26.王城の催し(2)
「男爵家は王城から離れているから、名乗りをあげるだけにしていただいていたのよ」
「なるほど」
この国では15歳になった貴族令嬢は、王城主催のダンスパーティーでデビュタントを飾ることが常となっている。それは2年に一度催されるため、中には16歳のものもいるが、男性にエスコートをされて、みなの前で踊ることになる。
だが、ティアナのように領地が王城より遠い貴族は特別に免除をされ、名前の読み上げをすることでデビュタントをしたことになる。
勿論、デビュタントをした女性たちは、そのまま婚約者をそのパーティーで捕まえたり、あるいは捕まったりと、展開があることがほとんどだ。ティアナのように読み上げだけの令嬢は、その機会を失うためなかなか男性と出会って、そこから婚約者を作ることは難しい。とはいえ、それを彼女はまったくなんとも思っていなかったわけなのだが……。
「なんにせよ、その、来月行われるそれに行けばいいっていうことかしら?」
「そうだね。来月のものはデビュタントが関係ないものだが、大きいはずだ。僕も普段は断っているんだけど……」
マリウスがそう言うと、ラルフがこそりと「その辺りが、マリウス様の人気のなさなんですよね。ずうっとお断りをしていて……」とティアナに囁く。なるほど、そんな定期的に開催されている大きな催しにも公爵令息が行かないなんて、そりゃあ、一体あの令息はどうなっているんだと人々の噂にもなるだろう。ティアナのように領地が遠いわけでもない、こんなに王城に近いのに。社交界好きな令嬢からは特に敬遠されるに違いない。
「陛下からは、呼び出されないの?」
「今までは呼び出されなかった。きっと父が頭を下げていたのだろうね。今は、弟が行ってくれている。いや、申し訳ないとは思っている」
言葉では謝罪の意を表しているものの、その声音に申し訳なさは滲んでいない。ティアナは内心で少しだけ彼の父親と弟に同情をした。
「そんなわけで、次回の催しに君が招待されたら、僕と一緒に王城に行ってみよう。勿論、コンスタンツェが……それまで、生きていたらだけど……生きて……?」
「生きてないけどね!」
そう言ってコンスタンツェは膝を抱えてソファの上でぐるりと一回転した。マリウスはそれをもうどうとも思っていないようで、話を続ける。
「万が一君が招待されなくても、僕のパートナーとして一緒に行くことが出来るから、それは問題ないよ。一応形ばかりでも、毎回うちにも招待状が届くから」
「わかったわ」
そんなわけで、マリウスの指から放たれた霊体が途中で戻って来たりもしたが、一応彼らは話し合いをして解散になった。ティアナは仕方なく「じゃあ、わたしの家に戻る?」とコンスタンツェに尋ねると、コンスタンツェは
「そうね。でも、疲れたからちょっと姿を消していてもいい?」
と言う。ティアナは「姿を消す?」と戸惑いがちに問う。
「それは、わたしたちにとって見えなくなるだけで、そこにいる……っていうこと?」
「それも出来るし、あなたの中で眠ることも出来るわ」
そう言うやいなや、コンスタンツェは姿を消した。結局彼女が「そのまま姿を消した」のか「ティアナの中で眠った」のかは判明しなかったのだが、ティアナとマリウスは顔を見合わせて
「もう少し彼女から生態を尋ねた方がいいかもしれないなぁ。生態っていうか、生きてないけど……ややこしい!」
「そうね」
とお互いに頷きあうしかなかった。
「これじゃあ、君をデートに誘うこともうまく出来やしないな……」
「えっ? デートは大歓迎よ!」
「コンスタンツェを連れて? 今みたいに君の中で彼女が眠ってくれていればいいけど、いつ起きるのかと思うと冷や冷やする」
「あら、どうして?」
「どうしてって、それは、うーーーん」
マリウスは苦々しく声をあげる。それから、ティアナを見て「どうしてだろうね?」と尋ねるものだから、ティアナは笑った。
「変なの。あっ、でもマリウスが変なのは最初からか。じゃあ、あなたが変でもそれが普通だから、変じゃないのね?」
「何を言っているのかわからないけど、まあいいや……」
君が楽しそうなら、それが一番だ。そう言って、マリウスは肩を竦めて見せた。




