レイナとルーンと神の一振り
「ガリガリ~彫り彫り~」
「何してるんですか、レイナさん」
あれから順調に勝ち進み、ついに決勝戦を翌日に控えた日の夜。
私は明日に向けて準備をしていた。
「何って、決勝戦の秘策を準備?」
「それで、彫り物ですか」
アイシェが言うように、私は彫り物をしている。
包丁にこう、ガリガリと。
「そだねえ、ルーンをね」
「ルーン、ですか」
そう、私は今ルーンを包丁に刻んでいる。
「これは美食のルーンだね」
「美食のルーン?」
「うん。刻んだ物で調理した料理が格段に美味しく感じる魔法、かな」
「あぁ……」
私の言葉に何か、思うことがあるのか遠い目をするアイシェ。
「どーかした?」
「いえ、レイナさんの料理を食べた人、みんな様子がおかしかったなと思って」
「いやいや、あれはルーンの力じゃないから」
あれは単純に美味しいのと、スキルで作っているバフアイテムだからだ。
「そうなんですか? じゃあルーンってなんですか?」
「うーん、事象を確定させる言葉かなあ」
「??」
こんなこと言われてもわからないよね。
うーん?
「例えば、斬るって刻むとするよね」
「え? はい」
「そうすると、それがどんなものでも、絶対に触れた対象が『斬れる』んだよ」
「え?」
ちょっとよくわからないといった様子のアイシェ。
なのでわかりやすい? 見本を見せる。
「ここに一振りの木のハンマーがあります」
「はい」
「これに斬ると刻みます」
「はい」
「するとあら不思議、なんでも『斬れる』ハンマーの完成です」
「そんなことありますか?」
まあそうだよね、ハンマーは普通斬るものじゃない。
でもだからこそ、これが一番わかりやすいはずだ。
「何が斬れたらいいかなあ」
「ではアダマンタイトを」
「おおぅ」
ファンタジー鉱石だねえ。いいねえ。
「じゃあこれをっと」
私はインベントリからアダマンタイトの延棒を出す。
「アイシェはハンマーを持ってね。あ、危ないから気を付けて持つんだよ?」
「は、はい」
私はアイシェにハンマーを渡す、そしてそれで軽くアダマンタイトに触れるよう伝えた。
アイシェは恐る恐る、アダマンタイトにハンマーを触れさせた。
すると。
「き、斬れました」
「すごいでしょう」
アダマンタイトは鋭利な刃物でするっと斬ったかのようにきれいな切り口で斬られいていた。
「これがルーンの確定事象だよ」
「す、すごいです」
だよねえ、凄いよねえ。
「じゃ、ハンマーは処分で。
「もったいなくないですか?」
「いやいや、そんな危ないモノ持ってられないから」
なんでも触れただけで斬れるとか、危ないからね?
「強い力はコントロールが難しいんですね」
「そだねえ」
ほんと、その通りだ。
「てわけで、美食のルーンを彫ってるんだよ」
「なるほど、つまりずるですね?」
「え」
これってズル……かな?
「これって、ズルイ?」
「だってどう調理してもおいしくなるのは確定なんですよね?」
「そ、そうだね」
まあ、ちゃんとするつもりではあるから、保険みたいなつもりだったんだけど。
「ズルです」
「ズ、ズルかあ」
じゃあ、やめとこう。
「ならルーンはお預けだね」
「そうしてください」
こうして、私の決勝への本気の現れ。ルーンは使わない方向性になり。
決勝は正々堂々戦うことになったのであった。
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