レイナとアイシェと適職
「レイナさん、本選出場決定、おめでとうございます!」
「いやあ、どうもどうも」
予選最終日が終わった翌日、早々に発表された本選出場者達。
その中でも私、レイナは売上、投票数共にぶっちぎりの一位で予選を通過していた。
「レイナさんって本当に何でもできますね」
「そんなことないよ。できることだけだよ」
人間何でもはできないものだ。まあ私はハイエルフだけど。
「そうですか? ……ところで実は前々から気になっていたんですけど、レイナさんってどういう職業適性なんですか?」
「職業適性?」
なんだろう、初めて聞くね、それ。
「この世界の人間、エルフもですけど、生きるものの殆どが生まれながらに持ってる適性のことですよ。成人したときにステータスカードを更新すると、わかるやつです」
「初耳」
そんなのあったんだね。ゲームで言う職業みたいなものが、この世界のステータスカードにもあったわけだ。
「レイナさんって、魔法使い……なんですか?」
「うん?」
今のはどういう意味だろうね。
「普通、適性は一つですけど、人によっては狩人と商人とか、二つの適職があったりしますよね」
「そ、そうだね」
さも知ってますよねと言わんばかりに言われては、知りませんとは、言えなかったよ。
「それで、失礼だとは思うんでけど、レイナさんってどうなのかなって」
「というと」
「というのも、レイナさんってなんでもできるじゃないですか」
「だから、なんでもはできないよ」
「でも、料理も魔法も、スキルも剣も使えますよね?」
「ま、まあ」
それはまあ、プレイヤーですし。
「だから、どうなのかなぁって」
「うーん?」
どうなんだろうね、私のステータスカード。
ちょっと見てみようか。
えーっと適職……適職……。あ、あった。
『ゲーマー』
……うん、職業? これ、本当に私の適職? 神様にいたずらされてない?
「えーっと……ね」
「はい」
どうしよう、こんなの恥ずかしくて言えたものではない。となると……。
「……ルーンブレイダー」
「るーん? なんですかそれ」
「魔技剣士ともいうね」
「まぎけんし」
私はうまい言葉が見つからなくて、ゲーム時の自分の職業名を名乗っていた。
まあ、自分でも向いてる職というかプレイスタイルだったと思っているので、いいよね。
「それってどんな職業なんですか?」
「んー、魔法と剣で戦う職業、所謂魔法剣士だね」
「レイナさんが……?」
そういってアイシェは首をかしげる。なんで?
「そう、魔法も剣も使えるでしょう?」
「ま、まあそうですけど」
それでもなぜか納得いかない様子のアイシェ。なんでだろ。
「あの、レイナさん、一般常識を言っていいですか?」
「ん?」
え、なに、なんでここでその前置きで一般常識を言われそうになってるの私。
これだとその、私、何か一般常識を教えてもらう流れみたい……。
「魔法剣士というのは、一般的にどちらの才能も貧弱な人が、それでも冒険者になりたくて、選ぶ職業ですよね?」
「うん、うん?」
え、魔法剣士が?
ま、まあ、器用貧乏ではあるけど……。
「魔法だけでは微妙、剣だけでも微妙、だから両方使ってようやく一般的。これが魔法剣士です」
「う、うん」
なるほど、そういうことなんだね。この世界の魔法剣士って、そうなんだ。
「なのでレイナさんみたいなのは、いえ、わかりますよ? 魔法と剣両方使える、それも規格外に。でも魔法剣士と言われると、多分ですが、多くの人は首をかしげますよ」
「おおぅ」
そうかぁ、私、魔法剣士名乗れないんだね……。
「まあでも、ルーンブレイダーは魔技剣士だから」
「その魔技ってなんですか?」
「ん、ルーンだよ」
「るーん」
なるほど、流石魔法が浸透してない世界だね、ルーンもご存じないわけだ。
「ルーンっていう特別な魔法技術を魔技っていうの。それを使った剣士だから、魔技剣士=ルーンブレイダーなんだけど」
「なるほど?」
うん、わかってないって反応だね。
「まあ、そのうち機会があったら、見せるよ、多分」
「なんだか見たら常識が崩れそうなので、見なくてもいい気がします」
「そお?」
まあ、この世界の常識からは、ズレるかもね……。
「さて、そんなことより、なんだったっけ、何の話してたっけ」
「そうです、レイナさんの適職の話は、なぜ何でもできるのかというところからでした」
「何でもはできないって」
でもそれで行くと、ルーンブレイダーだからって、説明にならないね?
「その魔技剣士以外にも適職があるんじゃないんですか?」
「あ、そ、そうだね。料理人とか、大工とか、色々あるよ」
「やっぱりそうなんですね」
本当はゲーマーなんだけど。いいよね別に。見せるわけでもないし。
「レイナさんってやっぱり才能の塊なんですね」
「そんなことないよ……?」
今の適職だって口から出まかせだし。
そういう意味では嘘つきの適職はありそう。職業じゃないけど。
「はあ、私の適職と1つでもいいから交換してほしいです」
「そういうアイシェはなんだったの?」
そういえば私はアイシェの成人……この世界の成人って何歳なのか知らないけど、成人になった場面に立ち会った記憶がない。
一体いつの間に?
「私は、その」
「うん」
「えっと」
「ん?」
なんだろ、言いにくそうだね。微妙な職業だったのかな。
しばらくもじっとしてから、アイシェは口を再度開く。
「司書と……花嫁でした」
「わあお」
それは何というか、女の子でそれが適職なのは当たりなのでは。
なんで恥ずかしがってるんだろう、いいじゃん、花嫁。
「剣士か魔法使いがよかったです……」
「いやいや、いいと思うよ、司書も花嫁も」
アイシェが本に強いおかげで得られた情報とかもあるし。今後も役立ちそうだ。
「にしても花嫁かぁ」
「うぅ」
サロスはいい目をしてたってことだね。見る目があるよ。
「将来が楽しみだね」
「うぅ……」
私が何か言うたびに顔が赤くなっていくアイシェを見て。
お嫁さんいいなぁ……と、若干他人事のように思う。
私、ハイエルフだしなぁ……。
「さて、それで、明日からの本選だけど」
「はい。明日からはレイナさん一人の戦いですから。観客席で応援してますね」
「うん。そうだね。そうなんだよね」
本選からは料理人一人の戦いになる。お店の時のように協力は頼めない。
「ま、何とかなるよね」
「レイナさんなら優勝間違いなしですよ」
「そかなあ」
他にもいい料理人はいっぱいいると思う。私のは今回、目新しさもあって大盛況だったけど、だからと言って料理の質が本職に勝っているとは限らない。
「大丈夫です、間違いなしです」
「んーなんでそこまで自信満々?」
私が聞くと、少し驚いた様子を見せた後、アイシェは堂々と語った。
「だってレイナさんはあの王国一の料理人が認めた料理人ですよ?」
「王国一の料理人」
誰だろう。誰かに認められたっけ?
「王国の料理長ですよ」
「あぁ」
名前は覚えてないけど、なんか、そんな人に料理を褒められた記憶がある。
「なので優勝も夢ではないです」
「なるほど」
そうかあ。そう考えれば、私の料理って捨てたものじゃないかもね。
って、もうこんな時間。私の話ばっかりでいつも寝てる時間になってしまったよ。
もっと本選の対策とか、考えるべきだったはずなんだけどなぁ……。
「まいっか、そろそろ明日に備えて寝よう」
「そうですね、明日からが本番ですからね」
こうして、私とアイシェは他愛ない話を繰り広げた後、明日の本選に向けて、ゆっくりと睡眠をとるのであった。
ご読了ありがとうございます!
ブックマーク、評価、コメント等頂けますと励みになります!
次回更新は不定期ですが、書け次第更新とさせていただきます。




