30.王城図書館(1)
さて、コンスタンツェを「連れて」帰宅したティアナだったが、その翌日彼女は王城へ足を運んだ。とはいえ、用事があるのは城そのものではない。王城と連絡通路で繋がっている王城図書館だ。
コンスタンツェは馬車から降りたティアナの肩付近にふわふわと浮いており「まあ! 王城!」とわくわくとした声をあげた。
「王城に興味があるの?」
「あるわ」
あっさりと答えるコンスタンツェ。だが、それ以上王城について彼女は特に何を語るわけでもない。
「でも、王城だと誰かに見られちゃう可能性があるから、あなたの中にいるわね……図書館ならね、大丈夫だと思うのよ。王族は滅多にあんなところに来ないでしょう?」
そう言って彼女はティアナの中に引っ込んだ。ああ、そういえば王族の女性がもともと聖女の素質も持っていて……という話を聞いていた。なるほど、と思うティアナ。
折角王城に興味があると彼女は言っていたのに、自分の中に入ってしまうのは少し可哀そうだと思う。とはいえ、だからといって「出てきて」と言うのも申し訳ない気がする。本当に王族で「見える」者がいて、彼女をみつけたら色々厄介だし……と、ティアナは仕方なく「ごめんなさいね」と小さく呟いた。「いいわよ」と声は聞こえないが、なんとなく聞こえた気がして、少しだけほっとする。
(それにしても、コンスタンツェは王城に詳しい。滅多にあんなところに……ですって)
彼女は王城の侍女か何かだったのだろうか。あるいは、もしかして王族所縁の者だったのかもしれない。何にせよ、コンスタンツェ自身が口にしないということは、あまり聞かれたくないことなのだろう……そう思いながら、ティアナは王城図書館に足を運んだ。
「わあ、本当に大きいわ……」
王城の敷地はまだとんでもなく広い。そして、その敷地内に、王城、神殿、魔法院、そして王城図書館がある。魔法院と王城図書館は敷地の中でも入り口側で、検問の回数が少なく入れる場所だ。
何百年以上も昔に設置された王城図書館は、設立当時から貴族しか使用が出来ない。基本的には魔法院の者たちか、王立の学術院に通うものたちがほとんどだ。勿論、ティアナも利用をするのは初めてだ。受付で自分のサインをして、出入りを管理する魔石に手をかざす。それから、何かよくわからない魔石に対しても「ティアナ・カーラル・アルベールです」とも名乗らされる。
広い図書館内はがらんとしていた。ティアナは知らなったが、今日は学術院で有名講師の講演が行われており、誰も図書館に足を運んでいないようだ。
「ううーんと……」
ティアナは受付担当者に「神殿について書いてある書物はどこにありますか」と尋ねた。担当者はティアナのサインを見て、彼女が聖女であることを理解したようで、すぐに教えてくれた。
「古いものになれば、地下の書庫にあります。聖女様でしたら、そちらに足を運べますので、どうぞ」
なるほど、今までまったく自分の「聖女」という肩書きについて考えたことはなかったが、こういったところで優遇されているのか……そう思いながら、ティアナは教えてもらった書架に向かった。
正確には「聖女について」を知りたかったが、なんとなくそれを言うのは憚られる。神殿について書いてある書物を調べれば、副産物的に聖女についてもわかるのではないかと思って、つい取り繕ってしまった。
「あまり多くはないわね……」
正直なところ、ティアナはあまり書物を読むのが得意ではない。だが、マリウスがあれだけ聖女についてだとかホロゥのことを知って、自分でホロゥを「引っこ抜いて」連れ出すことが出来るようになったのだ。自分だって、自分の力のことを調べたりして、何か他に出来るかもしれない。それには、まずは勉強をしなければ……と、必死に書物をめくる。
「ううーん、コンスタンツェ。あなた、図書館のことはご存じない?」
書架の前に並ぶ椅子に座って、周囲を見渡して誰もいないことを確認して、ぽつりと小声で囁く。すると、コンスタンツェは「なぁに?」と、ぬるりと姿を現した。
「あっ、図書館の中に入ったのね?」
「ねぇ、図書館のこと知っている? 聖女について書いてある書物とか、ここの棚以外にあるかしら?」
「そんなことわたしがわかるわけないでしょ! 初めて来たわ、こんなところ!」
「そうなのね。なんだ、あなたなら何か知っているんじゃないかと思ったのに」
そう言いながら書物を書架に戻し、ティアナは立ち上がった。地下に向かう階段は部屋の中央にある。人の出入りを受付の者が見渡せるような作りになっているらしい。コンスタンツェはティアナの体に寄り添って「へぇ~!地下があるのね!」と興味津々の様子だ。




