レイナとルーンと命名
「ふんふんふ~ん。カリッカリ~ほりっほり~」
「レイナさん、何してるんですか?」
帝国の東にある都市、レイナールを目指す旅路。今は乗り合い馬車で優雅に(?)移動中。
「これ? ルーンだよ」
「あぁ……すみません、それは見たらなんとなくわかったのですが、そうではなくて、ですね」
「うん?」
だとしたらなんだろう、何か気になることでもあったかな?
「そもそもその木の杖? はなんなのかとか。どんなルーンを彫っているのかな、とかですね」
「あー」
そっか、アイシェにはこれ、見せたことなかったかな。
「これは神様から、料理大会の優勝賞品としてもらった杖だよ」
「神様から。そんな貴重なものを彫ってるんですか」
「ん? そだねえ?」
まあ元々そのためにもらったわけだし、変なことではない。
でもまあ、アイシェの言わんとすることもわかる。
「レアアイテムだからね、間違えないようにしないとね」
「そうですね、少なくとも乗り合い馬車ですることではないですね」
「……そうだね?」
確かにその通りだ。でも、手が止まらない。
「まあ、それはそれとして、どんなルーンを?」
「うん、色々ねー、考えながら彫ってるよ。できるだけ強くしたいからね」
そう、できるだけいいものにしたいという思いはある。
そこで悩んだのが一番目のルーンだ。
「アイシェは強力かつ唯一性の高い杖と、強力で唯一ではないけど、それだけに無限の杖、どっちが強いと思う?」
「……言っている意味が分かりません」
「うーん」
まあ言葉だけじゃ、伝わりづらいよね。
「まあ、ですが、そうですね。どういう杖かはわかりませんが、100の杖が一本より、60の杖が二本の方が強いんじゃないですか?」
「すごく単純に考えたね?」
「まあ、良くわからない話ですし」
「だよねぇ」
まあ、そうだね。うーん。
「でも、無限? にあっても、手は二本しかないですよね」
「ま、まあね」
私はまだ魔法とかスキルで手数、もとい分身を増やせるけど……普通に考えれば手は二本だ。
無限にあっても仕方ないか。
「無限は強いけど諦めよう。一点ものにしよっと」
というわけで『無限増殖』のルーンは彫らないことになった。
「で、代わりに魔力源泉っと」
これで魔力の源として、魔力が無限に湧いてくる。うん、超強い。
「他にもアレとかコレとか彫りたいなぁ」
「そんなに削って大丈夫なんですか?」
「……彫るとはいっても色々あるからね」
今回のは彫るって言い方はしてるけど、実際は習字が近い。
綺麗に書き並べている感じだ。
「これ不壊属性だから傷つかないし」
「ふかい? 壊れないんですか?」
「そ。傷もつかないよ。だから上から魔力で描いてるの」
「そういうのもありなんですね」
「そだよ」
私の言葉に興味深そうに杖を覗いてくるアイシェ。
「それにしても小さい字ですね」
「いっぱい書き込みたいからね」
「それにしてもなんで壊れない杖を?」
「うん?」
「だって、杖に『不壊』って書いたらいいのでは?」
「あー。言ってなかったっけ」
「??」
そういえばアイシェには簡単なルーンしか見せてなかったね。しかも一回。
「アイシェ、この前のハンマー覚えてる?」
「はい。斬れるやつですよね」
「そ。あれね、あと一回も使ったら壊れるんだよ」
「え?」
疑問符を浮かべるアイシェに、私は続けて説明をする。
「ルーンはね、強力だけど、宿した対象に大きな負荷が掛かるんだ。だから、やわな素材のものに書いたりしたら、あっさり壊れるんだよ」
「でも、だとしたら、それこそ『不壊』と書けばいいのでは?」
「まあね。でもルーンの強さによって、負荷が違うんだ。『不壊』はめちゃくちゃ強いから、下手なものだと書いてる途中で砕けちゃう」
「ルーンって万能じゃなかったんですね」
「そだよー」
まあ、無茶苦茶強いのは強いんだけどね。
「大抵の装備は『不壊』なんて矛盾しかねない強力なワードは書けないから、だから元から壊れないことに特化した装備に、ルーンを書くんだー」
「なるほど、それで壊れない杖なんですね」
そんなわけで、私はまだまだ杖にルーンを刻んでいく。
「それで、この杖の名前はなんていうんですか?」
「名前」
そういえば、名前か。
「エルダースタッフ、らしいけど」
「けど?」
「個人的にルーンスタッフと命名しようかと」
「ルーンスタッフですか」
ごめんなさい神様。私、大してネーミングセンス無いのに勝手に改名しました。
「ルーンスタッフ、使うタイミング、来ないといいですね」
「……ま、まあね」
本当は適当に試運転したいんだけど、下手なことして大騒ぎになっても困る……よね。
「さて、それじゃあ、他にもルーンを彫ろうかな」
「他にもあるんですか」
「まーね」
いろいろ彫っといて損は無いしね。
こうして私は、しばらく馬車での移動中、ルーンを使った工作活動にいそしむのであった。
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