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14.城下町デート(1)

 ティアナとマリウスは公爵家を出て、城下町の散策に向かった。形ばかりでも人々に仲の良さをアピールしようかということで、最初に宝飾品店に向かう。正直なところ、ティアナはそんなに宝飾に興味はなかったし、マリウスから既にあれこれと貰っていて、どうにもこれ以上は必要だとは思えない。


「宝飾品と仕立て屋からの情報が、貴族の女性たちに伝わるのはまあまあ早い。仕立て屋は時間がかかるから今日は止めて、宝飾品を購入してから一番情報が早く広まるティーサロンに行こう」


「はぁ~い……」


「そう嫌そうな顔をしないで」


「だって、デートだって言っていたから」


「デートだよ?」


「城下町の、色々なお店を見て回れるって思っていたのよ」


 彼女の言葉にマリウスは目を瞬かせる。


「宝飾店に行ってサロンに行くだけでは、物足りないっていうことかな?」


 彼が言う「サロン」は、貴族御用達の喫茶室のことだ。広い室内のテーブル席で1人~4人ぐらいでくつろぐことも出来るが、時々貴族の誰かが主催をして10人程度の人々で集まれる部屋もある。


「そうじゃないわ。それはそれでとても素敵だなって思うんだけど……あっ、でもそうね。あなた公爵様だものね」


 公爵様だものね、と言われても、君は男爵令嬢だろう……マリウスはそう言おうとしたが、ついつい「あっはは!」と笑い声をあげる。


「悪かったね。そうか。君はこういうお店があまり好きではない?」


「好きかどうかはわからないわ。わたし、まず宝飾店って行ったことがないの」


「男爵領にはないのかい?」


「ないわ。だって、あったって男爵家やその親族の方々が購入するぐらいだったから、お店の年収なんてたかが知れているのよ。なので、うちは王城付近と行き来する商人に頼んで仕入れるの。お母さまはこの辺りにも結構詳しいみたいでお父様と一緒に宝飾店に行ったようだけど、わたしはあまり、その……宝飾を身に着けるのも得意じゃないの。男爵令嬢にあるまじき者かもしれないけど」


 そこは得意や不得意と言う言葉で表されるものなのか、とマリウスは心の中で笑う。彼女は「あるまじき者」と言いながらも、それを特に恥じてはいない。そのことを彼は理解をしたようだ。そして、わざわざそれを指摘もしない。


「この辺りでも直接店に足を運ぶ貴族はそう多くないよ。大体は自分の邸宅に招くからね。だから、そこに行くのは僕が変わり者だからというわけで」


「ああ、そうなのね。じゃあわたしの両親も変わり者扱いされたかしら?」


「お二方はこの付近にお住まいではない、ということで、そうは思われないんじゃないかな」


 ああ、よかった、とティアナは安堵のため息をそっと吐き出す。


「君があまり得意じゃないってことはわかった。でも、とにかく付き合って欲しいんだ。それから、君に贈ったものの中にイヤリングは入れていなかったのでね。それを一つ買いたくて」


「あら、そうなの」


「僕にプレゼントをさせて欲しいんだ。婚約者として受け取っていただけるんだろう?」


 その言葉にティアナは眉根を寄せた。あれだけのプレゼントでも受け取るのが彼女にとっては精一杯だったのに、更にプレゼントか……さすがに、いくらか憂鬱な気持ちにはなってくる。そこまで男爵家を憐れんでいるのか、それとも自分を憐れんでいるのか。


 そう思いつつも、彼女はあまり深くは考えすぎない性質だったので「ええ」と思い切って頷いた。


「これ以上いただくのは気が引けるけど、わかったわ!」


 不承不承ではあったがティアナは承知をした。2人が足を踏み入れた宝飾店は、それはもう2人にとっては未知の世界で、言葉にすれば「なんかキラキラしている」程度にしか評価が出来ない場所だった。要するに、評価をする側が「足りない」ということで、並べられた宝飾品は一流のものだったし、それらを警備する者たちも一流の者たちばかりだ。


「なるほど、盗みを働かれないように、魔法をかけているんだね」


「えっ、そうなの? あなた、魔法のこともわかるの?」


「少しはね。宝飾品ひとつひとつに、盗難を防ぐための魔法がかかっている。解除前に持ち出しをしたら何かが作動するんだろうね。何が作動するのかはわからないけれど」


「ふわぁ……」


 ティアナはいささか間が抜けた声をあげる。個別でも対応をして、更に警備をしている者たちもいる。これは大変なところに来てしまったな……など、様々な感情がないまぜになった「ふわぁ」だ。


とはいえ、彼らは特に盗みを働くわけでもなかったため、あれこれとそんなに興味もない宝石を見る。が、どうも店員もティアナがあまり興味がないことを悟ったようで「聖女様はあまりこういったものがお好きではないのですか?」と尋ねて来た。


「いえ。興味はあるのですが、わたしは基本神官服での公務が多いので、それにも似合うものというと限られるな、と思って……」


 我ながらいい言い逃れだ、とティアナは思う。ちらりと見れば、マリウスは無言でうんうんと頷いている。それを店員は「公爵様もそれはご理解なさっていらっしゃるのですね」と言ったが、実際は「いい返事だ。よくやった」と頷いていただけだ。


「これがいいかしら。シンプルなもので。宝剣の鞘にはまっている宝石に似ているわ」


 そういって、水色の石が入った小さなイヤリングを選ぶ。金額はわからない。わからないが、小さくて、シンプルで、使い勝手がよさそうだとティアナは思う。


「まあ、お目が高いです! そちら、このところ採掘量が減った石で、その中でも小さくともカッティングにこだわったものなんですよ」


 そう言って勧めてくる店員。嫌な予感がする、とティアナが「あのう、こちらのお値段……」と尋ねたが、それへの回答はなかった。


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