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17.聖女の役目

「というわけで、どうやら同様の事件が既に2件も起きていたことがわかりました」


「なんてこった」


 珍しく言葉も荒くマリウスはそう言った。ソファに座る彼とテーブルを挟んだ反対側には、資料を片手にラルフが座っている。「どうぞ」と言って、資料をマリウスに渡すラルフ。


「とはいえ、どちらの家門も口外したくはないだろうな」


 ラルフから受け取った資料に目を通しながら、苦々しく、いささか吐き捨てるようにマリウスは言った。


「そうですねぇ。そして、どちらの家門も借用書を見せていただくところまでは出来ませんでしたが……」


「借用相手が同じ金貸しかどうかを確かめたいんだがな」


「その辺りは、さすがに皆様、簡単には外に出してくださらなくてですねぇ~」


 それもわかる、とマリウスは唸るしかない。


 ラルフはここ半年、マリウスからの依頼で一つの事件を追っていた。それは、「公に出ると家門に傷がつく」とある事件で、それゆえになかなか調査は難航している。


 彼はジェルボー家の傍系で、マリウスの従兄のようなものだ。マリウスの「執務」を手伝うという名目で、裏であれこれと調べごとをする。そして、その日もあれこれと調べた結果をマリウスの元に持って来たのだが、内容は芳しくない。


「先日の資料には、カールツァイス伯爵家が同じような目にあったと書かれていたが、それ以外も、というわけか」


「はい。残念ながらカールツァイス伯爵家については、あれ以上のことは探れませんでしたが……」


「どちらも、金の出どころ、金の使いどころは」


「同じですね。まったく、同じだと思います。ただ、そこに書かれているフーデマン侯爵家については、どこで取引をしたのかをお話いただけたので……」


「記憶があるということか」


「いえ、記憶はほぼありません。ですが、王城付近にいたのは間違いないと」


 あとは、資料に書かれているもの以上のことは何もありません、とラルフは言う。マリウスはすべてに目を通した後「ふう」と小さくため息をついた。


「……これ以上の進展は難しいか」


「今は、その2件のタイミングで大きな金の動きがあったかどうかを調べています」


「ありがとう」


 はあ、と小さくため息をついてマリウスは資料をテーブルの上に置いた。


「……それとはちょっと違う話なんだけど」


「はい」


「どうも、僕の力というか……引っこ抜く能力なんだけど」


「はい」


「ここ1,2年、突然それが強くなったという話をしたよね?」


それに頷くラルフはいささか難しい表情を見せる。


「だが、またそれが弱まったんだ」


「どういうことですかぁ?」


 マリウスは説明をする。彼が祈りの間からホロゥを「引っこ抜いて」来るのは、以前は3,4体が関の山といった状態だったのが、ここ1年ぐらいの間は突然8体やら多いときは10体も「引っこ抜いて」来られるようになっていたのだと。


 自分の力が突然覚醒でもしたのか、あるいはホロゥの何かの性質が変わったのかよくわからなかったのだが……と前置きをして、彼は打ち明ける。


「どうやら、ティアナが多くのホロゥを切って天に還すと、その分、何故か僕の力が強くなる気がするんだよね」


「へぇっ!?」


「気がする、っていう段階だから、まだどうとも言えないんだけど……」


「……いえ、それは案外正しい気がします」


「そう思うかい?」


「はい」


 ラルフはあの「祈りの間」に何故ヴァイス・ホロゥが集められているのか、という話をマリウスにした。最初は単純に「外にふわふわ浮いているものを王族など力がある者が見たくないから」集めたのではないかと思っていたが……。


「わたしには見えないのでなんとも言えませんが……ホロゥをあの祈りの間で『天に還す』ことで、何らかの効果があるのではないかと。ここ数百年で魔法が衰退した理由とも関係があるかもしれないですね」


「うん」


 マリウスはそれに頷いた。ラルフの言葉は続く。


「昔の聖女たちは、受け継がれている宝剣を使って、ホロゥを切っていたのでしょう? まあ、おおよそそうやっていた……ようだ、という推測しか出せませんが」


「多分ね。ティアナが言うには、前の聖女は宝剣を使っていなかったと言っていたし、きっと、その前もそうだったんじゃないかなぁ。それでも、ある程度は自然に天に還るから、それなりに世界は回っていたという形なのかもしれない」


 世界は回っていた。突然大きな話になったな、とラルフは苦笑いをするしかない。だが、その反面いくらかマリウスの言葉もわからなくもないらしく、彼は「ううむ」と唸った。


「世界は回っていた、ですか。なるほど」


「ま、そんな大層な話じゃないだろうって言いたい気持ちはわかるよ。僕もそう思う。でも、まあうまく言葉にしようとしたら、そういう大雑把なことなんだろうなぁと」


「魔法使いの衰退なのか、聖女の衰退なのか、何かはわかりませんが、きっと、そうなんでしょうね。歴史書に祈りの間について書かれている部分は少ないですし、神殿そのものの建立当時の資料もほぼ残っていない。何百年、いや、千年を経たかもしれないあの場で、何が一体起こっていたのかは誰もわからないでしょう」


 そもそも、祈りの間で聖女が何をしていたのか、どういう役割を求められていたのか、それら本質の部分は誰もわかっていない。今となっては、啓示をうけるという役割だけ。そして、宝剣だけが受け継がれ、それをただの「守り」として抱くだけだったという先代聖女。きっと、その前の聖女もそうだったのだろう。けれども、彼女たちが「そう」なったのはいつからなのか。以前はどうだったのか。


「神からの啓示を得るために、自らの力を高める必要があったのかなぁ。よくわからないが、まあ、最近ティアナにホロゥたちを切ることを止めてたんだけど、また次回はたくさん切ってもらおうと思ってね」


 マリウスはそう言って、茶を飲んだ。それへ、ラルフは「魔法院関係になるような話はごめんですよ」と言って肩を竦める。


「僕だって嫌だよ。魔法院関係になるということは、王城管轄に完全になるってことだ。神殿は聖女の存在、祈りの間の存在が大きいから、王城内の施設ではありつつも一応治外法権みたいなものだ。そして、それを守らせるために、聖女は祈りの間で起きたことは他言しないってことなのかもしれないね」


 何にせよ、何もかも推測だ……そう言ってマリウスは「あーあ、面倒なことばかりだな!」と両手をあげてぼやいた。


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