの質問が被せられた。


「君、大聖女とやらになったんだって?」


「あっ、そうなのよ。話が早いわね。でも、何がよかった、ですって? あ、こちらにどうぞ」


 手招きをして、庭園の隅っこにおいてあるベンチに座るティアナ。そのベンチは彼女が鍛錬の途中で休憩をするために置いてあるもので、他に誰も使いやしない。そこへ、マリウスも「失礼するよ」と腰をかける。アルマの姿は既にない。


「で、大聖女って何なんだい? 陛下に話を聞いたけど、よくわからなかったんだ」


「わたしもわからないわ。そして、多分陛下もわかってはいないのよ」


 そりゃどういうことだ、とマリウスは口をへの字にして見せる。ティアナは自分が大聖女になったいきさつをマリウスに話した。


「そんなわけで、わたしは報奨金とやらを今までよりたくさんもらえて、王城や外の王族の施設などに入れることが出来るようになって、それから、魔法は使えないっていやーな太鼓判を押されて」


「陛下に結婚をせっつかれて、そして、魔石に魔力を入れる仕事が増えそうだ、ってことだね。そりゃあお疲れ様だ」


「そういうこと!」


 はあ、とティアナは大げさにため息をついて、肩を竦めて見せた。改めて話すと、まったく本当にただただ「お疲れ様」と言われるだけの案件だ。報奨金が増えたとはいえ、1割だけという話。もちろん、それはそれで嬉しいが、特に男爵家としてはその辺りは何も期待をしているわけではない。


「マリウス、陛下にわたしとの結婚を早くしろとか言われたんでしょ?」


「うん? うーん、どうだったかな? 陛下の話の半分は聞いているけど、半分は聞いていないんだ。どっちかというと、ここ数年のあれこれの愚痴みたいなものを聞かされていたから、そっちの印象しかないや」


 そう言ってマリウスは笑い飛ばした。ティアナは「聞いていたくせに」と思ったけれど、それ以上は追及しない。


「ところで、今日コンスタンツェは?」


「今、寝ようっていって体の中に入っていったわ。コンスタンツェ、寝てる? 起きてる?」


 返事はないし、中から出ても来ない。どうやら眠っているようだ、とティアナは答えた。


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