23.3人と1人(?)の話し合い
ティアナが公爵家に到着すると、ほぼ同時にラルフをのせた馬車が公爵家の門をくぐった。どうやらあちらもティアナに気づいていたようで、先に邸宅前で馬車を下りてから、ティアナを待っていた。
「こんにちは。聖女ティアナ様」
「こんにちは、ラルフ」
コンスタンツェと並んで挨拶をするティアナ。だが、ラルフにはコンスタンツェの姿が見えないようで、まっすぐティアナだけを見ている。
「突然マリウス様から呼び出しが来たので、慌てて飛んできました。あなたとご一緒なのですねぇ」
「あぁ~……えっと……そう、そうね」
きっと、マリウスはコンスタンツェが先ほど言いかけた話をラルフに聞かせたいのだろう。また、ラルフに彼女が見えるのかも確認したかったのかもしれない。2人はあれこれと会話をしながら馬車から離れ、公爵家の扉を開ける。そこまでの間、コンスタンツェは、わざとラルフの目の前で浮いていたり、ぐるぐると膝を抱えて回転をしながらついて来たり、あれこれとおちゃめなことを繰り返す。おかげで、ティアナは何度か小さく噴き出して、その都度ラルフに「何かありましたか?」と尋ねられることになってしまった。
エントランスで執事が出迎えてくれて「マリウス様からお伺いしております。どうぞ、お通りください」と簡単に彼らは二階へと通された。
公爵家は、今日もマリウスの弟妹は不在とのことだった。弟は宰相見習いとして王城に行っているし、妹はどこやらで何かの茶会に参加しているだとかなんだとか。マリウスの弟は大変だな、とティアナは心の中で思った。
マリウスの部屋をノックするラルフ。中から「入って」とくぐもった声が聞こえ、ラルフは扉を開けてからティアナを「どうぞ」と先に通した。
「マリウス様。ティアナ様と入口で合流しましたので、ご一緒いたしましたよ」
「ラルフ、遅いな」
「ええ!? これでも、かなり早い馬車を荒く走らせてきたのになぁ……」
そう言って口をへの字に曲げるラルフ。だが、マリウスに促されて、彼の横におとなしく座る。ティアナは「失礼します」と言って、マリウスの向かいに座った。
「や、ティアナ。さっきぶり」
「ええ。ちょっと遅くなったかも。ごめんなさい」
「いいさ。ラルフと同時に来てくれたなら、それが正しい」
そのマリウスの言葉にラルフは「ええ? わたしの時は……」と更に苦々しい表情を見せる。
「その様子だと、コンスタンツェは見えないって?」
と、マリウスはティアナに尋ねた。すると、ティアナではなくコンスタンツェが「そうなのよ!」と言って笑って、また膝を抱えて一回転する。
「こんなことも、こんなことも、全然見えないみたいなのよ」
そう言って、コンスタンツェはラルフの肩に尻を乗せるように動いたり、彼の膝の上に乗るように前に出たりする。自由だ。その様子を見て、若干ティアナは「楽しそうだな」と思う。
「見えない? コンスタンツェ? 何の話をなさっているんですかね?」
きょとんとするラルフ。コンスタンツェは彼の顔をじいっと見て、それから頬にキスをした……ように見えたが、当然のようにラルフの体は彼女をすり抜ける。きゃっきゃ、と楽しそうにコンスタンツェは笑って「本当に残念ね! 何も出来ないわぁ~!」と言って、手を叩く。
どうやら彼女は自分の体を自分の手で触れることは出来るようだ。それにマリウスは気づいて
「コンスタンツェ。体に触れられるのかい、自分で」
「触れられるけど、でも、あんまり触れているっていう感覚はないわ。だって、ほら、手を叩いても音は出ないでしょう?」
確かにそうだ。彼女は笑いながら何度も手を叩いたが、まったく音は聞こえない。彼らの様子にラルフは怪訝そうな表情で、嫌そうに口をへの字に曲げる。
「ええ? わたしのこっちに、誰かいるんですか? マリウス様がいつも連れてくると言っている霊体ですか? あなた、ついにホロゥに名前をつけてしまったんですか」
「違う。名をつけたんじゃない。ホロゥが名乗ったんだ」
「ええ……? それは、ティアナ様のお力で、何かこう、強くなって……?」
「ご名答」
その会話にティアナは「だから、わたしはよくわかっていないんだってば……」と言ったが、コンスタンツェに「あなたのおかげよ?」と言われる。
「で、そのコンスタンツェからの情報なんだが……どうやら僕は疑われているらしくてな。コンスタンツェ。先ほどの話の続きだ」
「はぁい」
ティアナの横に座るコンスタンツェ。
残念ながらラルフは彼女の声も聞こえていなかったが、辛抱強く話に付き合うしかなかった。コンスタンツェはマリウスに、自分が聞いた話を伝える。
どうやら、王城付近で誰かの会話を盗み聞きしたコンスタンツェだったが、その会話の中に「公爵」という言葉が出ていたのだと言う。話の内容はすべてがはっきりとはしていない。ただ、「例の借用書について」という言葉と「新しい公爵が嗅ぎまわっている様子だ」という言葉。それを、数日前に聞いたのだとコンスタンツェは語る。




