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11.デートのお誘い(2)

「それにしても、あれはやりすぎじゃない?」


「やりすぎぐらいがちょうどいいんじゃないかと思って」


 ティアナはマリウスに選んでもらった薄い水色のドレスに身を包み、彼と共に馬車に乗った。行先は公爵家だ。


 王城がティアナのために用意してくれた別荘は案外と神殿、要するにそれを含む王城に近かった。そして、王城に近いということは、公爵家にもそれなりに近い。


「で、デートで公爵家に?」


「まあまあ、まずは、忘れないうちにホロゥの話をしてしまおうと思ってね。それには、やはり僕の部屋が良い」


「あなたの部屋に行くのに、わざわざ着替えたってこと?」


「まさか。その後、ちゃんとデートをするからね」


「本当ね?」


「ああ。そして、白銀の聖女と変わり者公爵が婚約したのは本当なんだ、って人々に見せつけて、更に知らしめようかなって」


 彼のその言葉に、ティアナは「ふふっ」と笑った。


「知らしめる、ですって。あなた、面白い言葉を使うのね!」


「ええ? 普通じゃない……?」


「何にせよ、ドレスの趣味はとても良いみたい。センスがいいのね」


 ティアナは嬉しそうにそう言って、自分が着ているドレスを見た。質の良い布に、良い仕立てで作られた水色のドレスは、サイズがわからなかっただろうティアナの体に沿うように、紐でウェストを絞る形のものだった。


 ティアナの体つきは、貴族令嬢の「平均値」と言っていいほどの、見るからに「普通に細い」といった体型だ。だからこそ、サイズがわからなくともそれなりのものを彼は用意できたに違いなかった。


「お褒めに与り光栄だよ。でも、次回は仕立て屋で一緒に選ぼう」


「次も? あんなにドレスをいただいたんですもの。もうこれ以上はいらないわ」


 ティアナのその言葉に「何を言うんだい?」と、マリウスは少しばかり呆れた表情を見せる。


「君は僕の婚約者だからね。寒くなればコートが必要だし、ドレスの布地も変わるだろう。靴だって変わる。まあ、なんていうのかな……あまり、普段から金を使わない僕に代わって、君が金を使ってくれると嬉しいな」


「婚約者にいくらなんでもそんなに使うもの? しかも、わたしは契約で形ばかりなっているだけなのに……ねえ、あなたって変わってる人なのね?」


「今頃気づいたの?」


 そのマリウスの言葉に、ティアナは「最初からか」と言って笑った。彼女のその笑みを見て、マリウスは「君はよく笑うね」と言って、彼もまた笑ったのだった。




 ティアナは初めて公爵家の表から入ろうとしていた。開かれた門の前には2人の門兵が立っている。が、馬車には公爵家の紋章が入っているため、特に止まることもなく、何も言わずとも門を通過した。


「まあ、まあ、とっても広いのね……わたしの家も広いけど、それは土地があるからってだけで、ただだ広いだけなのだけど、ここは綺麗に整備してあるわ」


 ティアナの驚きももっともだ。門から邸宅までの道は綺麗にならされてあり、その両脇には膝ぐらいまでの丈の木が植えてある。目を凝らしてみれば、それはどうやら花が咲くらしく、点々と蕾のようなものから、赤色がかすかにうかがえる。きっと、満開になれば美しい花道になるのだろう。


 更に、その木々の横にはもうそこからすべてが左右に庭園が広がっているようにティアナには思えた。なんてことだ。男爵家も門から邸宅まで少し距離があるものの、その道を除いた両脇は「道の延長」とばかりに特に何もなされていない。時々生えすぎた木々を切るぐらいだ。要するに、そこは、門をくぐったものの「邸宅に行くための道」以外の何物でもない。


「ほかの貴族のおうちも見たことはあるけれど、ここまで美しいところは初めてだわ」


「そうかい。でも、これは多分この邸宅だけがこの付近で公爵領だから、ってこともあると思うよ。手を入れるところが本当にここだけなんだ。うちの管轄は」


「えっ?」


 話を聞けば、公爵家は領地を王城付近に持っていないということだった。確かに王城付近に住んでいる貴族たちがみなその場で領地をもっていれば、それは相当小さくなるのだろう。特に公爵家は代々王城勤めが課されている家系だ。何故なら、公爵家当主は代々宰相を務めているからだった。


 実際には少しばかり離れた場所に公爵領はあるが、公爵邸はこうやって王城近くに邸宅を構えている。そして、実際の公爵領は傍系の者たちに任せているとマリウスは説明をした。


 それほどまでに王城から信頼をされているということだと、ティアナにだってさすがにわかる。そう思えば、いくら過去にマリウスが奇行に走ったとはいえ、やはり婚約者がいなかったことは不思議だ。


「あなた、宰相なの?」


「いや、僕の代からは、宰相と公爵を分けようと思ってね。弟が王城に今は、そうなるための準備をしているところだね。僕の方も父から公爵の称号を継いだのものの、それは本当に突然でさ……」


 彼のその声は、少しばかりくぐもっていた。何かあるのだろう、とティアナは察して、そのことについては言及しないように、と心に決めた。


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