レイナと剣聖と流星
「さあ始まります、今年もやってきた真の決勝戦! 対峙するのは流星の魔女レイナ選手と剣聖ローソン選手だ!!」
「今年も?」
先刻の神様の「戦いなさい」という発言から数十分、コロッセオみたいな会場から調理台とかを片付けて、今まさに始まらんとしている私と剣聖の試合。
なんでこんなことに? とか思いつつ、まさかと思うけどこのコロッセオって……とか、色々思っていたら、不穏な発言を拾った。
「昨年度まではローソン選手に敗れた決勝進出者が毎年のように異議申し立てて行われていた神前試合ですが、今年はローソン選手が挑戦者だ!!」
「えぇ……」
それかぁ……。それで「戦いなさい」とか言い出して「はい!」って答えたのか。
つまりこれ、今日に始まったことじゃないね?
「にしてもよく説明してくれる司会者だなぁ」
かゆいところに手の届くいい司会だね。
「それでは! 真決勝戦! スタート!!」
「およ」
そして相変わらず急に始まる試合。いい司会じゃないね。
「ゆくぞ! 流星の魔女殿!!」
「うーん」
正直あんまり乗り気ではないんだけど。料理関係ないし、これ。
でもまあ、優勝賞品にはちょっと興味あるし……。
「やるしかないかぁ」
私はとりあえず、そっと木刀を取り出す。
「何? 魔法を使う気はないのか?」
「ん? まあ」
使う気ないっていうか、常時使ってるような物というか。
でもそんなこと言う必要ある? 手の内明かすような真似、する必要、ある?
「魔法使いが剣士の真似事か」
「いやあ、魔法剣士だし、ねえ?」
「何? 魔法剣士? 魔法も剣技も三流の雑魚の象徴じゃないか」
うーん。わかってたけど、この世界の魔法剣士肩身狭くない?
「いい。一瞬で終わらせてやる。流星の魔女、いや、詐欺師め、付き合う時間も惜しい」
「えぇ……」
付き合う時間も何も、絡んできたのそっちじゃない……?
「お前では俺には勝てない、そう、この俺、人類の頂点たる、到達者にはな!!」
「おぉ」
気合乗ってるね。それに『到達者』かぁ。
そう、ちらっと思考を巡らせていると、剣聖さんが斬りかかってくる。
「あら危ない」
「何?!」
私はぶんっと木刀を振って剣聖さんの聖剣を弾く。
「なぜ、到達者でもない、ただの詐欺師に、なぜ!!」
「いや、うーん」
だって、ねえ。
「私、超越者だし」
そういって剣を弾かれ、体勢を崩した剣聖さんに木刀を一振り。
「ぐぬぅっ!!」
「おぉ」
耐えた。すごく痛そうだけど、耐えたねぇ。
「なぜ……俺の聖剣はすべてを柔らかくする……なのになぜその木剣は硬度を保ったままなのだ……」
「なぜって、ルーンだけど」
「るーん?」
あ、知らないのね。
私はこの木刀に『硬化する』と書き込んだ。
だからこの木刀は常に硬化し続け、柔らかくなった瞬間から硬化している。
なので柔らかくなるとか、ならないとか、そんなのどうとでもなるのだ。
というか、この世界では木刀じゃなくて木剣っていうの? 私も合わせた方がいいかな?
「常に固くなる木と……こほん。木剣なんだよ。だから柔らかくしても無駄だよ」
「だとしても! 木剣がこの聖剣と普通に渡り合えるものか!」
「えぇ?」
それってまあ、つまり、普通に考えて能力の差し引き無しにしても、木と鋼が打ち合ったら木が負けるよねって話?
「トリックばかり使うペテン師め……」
「うーん……硬化するんだよ? どこまでも硬くなるんだから、剣と渡り合えたっておかしくないよ?」
「魔法は使わないと言ったではないか!」
「えぇ」
使わないとは一言も言っていない。それに、これは魔法ではない。
「魔技だよ? ルーン。わかる?」
「知るか! この詐欺師め! たとえこの聖剣と渡り合えたとて、剣技では俺の方が上だ!」
「おぉ」
すごい自信だね。じゃあ、やってみようか。
「えい」
「ぐっ?!」
私は剣聖さんに一瞬で詰め寄り、木刀の柄で脇腹を小突いた。
で、剣聖さんはというと……。
「ぐっ……ふぅっ……はぁっ、はぁっ」
「めっちゃ効いてる」
小突かれた勢いで吹っ飛び、立ち上がるも、息も絶え絶えだ。
「魔法使いが……ここまでの身体能力を持つとはな……」
「まあねぇ」
超越者としての私のレベルは、到達者の比ではない。
目で追うのもやっとかもしれないね。
「だが、俺は負けるわけにはいかない。料理人としてのプライドがある」
「そこ剣聖のプライドじゃないんだ」
彼はどちらかというと、料理人らしい。
血の気の多さは明らかに戦士だけど。
「これで終わりにしよう。絶技……トコロテゥエン」
「ところてん?」
なんだか柔らかくてつるっとした感じだね?
そんなことを考えていると、彼の技が私に降りかかる。
高速の連続突き。それが彼の技だった。
でも。
「いやいや、手数で押されてもね」
「ぬぅっ?!」
いくら手数で来られても、一回当たりの力が半減するというかなんというか、とにかく弾きやすかった。
「この連撃を見切るとは」
「まあ、そういう技見慣れてるし」
ゲームにも似たような技あったし。
「さすが悠久の時を生きるハイエルフか……」
「ま、まあね」
別に時は関係ない。関係ないよ。
「最後に、流星を見たい」
「いやいやいや」
何ちょっと「最後に本気を見せて欲しい」みたいな、ちょっとバトル系の作品に出てきそうなセリフで、かなりヤバいこと要求してくるのこの人。
「ダメだろうか。貴女の力の一端に挑みたいのだ」
「えぇ」
急にしおらしい態度である。さっきまでペテンだの詐欺だの言ってたのに。
「……ま、いっか」
どうせ地上に落ちる前にディスペルマジックで消せると思うし。
「じゃ、行くよ?」
「あぁ、頼む」
「メテオフォールっ」
私はできるだけ手加減して、小さ目かつ一つだけ隕石を落とす。
「絶技……トコロテゥエン!!」
「あら」
剣聖さんは叫びながら必殺の剣技を隕石に向かって斬りつける。
そして。
「おぉ、斬った」
「「おぉおおおおおおおおおおお!!」」
これには私と剣聖さんの戦いを黙って見守っていた観衆も湧き上がる。
でも。
「ぐぬぅっ!!」
「あちゃあ」
剣聖さん、何も考えてなかったみたいだね。
メテオフォールはそもそもが本質的に質量攻撃だ。
だから、柔らかくして斬ったところで、重さも大きさも変わらない。
いや、大きさは一応、半分ずつにはなってるけど、合わせたら一緒だ。
「なので、斬りつけに行ったらそりゃあ潰れるよねと」
私はこれ以上は危ないので速攻でディスペルマジックで隕石を消した。
そして、剣聖さんは結構大きめな衝撃と共に地上に落ちてきた。
「斬ってなお、ダメージは残る……か」
「まあねえ」
「だが、よい経験になった」
「そ」
まあ、ならいいんだけどね。
何がいいかは、さておき。
「じゃあこれで、私の優勝でいいかな?」
「あぁ、異論無い」
「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」
こうして、私と剣聖さんの戦いは終わり。
ついに優勝の時が来た。
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