プロローグ
「白銀の聖女」と呼ばれるティアナは、王城の隣に建っている神殿にひとつきに一度赴く。彼女は、神殿にある「祈りの間」の奥に設置された像に祈り、神託を賜るのだ。
あまり飾り気のない神官服に近い白いドレスに身を包み、緩やかに波打つ銀髪は耳の上に髪飾りをひとつつけただけで、胸の下までおろしている。男爵令嬢である彼女の年は17歳。涼やかな青い瞳に、薔薇色の頬。そして少し薄めの唇からは、ため息が一つ。
「祈りの間に入ってからのことは、神託以外は他言無用。一体だれが決めたことなのかしら? そもそもこんなこと誰に話しても信じてもらえないわよね……」
彼女は神殿の「祈りの間」に入って、扉をぴたりと閉めた。どちらにせよ、そこに至るまでの道も途中から彼女は一人で歩いて来たので、誰も彼女の独り言なぞ聞きやしない。
室内はがらんとした何も調度品がない部屋だ。白を基調とした部屋は静かで、まるでそこは通路の続きではないかと思うように縦長で奥まで伸びている。そして奥には人型の像がそっと立っていた。この部屋にあるものは、ただ、それだけだ。
ぱちぱちと瞬きをする。次の瞬間、彼女の視界は部屋いっぱいに浮かび上がる半透明の白い球体たちで満たされた。大きさは人の顔ぐらい。ぷかぷかと彼女の腰ぐらいから上、天井いっぱいにそれらは漂っている。これが、彼女が言う「誰にも信じてもらえない」ことの正体だ。
「はぁ~、ここにいる、なんか浮いている魂のようなものをどけないと、神託を得る像までたどり着けないのよね……」
彼女は、手に持っていた短剣の鞘を抜いた。手首を軽く返して一つの白い球体を切れば、それはぶわっと散って消える。そして、彼女は続いて一気に3つの球体を切り裂き、再び手首を返して腕全体で一気に横に薙ぎ払った。
「うーん、相変わらずの切れ味。さすがの宝剣様だわ」
ティアナは小さく笑って、宝剣を見る。とはいえ、その宝剣は「剣」ではない。まるでなめらかな陶器がその形になっているだけのもの。だが、ここでは『それ』で十分なのだ。何故なら、それで白いものは「切れる」から。そういう意味では間違いなくそれは剣の役割を担っていた。
「この部屋からは出られないようだし、折角だからこの宝剣で全部切ってあげましょう。よくわからないけど、この剣で切れるってことは『切れ』っていうことだと思うのよねぇ。さ、やりますか」
ティアナはそう言うと、軽く構えの体勢をとった。