レイナと決勝と神の一皿
「さあ始まります、決勝戦! 今回雌雄を決するは、流星の魔女レイナ様と――料理界の剣聖と名高い、七聖剣が一人、ローソン選手だ!!」
「コンビニ?」
なんかやけに便利そうな名前の人が出てきたものだ。
ついに迎えた決勝戦。私、レイナは今日ここで神の食事とされるビーフシチューを作ることになっている。
よく考えたら手間のかかる料理なので、スキルや魔法で時短出来なかったら今回の大会には向いてないメニューだよねえ。
「決勝戦も今までと同じ採点方式だが! 決勝戦は創造と食の神、シュレリア様にも奉納し、採点がされるぞ! それでは! 用意、はじめ!!!」
「いつも通り急だなあ」
この大会の司会者、ホント急に始めるよね。なにがそれではなんだろう。
「さて、ちゃっちゃとやり――」
「おぉ!! 流石ローソン選手! 見事な剣捌きだ!!」
「剣?」
言われて気になってしまい、見てみると、確かに剣で調理している。
わたしみたいなの、他にもいたんだねぇ。
「ここで説明しよう! ローソン選手の使っている聖剣マロニカはどんなものでも触れた瞬間に柔らかくしてしまう特殊仕様。柔らかくなった素材は斬りやすいだけでなく、調理されても柔らかく舌触りがいいと評判だ!!」
「え、ずるい」
それ、私がルーンの調理道具使うのと何が違うのかな。
こんなことならルーンの装備一式で来るべきだった。
「ふ、いい料理人というのはな、いい道具も使うものなんだよ」
「うわぁ。わかったようなこと言うー」
わたしだってね、いい道具持ってるんだからね。
「でも今回はいいよ。このくらいはサービスするよ」
「何?」
「私だって、秘策、あるもんね」
そう、私には神様の好物を知っているというアドバンテージがある。
このくらいは目くじら立てるようなことではないのだ。
「さてさて、私は私のできること、しないとね?」
「くっ、余裕でいられるのも今だけだ!!」
そういって剣聖さんは自分のテーブルに向かい、また調理を始める。
そして、数分後。
「できたぞ!!」
「お、早いねえ」
私はスキルと魔法込みでも丹念にしっかり調理しているのでまだかかりそうだ。
ここは先手を譲りましょうとも。
「私の料理は……これだ!!」
「あれは――」
かなり厚切りの……フレンチトーストだ。
「さあ、食せ!」
「ふむ、では」
審査員一同、まずそれを手に取る。
そしてその、見た目の厚切りに似合わない柔らかさ、重量に負けて垂れていく柔らかなパン生地に驚く。
「こ、これはすごい、食感もさぞ柔らかいことだろう」
「そうね、それにこれ、しっかり味が染みてそうで、とってもいい香りもするのよ」
「食べる前から美味い予感がひしひしとしますな」
「さすが決勝戦、こんなうまそうな料理に出会えるとは!」
皆さん大絶賛、食べてもないのにねぇ。
まあ。美味しそうなのは認めるよ。私も食べたい。
そんなことを考えながら、調理しつつ審査員の反応も伺う。
すると。
「出ました! 満点だ!!!!!!」
「「おぉおおおおおおお!!!」」
「あちゃあ」
絶対やると思ったよ。うん、はあ。
「これはレイナ選手も後がないか?!」
「と言ってる間にできましたよっ」
私も完成した料理を、ビーフシチューを皿に盛り付けて持っていく。
「おぉ……このかぐわしい香り……これは?」
「ん? 料理名?」
「うむ」
「ビーフシチューです」
「……なに?」
私は聞かれたので答えたのだが。なんだか審査員達の顔色が怪しい。
「今、なんと?」
「え、ビーフシチュー」
「……このペテン師が!!!!!!!!」
「えぇ?!」
何、急にキレられたんだけど……。
「それは神の一皿の名だ! 人類には到達しえない究極の料理の名を、騙るとは!」
「えぇ……?」
そんなこと言われてもなぁ……。
「審査するまでもない! 神に対する冒涜、許されるはずもない!!」
「え、嘘」
そんなキレたついでに審査まで投げ出すとかある?!
「去れ! この神聖な舞台から去れ!!」
「えー」
うーん、まあ……いいかな?
「じゃあ失礼しまーす」
「待ちなさい」
「ん?」
なんかこの声、聞き覚えあるような。
私は声の響いた方をふと見る……すると。
「あ、神様」
「何?!」
「こんにちは人類の皆様。お久しぶりですね。神の一皿の名を聞いて、降臨しました」
「まさか、まさか……!!」
審査員が全員、いや、その場にいた全員が、目を見開き驚く。
そこにいたのは、間違いなく、神気をあふれさせた、誰が見ても神だとわかってしまうくらい、説得力のある姿の――。
「神、シュレリアです。この前ぶりね、レイナ」
「ども」
神、シュレリアの降臨だった。
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