レイナと勇者と魔王城
「これなら一日もあれば森を抜けちゃうね」
「そうですね。そしたら魔族領ですけど」
エルフの国を出てすぐ。ユニコで森の中を駆けながらの会話。
マップを見ながら移動しているけど、うん。これならすぐに森を抜けそうだ。
そう考えると一泊するならまだ森の中の方が良いのかなあ。
「そしたら今日は森で一日明かそうか」
「そうですね、魔族領に入る前に家に泊まるのが良いと思います」
魔族領に入ってからじゃ何があるかわからないもんね。
そういう訳で、私達は森を抜けきる前に一度家を造って宿泊することにした。
「何度見てもレイナさんの魔法は規格外のモノばかりです」
「そんなことないんだけどなぁ」
この家魔法だって低レベル取得の魔法だ。高レベルになると質が良くなるのは確かだけどね。
「やっぱり魔王には星を降らせるんですか?」
「え、急にどしたの?」
というかやっぱりって何かな。私が偉く物騒な人間に聞こえない?
「いえ、魔王討伐に参加を決意されたのなら、それが最善策だと思っただけです」
「あー。そっかぁ……うーんでも周りも巻き込んじゃうからね、もしサロス達が居たら困るでしょ」
「それはそうですが、サロス君ならアレを見たら逃げると思いますよ?」
「間に合わなかったら危ないでしょ……ダメダメ」
せめてサロス達が魔王城付近にいないと確定していたら使えなくもないけどさ。
「兎に角、星降りはまだ未確定だよ」
「そうですか」
なんか残念そうに見えるのは何かな。アイシェってもしかしてあの魔法好きなのかな?
「アイシェは星が降るの、みたいの?」
「えっ。いえ、できれば恐ろしい魔法はみたくないです」
「そう?」
じゃあなんで残念そうに見えたのかな。気のせいかな?
「まあそんなことより、今日もお風呂入って寝よう。明日は早くに出るからね」
「はい」
そう言って私達はお風呂に入り、疲れを癒した後、寝床に着いた。
翌日。早朝。
「今日も元気だ絶好調! さあいくよ!」
「今日は朝から元気ですね」
「これから魔王攻略だからね、気合も入るよ」
そう言って私はアイシェと共に家を出ると家を崩し、元あったように戻してからシロちゃんを召喚し背中に乗る。
前日に手前まで来ていたこともあり魔族領には数分で入り、その荒廃した大地に何か悲しいものを感じた。
「エルフの住む森とのギャップが酷いなあこれは」
「明らかに毒沼もありますしね……」
確かに、ちらっと見ただけでも明らかに有毒な沼とか、危険そうな植物、生き物がいっぱいだ。
「シロちゃんでの移動にして正解だったなぁ……あ、そうだ。魔王城までってどのくらいあるか知ってる?」
「途中に要衝になる砦があってそのすぐ近くだと聞いています」
「砦かあ」
じゃあまずはその砦を攻略するところからかな?
「降らさないでくださいね」
「しないよ!」
まったく、私をなんだと思っているのかな。……流星の魔女か。
そんなことを考えていると、ふと視界に見知った姿を見た気がした。
「あれ? あそこにいるのってサロスじゃない?」
「え? あ、本当ですね、他の方たちもいらっしゃいますね」
勇者パーティは誰一人欠けることなくここまで来られたようだ、安心したよ。
「サロスー! やっほー!」
「? ドラゴン?!」
あ、そうか、下からは私達見えないんだね。背中だもんね。
なんか早速、臨戦態勢を取っているサロス達のところに降り立った、シロちゃん。
そして背中から飛び降りるアイシェと私。
「こんにちは、皆さん。ここで会えてよかったです」
「え、アイシェ。それに師匠も?!」
「やっほー」
驚くサロス達に、軽く挨拶を済ませる。
「またこうして流星の魔女様とお会いできるとは思いませんでした」
「そ、そだね」
ソフィアさんが恭しい礼をする。こういう反応にはどう返していいか困るね。
「その魔女様が来たってことは、一緒に戦ってくれるのか?」
「えーっと」
誰だっけこの筋肉ムキムキな好男子は。えーっと名前名前。
「ズィナミさん、レイナさん共々参戦にまいりました」
「あ、そう、うん。そうなんだー」
「そうですか、師匠が居れば勝ったようなものですね!」
「いや、うーん」
まさかまた星を降らせるわけにもいかない気がする。私は空気の読める女だ。勇者の仕事を取ったりはしない。つもりだ……あぁ、でも、面倒なのは……なぁ。
「とりあえずこの先にある砦だけど、落としちゃっていい?」
「星をですか?」
「うん」
「まあ、大丈夫だと思います」
サロスがサッとソフィアさんに目を逸らす。
あ、そうか、ここは賢者さんの顔を立てないといけない場面かな……。
「私の事ならお気になさらないでください。流星の魔女様がご出陣となれば私のような賢しいだけの者では力不足ですので」
「ご、ごめんね、出番奪っちゃうみたいで」
悪いなとは思ってるんだけど、できるだけ早く魔王をやっつけて平和な世界を満喫したい私だ。
「それじゃあ砦まで一緒に行こうか」
「はい、師匠」
「はい、レイナさん」
サロスとアイシェ他のメンバーも同意してくれたので全員で砦を目指す。
なのでシロちゃんとはここでお別れだ。
そして道中いくばくかの魔物との戦闘を切り抜け漸く砦の見える丘まで辿り着いた。
「それじゃあぶっ放すね」
「こうして間近で見るのは初めてです」
「そうだな、あの時は城に残ってたから」
アイシェとサロスがお互いに意見を言い合う。うーん緊張する。
見られてると思うと緊張してしまう私だった。
「さ、いくよ! メテオ・フォール!!」
今回はそこまで広範囲を攻撃する必要は無いので落とす隕石は一つだ。だから魔力もそこまで込めてない。
そして、星が落ちる。
こちらまで届くほどの轟音と共に凄まじい地響きを引き起こす。
なんとも環境に悪い技だ。環境破壊魔法だね。
「凄いですっ……ここまで距離が離れていても振動を感じるなんて!」
「流石師匠の魔法ですね……!」
そんな風に二人が言う物だから他の人達も口々に褒め言葉を出してくるし、恥ずかしいったらない。
「もういいから、ほら後は魔王の城まで一直線だよ!」
「はい、師匠のおかげで万全の状態で戦いに望めそうです」
「そ、そう」
もう褒められすぎてキツくなってきたよ……。
「ところで魔王の城には星を落とさないのですか?」
「うっ」
賢者のソフィアさんから鋭いツッコミが来た。なんて答えよう。
「魔王は……勇者が倒すものでしょう。それに大規模な魔法で攻撃して城を破壊できても魔王の消滅が確認できなかったら安心できないでしょ?」
「なるほど、それもそうですね」
どうやらひとまず、これで納得してくれたようだ。ふぅ。
「それじゃあ行くぞ! 皆!!」
「おう!」
「ん」
「はい、勇者様」
「なんでレイナさんじゃなくてサロス君が仕切ってるのかな」
「そこは私じゃなくていいんだよ……」
アイシェだけがちょっと文句ありと言った様子だったけどそんなこと言われて私をリーダーにでもされたら困る。何も知らない私に任せるほど愚かなことはない。
私は言われた通り、望まれる力を、ちょっとだけ振るうだけでいい。
で、まあ、それはおいといて。そこから先はあっけないものだったよ。
魔王の城に着くも警備兵や巡回の魔物を勇者パーティがなんなく倒して突き進んでいく。
私とアイシェは基本的にはそれを後ろから見たり、たまーにアイシェが補助していただけだった。
つまり私は何もしてない。
私、引率の先生みたいなものかもしれない。
「よし、遂に着いたぞ!」
「おぉ……」
ついに魔王の城、その最奥。
魔王が待ち構えているであろう玉座への扉の前に立った。
え、サクサク進み過ぎじゃない? 大丈夫??
「開けます、師匠」
「なんで私に言うかな?」
私、何もしないつもりだよ、基本的には。
「いえ、師匠の準備は万全かと思いまして」
「まあ、大丈夫だよ」
いざとなればインベントリから幾らでもアイテムが出て来る。
旅の間に回復アイテムとかも作り溜めてある、問題はない。
「行きます!」
サロスが言うと同時に扉を開ける。
さて、これで魔王との対面か……。
私はちょっとだけ緊張しつつ、サロス達の視線の先、そこにある影を見た。
ご読了ありがとうございました!
感想、評価、ブックマーク等頂けますと励みになります!!
次回更新は次回日曜日の21:00までを予定しております。




