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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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22.ホロゥを繋ぐ糸

「! どうしてそれを……」


「公爵家が何やら嗅ぎまわっているのがどうのって。ここ、公爵家よね? あの秘密の扉から出入りしているんですもの。他にも公爵家はあるけど、純粋に『公爵家』って言われたら、この家門をみんな思い描くから、ここだと思うのよ」


「ええ? そんなことまで知っているのかい」


「わたし、いろんなことを知っているの!」


 笑ってコンスタンツェは膝を抱えてソファから浮き上がり、また宙でぐるりと回った。ティアナは、一体彼女は何を言っているんだろう、とマリウスを見た。が、その瞬間


「あっ、時間……」


と、自分に時間がないことを思い出す。彼女は祈りの間に聖女として入ったのだから、神託を得て出ていかなければいけない。


「ごめんなさい、マリウス。わたし一旦祈りの間にいって、神殿から出て……それから、改めてこちらを訪問するわ。コンスタンツェ、あなたのお話は、それからまた聞かせてくれるかしら?」


「えっ? あなた、わたしをここに置いていくつもり? それは出来ないわよ」


 コンスタンツェはきょとんとした表情でそう言って、軽く首を横に傾げて見せる。


「わたしとあなたの間に、糸があるもの。これ、あんまり長くないみたい」


「糸……?」


「そうよ。糸。さっきまではわたしとマリウスを結んでいたけれど、あなたが触ってからは、何故かあなたとわたしが結ばれているの。見えない?」


 ティアナとマリウスは怪訝そうに互いの顔を見て、それからコンスタンツェを見て、もう一度互いに目を合わせた。糸なんてものは見えない。


「ね、マリウス。わたしと一緒にここに、なんていったかしら? 引っこ抜いてきた? 霊体を出して頂戴」


「ええ?」


 仕方がない、という表情でマリウスは人差し指からもう一体ホロゥを出した。それへ、コンスタンツェが「はいどうぞ」とティアナを促す。ティアナはいつも通りにホロゥとマリウスの指の間に触れた。パァンッ、と音がして、ホロゥはマリウスの指から離れる。


「ほら。糸がついているでしょ?」


 そう言ってコンスタンツェはホロゥとマリウスの間の空間を指さす。が、いくら目を凝らしてみても、そこには何もありはしない。


「いや……見えないけど……」


「わたしにも何も見えないわ」


「あら、そうなのね。でも、糸がついているのよ。あの祈りの間にある像に、わたしたちはみーんな糸で繋がっているの。中でも、わたしの糸は長いから、外に出られたってわけ!」


 コンスタンツェのその言葉に2人は驚く。


「マリウスは、その糸を解いて、自分と紐づけられるのね。でも、あなたの糸はとっても細くてすぐちぎれるのよ。指から離れてしばらくすると、その糸が切れるぐらい」


 糸。何度言われようと、そんなものはティアナにもマリウスにも見えやしない。だが、彼女が言うならばきっとそうなのだろうと思う。


「その糸があるから、他のホロゥは祈りの間からは出られないってこと?」


「そうね。多分だけどね。わたしの糸は、こう、時を経てっていうの? なんか気づいたら長くなってたから、外に出てふわふわ出来たんだけど」


 曖昧なことを言うコンスタンツェ。


「そして、わたしのその糸は、今ティアナと繋がっているのよ。しかも、ちゃんとした太い糸よ。マリウスと他の霊体を繋いでいるような細さじゃないわ」


 一体何がどうなったのか、と2人の表情は芳しくない。が、ティアナは自分に時間がないことを思い出して


「あっ、あっ、とにかく、わたし一度ここから戻るわね!」


 と言って、隠し扉を開けた。マリウスは彼女の背に「気を付けて」と声をかける。ティアナは慣れたように「もちろんよ!」と言って出ていった。ふわふわと浮いているコンスタンツェと共に。




 祈りの間に戻ってティアナは神託を得た。その神託は、そう大したものではなかった。慌てて神官長のもとに行って、コンスタンツェを肩の上ぐらいに伴いながら神託の報告をするティアナ。


「はぁ~、神官長もあなたのことは見えないのねぇ」


 馬車に乗って、公爵家に向かいながらティアナはコンスタンツェに話しかける。馬車のボックスの中で、コンスタンツェは「ほとんどの人が見えないんですもの」と言って、ティアナの向かい側に座った……ように見せかけていた。


「ねぇ、マリウスが狙われているって何のこと?」


「あら、それは、どうせまた彼のところに言ってから聞く話でしょ」


「そうなんだけど……」


「それより、わたし、あなたのことが気に入っているの」


 そう言って、コンスタンツェはころころと鈴を転がすように笑う。ええ、一体何がどうして自分を気に入っているのか……ティアナはうろんげに彼女を伺えば


「あなた、霊体を切るのに何の躊躇もなくさくさく切って、全然怖がっていないんですもの。それに、切るのもすごくお上手よ。動きに無駄がなくてとっても綺麗だわ」


「ホロゥはそんなに動かないし、ほとんど止まっているのと変わらないわ。それ相手なら、なんてことないことだけど」


「そんなことないわよ。ね、あなた何か剣を習っているの? それとも騎士? 聖女なのに騎士なのかしら。それって、とても素敵ね!」


 年甲斐もなく……と言えば失礼かもしれないが、コンスタンツェは彼女が告げた年齢よりも少しばかり若々しいように思える。何にせよ、2人は他愛もない会話をして、それから「ここからあなたをボックスの外に出しても、ちゃんとついてこられるの?」「出来るわよ。馬車の速度ぐらいなら、本気を出せば浮いてついていけるわ」と実験まがいなことをしながら、公爵家へと向かうのだった。


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