表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

アシュリードとミラベル編

 子供の頃から何をするにもつまらなくて、そんな僕を両親はとても心配した。

 勉強と運動は与えられるままに、友人関係は希薄だった。

 学園を卒業するまで僕の人生には色がなかったと思う。

 興味を引くものがなかったから。


 ある日、親に連れられて行ったのは親戚の公爵家だった。

 公爵家の長女が第一王子の婚約者になったお祝いと、その長女の護衛騎士に自分がなるために。


 初めて見た公爵令嬢は16歳とは思えない凛とした雰囲気のご令嬢だった。

 挨拶をした後は向かい合わせでお茶をした。

 所作がとても綺麗で、一つ一つの動きに目が釘付けになる。

 初めて人に関心を持った瞬間だった。


 少し俯くと覗く長いまつ毛、赤い唇はほんのりと潤い輝き、彼女が紅茶を飲むたびに僕の世界が色づくのがわかる。


『僕の華だ』


 初めての感覚に感動と、同時に絶望感に襲われる。


 僕が欲しい華は目の前にあるのに、手を伸ばせば届く距離にあるのに、手に入らない。


 それでも色づいた世界は楽しかった。

 彼女の視界に入る幸せ。

 彼女に名前を呼ばれる幸せ。

 彼女を守るためならば、どんな事でもしよう。


 僕の世界は彼女のためにあるのだから。





――――――――――――



 お嬢様の侍女として彼と出会った。


 どこか酷くつまらなそうにしていた彼は、お嬢様を見た瞬間、目が輝きを取り戻す。


 あぁ、人とはこんなにも簡単に恋に落ちるのだと驚き、興味が湧く。


 彼はいつでもお嬢様のためにあろうとした。

 元々お嬢様の護衛騎士に選ばれるだけの力は持っていたが、それだけでは足りないと、寝る間も惜しんで努力をするその姿はとても眩しく、こんなにも想われるお嬢様が羨ましいと感じた。



 王子妃教育が休みの日は、公爵邸でお茶をするのが王子とお嬢様の習慣となりつつある。

今日は陽射しも心地良く、気持ちの良い風を感じるからとお嬢様が庭を案内されている。


 王子とお嬢様はとても仲が良く、使用人一同微笑ましく見守っている。

 そんなお二人の様子を少し離れた場所で見守りながら、数日前に彼から伝えられた言葉を思い出す。


「お嬢様と共にありたい。だが、僕が想うことでお嬢様が疑われないようにするため、王子殿下に安心して任せてもらうためにも、僕はお嬢様の侍女である貴方と結婚がしたい。考えてもらえないだろうか」


 酷な言葉を言う。

 そこには私への思いやりがまるで無い。

 あるのはお嬢様を想う自分の気持ちだけ。

 他の女性なら怒り出すだろう。

 でも、私は?


『誰のものにもならないで』


 鮮明に覚えているわ。

 あの日色付いたのは貴方だけじゃない。

 私の世界は風が吹き、花びらが舞い上がり、色のついた世界がさらに鮮やかなものへと変化を遂げた。


 彼が手に入るのならば願いを叶えましょう。

 彼の世界がお嬢様で溢れていても、お嬢様の傍にいる私を視界に入れてくれるのなら。

 だって貴方は私に名を呼ぶことを許してくれたから。


 少し顔を上げ彼を見る。


「アシュリード様。この前のお話ですがお受けいたします」


 彼にしては珍しく一瞬驚いた表情で見返す。

 自分から話を持ちかけてきたというのに。


「良かった。父も喜ぶよ」


 安堵の声が心地よく聞こえる。


「侯爵様がですか?」

「誰とも結婚はしないだろうと半分諦めていたようだからね」

「まあ」


 少し間を置いて、今度はしっかりと私に向き合い視線を合わせてくれる。


「ミラベル、君を大事にするよ。僕のわがままを叶えてくれた大切な人だからね」


 あぁ、貴方の瞳に私が映っている。

 それが、こんなにも嬉しいなんて。


「はい」 声が震えた。


 どんな形でもいいの。

 傍にいることができるのなら。

 私の世界は歪でも、貴方がいれば色づく世界なのだから。

文字数が少ないので短編にするか迷いましたが、内容的に別にしたく、あえて連載にしています。ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ