31.王城図書館(2)
「ここかしら……」
古めかしい扉を開ける。年季が入った書物が並んでいるが、それらは保存魔法がかけられているようで、かび臭さや湿気はない。魔法院で魔法を学んで卒業した者の半数以上は、王城に所属をする。その中で、保存魔法を使える者はこの王城図書館や王城の宝物庫などに就職をするとティアナは聞いたことがある。
『ゴ利用アリガトウゴザイマス。オ名前ヲ頂戴シマス』
扉を開けると、まず手のひらにのるサイズの小鳥の置物が置いてある。ティアナが室内に足を踏み入れた途端、その置物が「しゃべった」。驚いて「えっ!?」と声をあげるティアナ。コンスタンツェが驚きの声をあげる。
「まあ! 絡繰り人形の中に魔石を入れて動いているのね!」
だが、当然コンスタンツェの声はその「小鳥」には聞こえない。
「え、ええっと……ティアナ・カーラル・アルベールです……」
恐る恐る、その小鳥の置物に返事をすると『照合シマシタ』と告げられる。なるほど、受付で名乗った魔石と照合をしているのか。どういう仕組みで照合をしているのかはさっぱりわからなかったが、なんとなくそれは理解を出来た。
『コノ書庫ノ説明ヲ聞キマスカ? ハイ、カ、イイエ、デ答エナサイ』
「えっ? えっと……いいえ」
『読ミタイ書物ハ何デスカ』
「えっと……聖女について、です」
『聖女。ソノ単語ガ掲載サレテイル書物ハ2冊アリマス』
驚きの表情になるティアナ。これなら、上の階でもこうやって尋ねさせてくれればいいのに、と彼女は思ったからだ。だが、コンスタンツェが
「これは、昔の道具ね。魔法使いが沢山いた頃のからくり人形だわ。魔石に、この部屋の中にある書物の情報を入れたんでしょうね。きっと、同じことを出来る人は今はいないから、上の階の新しい書物のことは、同じように説明出来ないんだと思うわ」
と説明をしたので、なるほど、そういうことかと理解をした。王城図書館は何百年も昔からあるものだし、300年ほど前には、まだそうやって魔法使いが沢山いたのだと言われている。
「コンスタンツェ。あなたがいつ生まれた人なのかはわからないけど、どうして魔法使いが今は少ないのかご存じ?」
「ご存じよ!」
そう言って、コンスタンツェはまたティアナの頭上で、膝を抱えてぐるりと回転した。よほどそれが気に入っているようだ。
「むかーーーーし、むかしの、大昔。この国にはたーーーーっくさん魔法使いがいました」
コンスタンツェは「うふふふ」と笑う。ティアナは、静かに彼女の次の言葉を待った。
「たーーーーっくさんの魔法使いが、たーーーーっくさんの魔石に自分の魔力を入れて流通させてね。そりゃあ、王城はお金持ちになったのよ。魔法院は王城の管轄だしね? 魔法院に集った魔法使いたちの力はそりゃ大きかったし、魔法使いたちが国を牛耳っていた時期があった」
「それで? それで?」
「魔法使いたちは、遺伝で自分の力を子供に引き継がせようとすると同時に、もっと大きな力が欲しいと考えたの。そこでね」
ふわふわと浮いていたコンスタンツェは、すっと降りて来た。彼女は、すとん、と床に立って、まっすぐティアナを見る。
「魔力は人間のどこにあるのか、解明をしようとした」
「どこに……?」
「体なのか。体ではないのか。どこだと思う?」
「体ではない……? それは……」
ティアナはゆっくりと口を開いた。
「魂、ということ?」
「そっ。そこで、魔法使いたちは、失われた魂、死した魂から、魔力を抽出する術を編み出したのよ」
「死した魂から、魔力を抽出する術……」
「そして、なんと、魔法使いたちは自分たちのものにしたの。死んだ魂から抽出した魔力を。あの、祈りの間に集められた魂たちから魔力を抜いて」
「!」
「自分たちがもともと持っていた魔力に、その魔力を上乗せした。魔法院にいた魔法使いたちは全員、誰もかれも。王様も、それを良しとした。ところがね」
コンスタンツェは、首を軽く傾げて、微笑む。
「魔力を足した魔法使いたちの魔力は、子供に受け継がれなかったの。呪いだっていう噂が広まったけど、実際のところは何も解明されていないの。そのおかげで、次の世代で一気に魔法使いが減ってね。これを、王族は隠ぺいをしようとした。そして、聖女が生まれたのよ。魂を正しい形で天に還すことによって、その呪いを消してくれるだろう存在として」
「ええ~!? そんなこと、なにも聞いていませんけど!」
「そりゃそうよ! 聖女の形はどんどん変わってきてるみたいだしね。大体、あの像から啓示をもらうってなぁに? ほんと、最近の聖女って凄いのねぇ~、そんなことが出来るなんて」
「ええー!?」
そのティアナの声に反応をして、小鳥の像が
『ゴ利用ハオ静カニ』
とティアナに注意をする。ティアナは肩を竦めて苦笑いを見せた。
「ねぇ、コンスタンツェ。わたしたちもっと、話し合った方がいいと思うのよねぇ」
「そう? わたしが教えられるのはこれぐらいのことよ。あとはよく知らないわ」
そう言って彼女は再びふわりと宙に浮いた。話は終わり、という意思表示なのだろうとティアナは思う。
「じゃ、書物を2冊。貸し出してもらおうかな!」
ティアナはそう言って、小鳥の置物が教えてくれた書物を書架から抜き出した。小鳥の置物が『貸出ノタメ術ヲカケマス』と言って、何かの魔法を書物にかける。
「何かしら」
「さあ? でも、ここに入れる人間が限られてるってことは、貸し出しをしても他の人に貸せないっていうか読ませない魔法とかそういうのじゃない?」
「ああ~、そうか。確かに。でも、持ち出しは出来るのね?」
「さあ? 出来るのと出来ないのがあるのかしらねぇ。わからないけど!」
そういってくるりと回るコンスタンツェ。よくわからないが、何か魔法がかかっていて、そして貸し出しは出来るようだ。部屋を出る時にティアナは「ありがとう」と小鳥の置物に告げたが、それへの返事はない。だが、扉を閉めるときに
『ゴ利用アリガトウゴザイマシタ』
という声が聞こえた。次にあの小鳥の置物が誰かに話しかけるのは、一体いつなのだろう……ふとそんなことを思ったが、ティアナはそれを口にはしなかった。魔石に注入した魔力はこうやって後世に残り続けている。公爵家と祈りの間を繋ぐあの通路を照らすものや、行き来する乗り物を動かす魔石など。それらは残っているのに、親から子へと魔力は引き継がれなかったのか。
(でも、王族の子孫は……ホロゥたちを見ることが出来る場合がある。なんだか不思議ね)
など、もろもろを考えながら、ティアナはコンスタンツェと共に別荘に戻ったのだった。




