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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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20.大きなホロゥ

「やあ、婚約者殿」


「その挨拶ちょっと好きじゃないわ」


 数日後、祈りの間で宝剣を手にして、肩を竦めるティアナ。マリウスは彼女のそんな言葉も「はは」と笑って流して「それは奇遇だ。僕もそう好きじゃない」と言った。


「好きじゃないならどうして?」


 そう言いながらティアナは目の前に降りて来たヴァイス・ホロゥを、ほぼ反射のようにざくざくと斬り捨てていく。


「君がどんな顔をするのか興味があったからさ……ねえ、話しながらホロゥをどんどん切っていくの、やめてくれない? せめて、話すときぐらいはさ……」


「はっ、癖で……」


 慌ててティアナは宝剣を鞘にしまってから尋ねた。マリウスは「それにしても」と、ぐるりと祈りの間を見て


「君、本当に綺麗さっぱり切ったんだね? 20体ぐらいしか残っていないじゃないか」


と、呆れたように言った。ティアナはそれへ不満げに反論をする。


「えっ? 切っていいって言われたから切ったのに、その言い草はないんじゃないかしら? 20体も残っていたら、十分じゃないの? それに、どうせまた来月にはここいっぱいになってしまうのよ。いつもそうだったもの」


「うーん、でも、これじゃ選びようがないな」


 選びようがない。その言葉に小首を軽く傾げるティアナ。


「引っこ抜くときに、何か目星をつけることってあるの? それとも完全にその辺にいるやつを適当に?」


「適当でもあるけど、でも、もうここに浮いているだけで、優劣ははっきりしているのさ」


「優劣?」


 そう、とマリウスは言う。


「出来るだけ、球体に近いもの。それが良い感じで元気でね」


 ティアナは「ふぅん?」と首を横に傾げた。みなふわふわと動いている球体に見えるため、一体どれが彼の言う「球体に出来るだけ近いもの」なのかがよくわからない。良い感じで元気とはどういう意味だろうか。天に召される前だと元気ではないのか。あるいは、もともと年老いて死んだり、病気がちだった者の魂は元気ではないのか。


その辺り、ティアナが尋ねると、マリウスは「それは僕もわからない。元気、というのは、天に召される前に残された時間が長いことなんじゃないかなぁ」と言って肩を竦めた。


「……あれ?」


「なぁに?」


 自分の顔の前にふわふわと漂っているホロゥを見て、眉をひそめるマリウス。


「これ、なんだかほかのやつらと違うな?」


「大きいわね? ええ? そんなもの、見なかった気がしたんだけど……」


「うん。大きいしそれに……」


 なんだか、そのホロゥは見るからにマリウスにくっついてきている。それに、サイズがほかのものの一回り、二回りは違う。


「なんだか胡散臭いけど、一応これも引っこ抜こうか」


「そうね。もしかしたら、何か力が強かったり、そのう、元気だったりで、長くお話出来るかもしれないしね」


 そうして、マリウスはホロゥを引っこ抜いた。その「大きな」もののせいか、いつもは8体から10体ほど引っこ抜けるはずなのに、どうも4体程度しか引っこ抜けなかった。彼は「おかしいな……何か圧倒的な分量というものがあるのか、ないのか、僕の推測は間違っていたのか……」などとぶつぶつ独り言を呟く。


いつも通り、2人は隠し扉から公爵家に向かった。ティアナが祈りの間に入っている時間を考えると、そうそうゆっくりもしていられない。慌てて彼らはマリウスの部屋に行く。


「はい、到着」


「はあ~、このままゆっくりだらだらしていたいけど、そうもいかないんだものね」


 すっかり最近マリウスの部屋に慣れたティアナは、ソファを勧められなくても勝手に座る。そして、マリウスもそれに対して何も言わない。


「早速なんだけど、さっきの大きいやつを『剥がして』くれないか」


 ティアナがヴァイス・ホロゥとマリウスを切り離すことを「剥がす」と表現をすることに彼らは決めていた。彼女は「ええ」と言って、彼の指先を見る。


(いつ見ても不思議。一体何をどうしたら、ホロゥを体内に入れて、そして選んで外に出せるのかしら。確かに、きっとこれが出来るようになるまで、途方もない年月がかかったに違いないわ……)


 ふわりと白い球体が姿を見せた。やはり、それまで見ていたものと違う。明らかに大きい。改めてそう思いつつ、ティアナは指を伸ばした。


 いつもならば、そこで「パンッ」と弾けるような音がして、ホロゥは彼の人差し指から離れていく。だが、いつまでたっても音が出ない。


「ティアナ?」


「わ、わ、わ、わ」


「どうしたんだい、ティアナ」


「あ。あ。あああああ」


 ホロゥと彼の人差し指の間に差し込んだ手を、ティアナはゆっくりと引いた。すると、なんとティアナの指先にそのホロゥはくっついて、マリウスの指から離れてしまう。慌てたティアナはソファから立ち上がって、指を高く上げてしげしげと下から見る。


「どどど、どう、どう、したら……」


「どうしたら、って、何をしたんだい、君!」


「何もしてないわ! っていうか、普段も何もしてないのよ! 何も……わあああ!」


 ティアナは声をあげて、どすん、と大きな音を立ててソファに座った。いや、座ったというよりも、腰を抜かした、の方が正しいかもしれない。それとほぼ同時に白い球体は彼女の指から離れて、ぐにゃあっと形を変えた。


「「えっ!?」」


 驚きの声を同時にあげる2人。彼らがじっと見ていると、ホロゥの輪郭がまず整った。白いまま、人の形になっていくのがわかる。そして、ようやく「パンッ」と弾ける音がして彼女に「色がついた」。そして、聞きなれぬ声が室内に響く。


「ああ~! すごいわ! わたし、生きている頃の姿になってる気がするのだけど、どうかしら? どうかしら?」


 ホロゥだった「それ」の声のようだ。見れば、長くてふわふわとした金髪に碧眼、すっきりとした美しい顔立ち。すらりとした体を覆うのはいささかぼんやりとした白いドレス。その足元は床にはついておらず、宙に浮いている。靴は履いていない。美しい形の足先を、彼女はもぞもぞと動かして、指を伸ばしたり、丸めたりを何回か繰り返した。


「ううん、床にはつかないわ。つかないっていうか、浮いてる方が楽なのね! そりゃそうかぁ、ずーーーーっと浮いていたものね!」


 そういうと、彼女は膝を抱えて、空中でくるりと一回転した。驚きでティアナとマリウスはどちらも呆然とそれを見守るだけだった。


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