レイナと魔剣と神剣
「ただいまー!」
「レイナさん、おかえりなさい」
「師匠、おかえりなさい」
剣聖戦へ参加する旅の途中、急に唐揚げが食べたくなった私は、マヨネーズの材料とレモンを買い出しに行った。
で、今は帰ってきたところなんだけど。
「お母さまと妹ちゃんは?」
「母さん達は部屋で内職中です」
「またかあ」
最初こそこの家に戸惑いを見せながらも暮らしていた二人だったが、慣れてしまったら今度は部屋にこもって内職を始めてしまった。
理由はいろいろ、働かないと落ち着かないとかいうヤバいモノから、私の家(これは勘違い)で好き勝手暮らすのは気が引けるとか。
そんなわけで二人は内職しているようだった。
「今から唐揚げを作ります」
「からあげですか」
「そ」
これは知ってるのかな? 知らない反応なのかな?
「アイシェは知ってる?」
「えぇまあ、揚げ物ですよね」
「そう」
知ってるなら話が早いね。
「じゃあ料理を始めよう」
そう言ってまず出したのは……。
「卵……ですか?」
「後はなんでしょうか、このツンとした香りの液体は」
「御酢だね」
「おす、ですか」
「酢ともいうね」
「すですか」
二人ともあんまり酢には縁がない人生だったのかな。
「まずはマヨネーズを作ります」
「「まよねーず」」
「うん」
これは知らない反応だね?
「さ、それではこちらに出来立てのマヨネーズがございます」
「師匠、あるなら作る必要がないのでは?」
「黙ってくださいサロス。レイナさん、それは単体で食べられますか」
「一口くらいならいいよ?」
「ありがとうございます」
「えぇ……」
黙れと言われたサロスが一人、ぽつんとアイシェの様子を眺める。
「ん、美味しいです。これだけでもいけますよ!」
「それだけで食べ続けたら栄養バランス悪いから止めようね」
世にはマヨラーなる生き物もいるけど、アイシェにそうなって欲しいとは思わない。
「じゃ、これからこれを作るよ?」
「はい、レイナさん」
「はい、師匠」
てなわけで酢の材料を……他にも出して、片っ端から混ぜる。
「完成―」
「まさかこれだけで出来るなんて」
「意外と簡単なんだな」
二人ともマヨネーズの作り方は覚えたかな。簡単だったし。
「さてお次は本番、唐揚げですが……その前に」
「なんですか? レイナさん」
私はじっとアイシェを見る。
「アイシェってお酒得意?」
「なんですか急に」
「どっちかなあ?」
「え、うーん、普通に苦手かと」
「普通に苦手」
それは特別苦手ではないけど、苦手ってこと? かな?
「それがどうかしたのですか?」
「いやあ、買い物中に魔剣使いの話を聞いてね」
「あぁ、剣聖の中でも一風変わった剣聖、魔剣酒乱樽の使い手ですね」
「そ」
魔剣しゅらんたる。なんともデュランダルな名前だけど、この魔剣、ちょっと変わった能力持ちだった。
「振れば酒霧が舞い、斬れば瞬時に酒が回る酔いの魔剣ですね」
「そんな絶妙に使いにくそうな剣で剣聖なんだから、よほど剣の腕がいいんだろうね」
「それでお酒ですか」
まあどんだけ強くても、ザルでも堕ちると噂の剣なので、強さ関係ないみたいだけど。
「そんな相手、この神剣ふらら・ラッハで斬ってやりますよ」
「おぉ……魔剣対神剣だね」
それはそれでロマンあるけど、それ神剣じゃないよね、私作の剣だし。
「そんなわけで、お酒どうかなって、聞いてみただけ」
「大丈夫ですよレイナさん、霧を出される前に斬るんで」
「そ、そっか」
なんて身もふたもない……。
「それでっと、そろそろ唐揚げも完成だね」
「ですね」
さてさて、後は盛り付けて……。
「お好みでマヨネーズか、レモンをどうぞ!」
「「れもん」」
「なんですと」
レモンをご存じ上げないですと。
「これ、この果物」
「れもん……」
「聞いたことないです、師匠」
「マジか」
通りで街中探してもないわけだよ。最近見つけた新機能、ワールドマップから検索を掛けて白ちゃんで飛んで取りに行ったくらいだし。
「まあなんていうか、気になったら試してみて?」
「どんな味か気になるので試してみます」
「俺はどうしようかな」
「ま、ホントにお好みでね?」
こういう時、食に迷いのないアイシェは勇者に見える。
一方勇者サロスは食には意外と慎重派だ。それでも最後には食べるあたり、私に対する信頼度か、アイシェに対する負けられない思いなのか。
「では、頂きます!」
掛け声とともに、アイシェがレモンを手に取る。
サロスはマヨネーズと唐揚げで食べるみたいだね。
私はそっと席を離れて内職中のお二人に唐揚げを差し入れに行く。
「これからも毎日楽しく過ごしたいなぁ」
こうやって料理でもしながら、世間話してるのが平和で楽しい。
そんな風に思いながら、二階の個室に向かうのであった。
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