28.幼い頃のマリウス(1)
「でも、そうね。わたしがこうやってあなたからの力を得る前から大きな霊体、ええっと、ホロゥって呼んでいるんですっけ? それだった理由はわかるわ」
「そうなの?」
眉間にしわを寄せるティアナ。それへ、コンスタンツェは真剣な顔で頷いて見せる。
「ええ。あなたは、あの祈りの間でホロゥを切って、天に還しているでしょう? あれと同じことをわたしも出来るのよ」
「ええっ!?」
「多分なんだけど、わたし、聖女の素質があったんだと思うのよね。それに気づいたのは死んだ後だからわからないけど……それで、あのね、あの祈りの間に浮いているホロゥ。あれって、ある程度の大きさのものが揃ってる感じでしょ?」
「そうね」
「でも、あれらより小さいものが結構実はいてね……祈りの間に集められたものの、もう意思も何もないような、小さいもの。だけど、天になかなか還れない、何かの未練を抱き続けている者。わたし、その小さいホロゥを空に還してあげたら、何故かわたしが大きくなったのよ」
「ええ? 空に還す? どうやって?」
ティアナは驚きの声をあげた。
「最初はよくわからなかったのよ。ただ、小さいものがあるなぁって思って近づいていったら、なんか、わたしの体に溶けちゃって……空に還すというか、吸収っていうのかしら? よくわからないんだけど」
コンスタンツェの声音が変わる。静かに、だがどこか凛とした響きを持って、彼女は言葉を紡いだ。
「全然、意思とかも伝わらないのよ。だから、わたし思うの。あれは、魂のように見えるけれど、魂ではない、魂から零れ落ちてしまった何かの残滓だって。小さいから、あなたの目には映らないかもしれないけど、そりゃああの部屋にぽろぽろ零れているのよ。で、あなたに切ってもらうわけにもいかず、ずうっとあそこにいるの」
彼女が言うには、ホロゥである彼女は、他のホロゥも触ることが出来るのだという。とはいえ、あの空間では半透明の白い球体が、同じく半透明の白い球体に触るだけ。だが、彼女が説明をしている「小さなもの」に触れると、それは消えてしまうのだと言う。
「最初は、触ったら消えるんだって思ってたけど、それを繰り返して、はっと気づいたらわたしの体が大きくなっていて……あっ、あれよ、体ってこの体じゃないわ。あの、白くてふわふわ浮かんでいるやつよ」
「そうなのね」
とはいえ、よくわからないのよ。よくわからないことだらけで、わかることと言ったら「自分はよくわからない」ってことだけなの。あなたと同じ……そう言ってコンスタンツェは笑う。
「それでね。ずっとあの部屋の奥の角にいたの。そうしたらさ。マリウスが来るようになって。あのねぇ、マリウスが小さい頃、本当に可愛かったのよ!」
「えっ!?」
そのコンスタンツェの言葉にティアナは驚きの表情を見せた。
「小さい頃のマリウス? 知っているの?」
「知っているわぁ~!」
けらけらと笑いながらコンスタンツェはくるくるとティアナの頭上で回転をした。
「最初にあの部屋に入って来た時は、父親と一緒だったわ」
前ジェルボー公爵に連れられて、マリウスが祈りの間にいったのは、今から遡ること10年以上前のことだ。当時の彼はまだ12歳。それでも、ジェルボー前公爵は「この家の長男として生まれたからには」と言って、彼をそこに連れて行った。
「さあ、入っておいで。ここが、神殿の祈りの間だ。大きい声は出してはいけないよ」
「えっ、ち、ち、父上……」
隠し通路からの隠し扉を開けて、ジェルボー前公爵はマリウスをそこへと導いた。だが、隠し扉に隠れて、彼はなかなか出てこない。
コンスタンツェはその当時「少し大きくなっている」という自覚があった。そして、なんとなく祈りの間で「目立たないようにしよう」と思い、天井に近い隅っこの方へと移動をする。
「これ、これ、は、何、ですか」
「何、とは? いいから来なさい。我々は、あまりこの中では動くことが出来ないが、王族は違う。王族に何かがあった時には、この祈りの間から、この隠し扉を使ってわれらジェルボー公爵家に向かうことになるのだ」
コンスタンツェはじいっとその2人を天井のあたりから見下ろしていた。だが、マリウスはがくがくと震えて
「こ、こんないっぱいいるなんて……今まで見たものより、どれも大きい……!」
と小さく呟く。
「何を言っているんだ?」
前公爵はマリウスの手をとって、隠し扉から無理やり引きはがした。最初は怯えていたマリウスだったが、やがて、浮いているホロゥたちが「自分がたまに外でみかける霊体」とそう変わりがないことに気付いて、手を伸ばしたりする。




