レイナとアイシェと再会
「はー、幸せー」
私はギルドから出ると、まだ夜まで時間があるので街を散策することにした。
そして今は街中で売っていた牛串なるモノを食べ歩いている。
買い食いなんて元の体じゃあ出来なかったからね、楽しいよ。
「生きてるって楽しいんだなあ」
まあ元の世界でもMOAを楽しんでいたから幸せではあったけど。
あの体では流動食とか点滴が主な栄養だった。
正直久しぶりに自分で食べたいものを食べられている感覚に幸せしか感じない。
「さて次は何処を周ろうかなっと」
まだ時間はある、何処を見て周ろうか。
そう考えつつも、何となく、足が街にあるお城のような建物に向いていた。
「おぉ、デカい!」
語彙力がない所為で非常に小並感溢れる感想になってしまった。
けど、本当に大きい。まあ、某夢の国のお城くらいは立派だね。
「さて、見てみたい物も見たし、帰ろうかなあ」
ずっとここに居ても怪しい奴だと思われて門番さんに捕まっちゃうかもしれないしね。
「さーて、帰りますか」
私は独り言多いなあと思いながらも、サクサクと歩いて宿に向う。
宿に戻ると昨日と同じく食事処は賑わっていた。
「あ、レイナお姉さんおかえりなさい」
「ただいまローテ」
昨日同い年と聞いたので呼び捨てでもいいかなと思いながらローテの名を呼ぶ私。
そして最初のお客様扱いの「レイナ様」から「レイナお姉さん」と呼び方の変わっているローテ。
ちょっとは仲良くなれてるかな。
「レイナお姉さん、夕飯は食べますか?」
「うん、頂きます」
「はい!」
ローテは元気よく返事をするとオリヴィエさんの元へ向かう。
そして私はまたしても美味しい夕食を頂き、ベッドに向かい眠りに就いたのであった。
そして後日。
「今日も元気! ホントにありがたい事だね」
そんなわけで私は早速部屋を出ると朝食を頂き、冒険者ギルドに向かった。
「ヘレナさん、おはようございます」
「あぁレイナさん、おはようございます」
私が来ると、待っていたかのようにヘレナさんが返事をする。
「レイナさんにお客様が来てますよ」
「へ? 私に??」
誰だろう。もしかして昨日のラッツとかいう冒険者だろうか。
「レイナお姉ちゃん!」
「アイシェ?!」
なんとお客様はアイシェだった。よかった再会出来て。
「あれ、でもなんで冒険者ギルドで待ってたの?」
「あの、昨日の騒ぎを訊いて、それでレイナお姉ちゃんかなと思って。冒険者ギルドで待ってたら会えるかななんて思って」
「なるほど」
なるほどねえ……それで待っててくれたんだ。なんて可愛い子だろう。
「ん。でも私を待ってたってことは何かの用事……だよね?」
「うん、お姉ちゃんしか頼れる人が居なくて」
「おぉ」
お姉ちゃん、良い響きだなぁ。
こんな妹ならぜひ欲しいけど、誘拐とかはしないよ。
「それじゃここじゃあ何だし別の場所で話を訊こうかな」
「それなら私のお家でもいいですか?」
「いいけど、いいの?」
「はい、お願いします」
「?」
なんかむしろ家に招くのが目的みたいになってない? そんなこと無いかな?
そんなことを思いつつもアイシェについて行く私。
しばらくすると街の外れの方に一軒家が見えて来た。
「ここです」
「ここがアイシェの家か~」
そこら辺にある一般的な家と変わらない家だ。
街の内側とは言え外壁沿いだから土地代とかは安そうだけど。
「それで私にお願いって何かな」
「お母さんを、助けてください」
「お母さんを?」
そう言えばこの子の母親は病弱だと聞いた。もしかしてそれで?
「うーん、私に何ができるかわからないけど、とりあえず診てみようか」
「はい、お願いします」
オークの時のお礼もあるしこれくらいはね。
「さてと、プロパティ」
アイシェの母親の状態を確認する。
名前はエイリー、状態は……呪い?!
「呪われてるね」
「え?!」
誰だかわからないけど、彼女を呪った者が居る様だ。
「解呪は出来るけど、そうすると……」
人を呪わば穴二つ、解呪をすれば呪った人にそれは二倍になって跳ね返る。
ゲームではそういう能力だった。もしここでもそうなら呪った者は間違いなく死に至るだろう。
この手で今救える目の前の命を救えば、同時に何処の誰とも知らない誰かを殺すことになる。
それでも私は……。
「アンチカース=リリース」
呪いを解呪した。
これで、誰かが死んだ。
……。
「これで治るはずだよ」
「本当!」
アイシェは嬉しそうに笑う。
今はこの笑顔のことだけ、考えよう。
「ついでに体力も回復させるね。ヒール」
「うん……うん?」
「お母さん!」
お母さんのエイリーさんは体力が回復するなり起き上がる。
「起きて大丈夫なの?」
「えぇ、さっきまでの苦痛が嘘みたいに無くなったわ」
「よかった……よかったよぅ……」
母が救われたと知って泣き出すアイシェ。
助けてよかった。うん、よかったんだ。
「レイナお姉ちゃん、私、一生掛けてでも恩を返すから!」
「いいよ、オークの解体代だとでも思っておいてくれればね」
「レイナお姉ちゃん流石にそんなわけにはいかないよ」
「そうです、私が働いてご恩に見合うだけの金額をお支払いしますから!」
「うっ、いやいや! 本当にいいですから! 普通に知り合いの女の子が困ってたら助けるでしょ? それだけ、それだけなんですから」
何だかこのまま行くと二人して私の奴隷にでもなりそうな勢いなのでなんとしても阻止したい。
なんならもう一人、妹さんも居るらしいから余計にだ。
この家族にはこの家族の幸せがあっていいはずだ。それだけのことなんだ。
「私は別に何かが欲しくて来たんじゃないです。むしろ最初から恩返しのつもりで何かできないかと思っていたくらいです」
オークの解体に街への案内、それにステータスカードの話、色々お世話になった。
恩を返すのは私の方で、彼女達ではない。
「レイナお姉ちゃん……」
「アイシェ、今はこの、レイナさんの言葉に甘えましょう。ここまで言ってくださっているのだから」
「うん、お母さん」
どうやらようやく納得してくれたようで安心した。
「それじゃ、私はこれで失礼しますね」
「レイナお姉ちゃんありがとう!」
「ありがとうございました」
エイリーさんとアイシェ、二人のお礼の言葉を受けながら私は家を後にした。
ちょっと胸が痛むのはいくらなんでも奢りという物だろう。私は万能じゃない。呪われた彼女も、呪った本人も救えるほど優れてはいない。
それなら助けるのはどちらか、言うまでもなく前者だった。それだけのことだった。
「ふぅ……とりあえずもう一回冒険者ギルドに行って今度こそランク上げしないとね」
そういえば今回の事は冒険者ギルドの依頼になってたりするんだろうか。なっててもあの母娘から金銭を受け取るつもりはないけど、待ってたってことは多分そういう事だよね。
そう考えながら歩くこと十数分、漸く冒険者ギルドに戻ってこられた。
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