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レイナとアイシェと魔を統べる者

おはようございます。ヒロミネです。

今回は書いていてちょっと気分が盛り上がったのでいつもの倍ほどページ数があります。

いつもが短いから大丈夫かとは思いますが、疲れない程度にお楽しみください!

サロスが開けた扉の先。


そこには紅蓮の髪を棚引かせた美しい女性が、広間の奥、王座に一人、座していた。


「ふむ……そこもとが勇者か?」

「っ……あぁ、俺が今代の勇者だ」

「ふむ……ふむ……」


 サロスを見る目がすっと細くなる。まるで値踏みでもしているようだね。


「ん-、プロパティ」


 あ、マズいなこれ。

 今プロパティで覗いたけど魔王のレベルは80ある。その上魔王種とやらでステータスも軒並み高い。

 対するサロス達はまだ70にも到達していなかった。

 人数差もあるから行けるかもしれないけど、難しいかも知れない。

 私の出番、あるかも。


「そこのエルフの方が余程強そうじゃが」

「俺の師匠だ」

「ほほ、教師同伴とは今代の勇者はヘタレよな」


 さっきから気になってるけど、魔王の喋り方変わってるね。

 いや、今考える事じゃないのはわかってるんだけど。


「問答は無用だ。行くぞ魔王!」

「ふっ、こい小童!!」


 え、もう戦闘??

 サロスが剣を振り抜くとそれを魔王がふわりと躱す。

 賢者が魔法を放てば魔王は不思議な魔法で魔法を掻き消す。

 戦士が大剣を叩きつける様に振ればそれを片手で止めてサロスに投げる。

 忍者が不意を打てばそれを知っていたかのように背後からの攻撃を避ける。

 躱し、消し、止め、いなす。魔王にはどんな攻撃も届いていなかった。

 別に勇者達の連携が悪いとかではない、単純にステータスに差があり過ぎる。

 それに魔王が一対多の戦いに慣れているのもある、身のこなしに無駄がない。

 これはそろそろ出番かなと思った時、アイシェが声を上げた。


「レイナさん、私も行ってきてよいでしょうか?」

「いいけど、危ないよ? 魔王まだ本気出してないし」

「はい、ですから加勢しようと思います」

「うーん」


 できれば可愛い妹分には危ないことをさせたくない、とは言え気持ちはわかる。

 なので了承した。


「いいよ、危なかったら私が何とかする」

「ふふっ、レイナさんって私に甘いですよね」

「そっかな」


 そうだね、そんな気がする。昔からアイシェに甘かった気がするよ。


「行きます!」


 アイシェが加わると一気に形勢が傾いた、流石私の妹分。

 さっきまでの戦いを冷静に観察していたんだろうね。

魔王がしたいことをさせない、嫌がることをする戦い方ができている。

 戦いの基本はペースを握ってしまう事だ。その為には相手のしたいことはさせない。自分のしたいことを押し付けるのが効果的だ。


「チッ! 厄介なのがいたようじゃな」

「サロス、情けないわね、レイナさんの弟子ならもっと魔王をよく観察して」

「はぁはぁ……すまない、助かった」


 あの二人なら連携もバッチリ取れるし大丈夫だとは思うけど、本題はここからだ。

 防御に回っていた魔王がこの辺りから攻撃を仕掛けて来てもよさそうな気がする。


「そろそろ本気で行くかの」

「っ! 来るぞ!!」


 ほらね、アイシェが加わって余裕が無くなった魔王がついに本気で戦ってくれるらしい。さて、皆はどう出るかな?

 賢者さんはさっきまでより長い詠唱の最上位魔法を行使しようとしている。

 そして戦士と忍者、勇者にアイシェでその時間を稼ぐと言った具合になった。

 悪くない手だけどさて、魔法が通用すればいいんだけどね。


「行きます!! ケラヴノス!!」

「ふんっ、イデア・ケラヴノス!!」

「えっ」


 今魔王、イデアっていった? あれってMOAではハイエルフ限定魔法なんだけど。

 もしかして魔王がハイエルフなんてことないよね……?

 あれも魔王種とやらの特徴なのかもしれないね。

 っと、そんなことよりソフィアさんを助けないとね。


「イデア・ケラヴノス!!」

「何?!」


 今度は魔王が私の参戦に驚いたようで、声を上げる。

 といっても魔法と魔法の衝突に負けて危うくイデア魔法が直撃しそうだったソフィアさんを庇っただけなんだけどね。


「ほう、お主ただのエルフでは無いようじゃな」

「まあ、ハイエルフだね」


 私がそういうと、魔王は驚いたような、それとも変な物を見るような顔をした。


「ハイエルフじゃと? はっ、これはとんだほら吹きもいたものじゃ」

「ほら吹き」


 それはいったいどういう意味だろう?


「わからぬか? エルフなのにか。そうかそうか。ならばお主は相当に若いエルフなのだろうな」

「何を言って、若い? 確かにレイナさんはハイエルフですよ! 若いわけないでしょ!」

「そうだ、師匠が嘘を吐くはずがない!」


 うん、なんか二人が私の名誉のためか、嘘つきでないと庇ってくれてるんだけど。若くないは余計かな、アイシェ。


「ははっ、ははははははは! なるほどなるほど、これはなかなかの詐欺師むきじゃのう」

「今度は詐欺師かあ」


 なんだか私、嘘つきだの詐欺師だの言われやすいね、なんでかな?


「ならば教えてやろう、エルフはな、いや『ハイエルフ達』王族はな。何万年も前にわらわが根絶やしにしておるのじゃよ!」

「え」

「何を言って! そんなわけないだろ!!」


 私が魔王の言葉に驚く一方、サロスが魔王の言葉を否定する。


「ふんっ、信じずとも好い、だがな、そこなエルフはただの詐欺師よ。確かにイデア魔法は使えるようじゃが? 大した威力でもないしの」

「いやあ、それは……」


 そりゃまあ、全力でやって魔王倒しちゃったら空気がね?


「どうせケラヴノスにイデアと名付けただけの偽物じゃよ」

「そんな、そんなわけ……現にお前の魔法を相殺したじゃないか!」

「確かに、それは想定外じゃったなあ……」


 そういって、ケタケタ笑う魔王。


「じゃがな、思い当たる節は無いか?」

「思い当たる節って……」

「それは……」

「え、あるの?」


 いやまあ、そりゃあるかもしれないけどね?


「た、確かにレイナさんは世間知らずだけど……」

「実際、師匠は世間知らずだけど……」

「ちょいちょい」


 世間知らずって、確かにそうだけど、それは異世界人だからであってハイエルフじゃないからじゃない。


「エルフの里の場所も知らないし、常識ないし……」

「戦闘経験は豊富そうなのに妙なところで子供っぽいというか経験が浅そうというか……」

「おおぅ……」


 そりゃまあ、元々16の少女ですからね。数年たっているとはいえ、それでもまだまだせいぜい大学生程度の経験値だ。


「そうじゃろ。いくらでもあるはずじゃよ、ハイエルフとは思えないほど威厳がないとかの」

「「確かに」」

「ひどい……」


 私の弟子二人がサラッとひどい。魔王に流されてる。


「とはいえ、まあ? そこのエルフが膨大な魔力を持っているのは、見たままじゃしなあ」

「ん?」


 見たままって、どゆこと。


「エルフにもこんな隠し玉があったとは、いやはや意外じゃのう。ハイエルフどもよりよほど魔力があるときた」

「おお?」


 もしかして、この魔王。


「魔力でも視えるの?」

「はは、妙なことを聞くな。わらわは魔王ぞ? 視えて当然」


 当然なんだ? いいながら魔王は髪をかき上げる。ドヤってるなあ。


「魔王とはそも、魔の王。ならば魔の根源たる魔力を統べるも同じこと」

「つまり?」

「……物分かりの悪いエルフよな。魔力を視るも、操るも意のままということよ」

「ほうほう」


 なるほど、そっかあ。

 でもそれで、なんでこの余裕?

 私は魔王のステータスみたから余裕なのはそうなんだけど。逆に魔王が私の、魔力だけとはいえ視えているなら警戒をもっとしてもいいはずだ、なのに、なぜ。


「その割には随分と余裕なんだね」

「それはそうじゃろう。なにせ魔力を操れるんじゃからのう」

「……?」


 魔力を操れるから? そりゃまあ、魔法使うんだから、操って……。

 そこまで考えて、わかった気がした。魔王の言いたいことが。


「ああ、使うんじゃなくて、操れるんだ?」

「かかっ、ようやく得心行ったか?」

「うん」


 なるほど、まずいかも?


「ではな、とくと思い知れ、魔王の神髄をな!!」


 魔王が叫ぶと、変化が訪れる。

 おぉ。なんか、私の体、急に、縛られたような感覚と浮遊感が。

 そう思って体を見下ろす。

 あ、浮いてるー。


「お主の魔力、いまはわらわの手中じゃ。残念じゃったの」

「そだねえ」


 相手の魔力まで操れるんだね、厄介だなあ。


「ふむ。ソードビット」

「ん?」


 私がソードビットを出すと、魔王が訝しむ。というか。


「みんなは平気?」

「すみません、師匠、動けません」

「わ、私達も、です」

「わあお」


 どうやらサロス達の少なめな魔力でも体の自由を奪えるようだ。うへえ。


「とはいえまあ、じゃああとは私がやるかあ」

「はんっ、今更何ができる」


 まあ、確かに? 体は動かないけどね。

 でもそんなのはそもそもの話、昔からだ。


「生憎こういうのには慣れててね」

「ほう?」


 ソードビットを私の意思で動かす。魔力は要らない。体もいらない。剣だけあれば、それで。


「そのフワフワした剣でやりあおうと? かかっ、勇者の教師はとんだハッタリエルフじゃのう」

「うーん」


 まあ、ハッタリかどうかはやればわかる。

 にしても。


「俯瞰してソードビットを操作してるから。なんだか昔ながらのテレビゲームみたい」

「てれびげーむ?」

「アイシェは相変わらず拾ってくれるねえ」


 わたしの独り言を拾って疑問符を上げるアイシェ。

 ま、それはいいとして。


「いって、ソードビット」

「ぬっ!!」


 悪いけど、ここからはちょっと本気だ。

 なにせ魔力も体も使えないからね。


「ぐぬぅ! この剣捌き、なるほど? ただのハッタリではなかったようじゃな」

「そうでしょうそうでしょう」


 私、自慢じゃないけど剣技もそこそこ行けるからね。

 とはいえ魔技と剣技、両方あっての魔技剣士だ。

 剣しか使えない今は、半端な状態ではある。


「だがな、この程度、捌けぬわらわではないわ!」

「まあ、ねえ」


 だって、そりゃあ。


「まだ一本だけだしね」

「なんじゃと?」


 私のソードビットはまだある。同時に複雑な動きだってこなせる。

 だから。


「物量と力量、両方で押しつぶしちゃうよ?」

「ぬうっ?!」


 ソードビットを同時展開。私の剣技をトレースした動きで魔王を追い詰める。


「ぐ、ぬうっ…………うぉおおおおおおおお!!」

「がんばるなあ」


 ソードビット『三本』相手に必死の抵抗をする魔王。

 でもまあ。やっぱり。


「魔王、貴女魔力を操れるだけで、それ以外は大したことないね」

「なんっ、じゃと!!」


 だって、ねえ。


「魔王、取引しない?」

「なにおうっ」

「まあまあ、この魔力拘束といてくれたら、私観戦してもいいよ」

「?! なんじゃと?!」

「レイナさん?!」

「師匠! どうして!!」


 私の言葉に声を上げる三者と睨むような眼を向ける勇者パーティのメンバー。


「私じゃなくても、勝てるし」

「え?」

「それは、どういう」

「うーん?」


 サロスはわかるけど、なんでアイシェまで不思議そうにしているのかな。


「うちの妹は強いよ。貴女なんかよりよほどね」

「ほお」

「え、レイナさん? 私動けないんですけど」

「まあまあ」


 それだって、本来魔力の少ないアイシェなら頑張れば動けるはずだ。

 まあ、制限は掛かるだろうけどね。


「で、どーする? 取引するの? しないの?」

「するわけがない!」

「そ」


 私はソードビットを倍に。6本に増やす。


「なん……じゃと」

「これでも、取引しないの?」

「…………」


 私の圧に、魔王が黙る。


「……いいじゃろう。操魔を解こう」

「操魔っていうんだね、この力。どーも」


 はーきつかった。きついってあれだよ? 縛りがだよ? 息苦しかったって意味ね。


「さて、アイシェ」

「は、はい」

「やっちゃっていいよ。人目を気にせず。ううん。『私の眼を』気にせず、全力で」

「え」


 私の言葉に、アイシェが言葉を詰まらせる。

 うん、まあ、ね。


「レイナさん……知ってるんですか?」

「何も。でも、妹分の成長は感じ取ってるよ」

「……わかり、ました」


 そういってアイシェは一歩、また一歩踏み出す。魔王に向けて、一歩ずつ。


「じゃあ、転移させるから、そこで好きなだけ、ご自由に」

「はい」

「いいじゃろう。しかし、これでわらわがこの小娘を殺しても、お主は」

「介入しないよ。大丈夫」


 だって何にも問題ないからね。


「それではー、転移!」


 私はアイシェと魔王を転移で星を落とした草原に飛ばした。


「さて、後はアイシェに任せて、私たちは……」

「師匠!!」

「おぉ?」


 私が「帰ろうか」と言おうとしたら、サロスに掴みかかられそうになった。

 なったので、投げた。


「うわああああああああ!!」

「あ、ごめん」


 しかも結構な勢いでなげた。ごめん。


「し、師匠、なんでアイシェを」

「あの子は強いからね」


 それに。


「星を斬るなら。魔王くらい派手な相手にやらせてあげたくてね」

「星を? 斬る?」


 サロスは私の言葉に疑問形だ。

 ま、そのうちわかるよ。そう心の中で思いながら。


「さ、かえろ」


 私はパーティメンバーの声を無視して、帰路についた。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は次回日曜日の21:00までを予定しております。

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次回はボコボコにされた魔王が涙目で登場するのかなぁ
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