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13.改めての公爵家(2)

「わたしが触ったホロゥだけの話じゃなくて、あなたがその、何かしら、引っこ抜いたホロゥをどう使っているのか、そのお話をもう少し聞かせてもらえるのかしら?」


「そうだなぁ。あっ、いいタイミングで」


 マリウスのその言葉で、ティアナは彼が言っていた「もう一人」が来たのかと思って、なんとなく背を伸ばした。だが、それは間違っており、壁をすうっと通り抜けてホロゥがふわふわとマリウスに近寄っていく姿が見える。そうか、彼はホロゥが近寄ってくることも感知出来るのか……と、じいっと白い塊を見つめる。


「うん。うん、それから? ああ、そうだったのか……え? ええっと、それはさ……」


 ホロゥはマリウスの顔のあたりに浮いている。それを見ながらうなずくマリウス。


「わかったよ。ありがとう」


 マリウスがそういうと、ふわりとホロゥは揺れた。と思った瞬間、しゅっと消える。それは、ティアナが宝剣で切り裂いた時と同じような消え方だ。


「天に還ったのかしら?」


「そうだね」


「何か、お話をしていたの?」


「うん」


 ティアナが「わたしには全然わからないわ」と言えば、マリウスは「僕もわかるようになるまで10年かかったのでね」と答える。なるほど、彼も最初はわからなかったのか……そう思えば、なんとなく「よかった」と思えた。


「それで、何の話をしていたの? 聞いても大丈夫?」


「まあ、まず説明をするよ。君が触れていなかった、以前僕が引っこ抜いてきて使っていたホロゥなんだけどね。それは、本当に意思疎通がうまく出来なくてさ。2往復ぐらいの会話だけで、すぐいなくなって、戻ってきても2往復ぐらいの会話しか出来なかったんだ」


 だが、どうやらあのホロゥたちは、無理やり「祈りの間」に集められてしまっているだけで、あそこに「いたい」と思っているわけではない。うまく空に帰れないホロゥたちを一時的に祈りの間に集め、そして自然にいつか還るまでそこに幽閉する。そういうことなのだろうとマリウスは推測を話した。


「で、僕があそこから引っこ抜いたことで、ホロゥから僕は『感謝』される立場になるんだよね」


「そうなのね?」


「らしいよ。だから、一つだけ情報を集めて欲しいって頼むんだ。案外さ、ホロゥって生前に知らない情報を尋ねられても、どうしてだかある程度わかるみたいなんだよね」


「えっ、どういうこと?」


「たとえば、隣の伯爵領の田畑の様子を見てきてくれとか聞くとさ。伯爵領に行ったことがない……行ったことがない、とは聞かないけど、どのホロゥにどこで何を見てきてくれって言ってもさ、みんな困らないんだ」


「へえ~っ!」


 それにはつい声をあげる。そして、どんどん興味をそそられていき、ついティアナは前傾姿勢になる。


「でも、さっき言ったように、そう意思疎通が長くとれないからさ。短く、わかりやすく、お願いをする。そうすると、やっぱり半分ぐらいは求めていた情報とは違うものが帰ってきちゃうんだよね」


「そっかぁ。どういう情報が欲しいのかはわからないけど、でも、そうなんでしょうね」


「そう。ところがさ。君がこの前触ったホロゥ。彼らはもっと意思疎通ができる。さっき戻ってきたのは、君が僕の人差し指から放したホロゥだ。もっと意思疎通ができるし、もっと長くこの世界にいられるんだ」


 確かに、先ほど戻って来たホロゥとマリウスは、なんだかスムーズにやりとりをしていたように見えた。だから、彼が言うような「短くわかりやすく」という感じはしなかった。きちんと話をして、ホロゥの方も理解をして、そうしてなんだか「会話が成り立っている」雰囲気をティアナは感じ取っていた。


「っていうことは、ええっと、どういうことなのかしら……」


「つまり、君が触れたホロゥは、パワーアップをしているってことになるね」


 パワーアップ。そんな力が自分にあるなんて、ティアナは「ええ?」と半信半疑だ。


 と、その時ノックの音が響く。許可を得て扉が開けば、使用人が「ラルフ様がいらっしゃっております」と告げた。


「いいよ、入ってもらって」


 すると、モノクルをかけた男性が一礼をして入ってくる。彼は、ソファに近づいてマリウス側に行くと、ティアナにもう一度一礼をする。


「初めまして。白銀の聖女様。わたしはラルフ・カールトンと申します」


「初めまして。ティアナ・カーラル・アルベールと申します」


「ティアナ様とお呼びしても良いでしょうか?」


「はい」


 マリウスはラルフが自分の部下であること。一緒にとある事件を追っているということを説明した。

 

 ティアナは「とある事件?」とそこに気が持っていかれたが、マリウスは敢えてそれについては説明をせずに、話を続ける。


「それで、ホロゥについても彼には話を通しているんだ。君の能力についても。だから、何かがあった時に僕と話が出来なくとも、その時はラルフに話して欲しい」


「とはいえ、わたしはホロゥを見ることが出来ないので、何のお役に立てるかはわからないのですけどぉ……」


 と、困ったように笑うラルフ。


「それでも、何かありましたらご用命くださいませ。普段はマリウス様のサポートをして、あれやこれや資料や情報などを集めております。では、マリウス様、こちらの資料をお渡しいたしますね」


「ああ。ありがとう」


 ラルフは手に持った封筒をラルフに渡すと、2人にまた一礼をして「失礼いたしました」と出ていく。


 彼が去った後に「失礼」とマリウスは言って、封筒から資料を少しだけ出した。一瞬で彼は眉間にしわを寄せたが、すぐに資料を封筒に戻して


「じゃあ、行こうか?」


と、にこやかにティアナに尋ねたのだった。


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