レイナと二日目と適正価格
「んまぁあああああいい!!」
「生きててよかった!!」
「これが……禁断の、果実」
「なんかテンションおかしい人多くない?」
出店二日目。一日目の花火と口コミで、二日目は花火をあげていないのに大盛況だ。
でも、なんか食べた人、飲んだ人のテンションがおかしい。
「レイナさん、一服盛ったんですか?」
「そんなことしてないよ?!」
人を何だと思っているのかな。
そう思っていると。
「こちら、017番ですか?」
「え、あ、はい」
そういって訪れたのは、見た感じ身なりのいい、青年だった。
「番号はそうですけど……投票してくれるとか……ではなさそうですね」
「こちらで怪しい飲食を提供していると、報告がありまして」
「えぇ」
怪しいってひどいな。この世界じゃ見られない珍しいものってだけだよ。
「食べた者も異様なほどに強化されていたり、テンションが高かったりと、まっとうな食事とは思えないと、報告が」
「……あぁ」
まあ、そうね。テンションに関しては知らないけど、ステータスは上がるだろうね。
何せ私の作った『バフアイテム』だし。
「ステータス上がるのは仕様です」
「そうなのですか? 滋養効果のある食事とか?」
「まあ、そんなところです」
実際は違うけど。まあ、大体あってる。
「まあそれはいいとしましょう。ですが一番問題なのは、値段です」
「はい?」
値段って、商品のだよね?
「えっと、一応適正価格だと思いますけど」
「どこがですか」
「どこがって……」
材料費、人件費、色々加味して、なんかこのくらいかな? っていうラインで出したつもりなんだけど……。
「こんな安売りされては困ります。他の商人や料理人から金持ちが金に物を言わせて赤字が出るレベルの安売りで票を取りに来ていてずるいと苦情が出ています」
「え」
そんな馬鹿な。そもそも金持ちはあってるけど、それに物を言わせたつもりは……あ、無くはないけど。でも、赤字は出てない。むしろ儲かってるくらいだ。
「儲かってますよ?」
「そんなはずありません。これほどの料理と飲み物、本来ならこの5倍の値段は付かなければおかしいモノですよ」
「えぇ」
って言われてもなぁ。
「とにかく、これ以上商売を続けて、予選通過を目指したいのでしたら、適正価格でお願いいたします」
「う」
むぅ、でもなあ、今更値段を上げたりしたら売れなくなりそうだ。
あ、でも。
「わかりました。でもその代わり、新しい商品を追加しても?」
「む。それは適正価格で、ですか?」
「そのつもりです」
「それならばまあ、私から話は通しておきましょう」
「お願いします」
結局この青年、何者なのかはわからないけど、多分商業ギルドかこの大会の主催者側の人だよね。
審判とかなのかなあ。
「さって、アイシェ、値段を5倍にするよ!」
「え、それって、売れるんですか?」
「うん? 多分ちまちまとしか売れないね?
「ですよね?」
でも大丈夫、我に秘策ありだよ。
「新料理。かき氷~」
「なんですかそれ」
「氷を削ったものに、甘いシロップを掛けたものだよ」
「……おいしいんですか、それ」
「聞いただけだとわからないよね」
まあ、そうだろうね。でもね。いいの。
もうこの出店の話題性は十分だ。
この後は秘策でゴリ押す。
「さて、人手が足りないし……ファントム」
「?!」
私は分身を出した。うん、それだけ。なんだけど。
「れ、レイナさん?!」
「「なに?」」
「なんで増えてるんですか?!」
「「なんでって言われても。人手足りないから?」」
この先、もっと混むことが予想される。だから、今からファントムしておく。
「「はい、ファントム」」
「ちょ!!」
「「「「何??」」」」
「なんでさらに増えてるんですか?!」
そりゃまあ、2人が2倍になったら、4人だよね。
「ど、どこまで増えるんですか?」
「最大8人だよ?」
「……えぇ」
ってわけでもう一度、ファントム。
『はい、終わり』
「あ、あはははは」
アイシェが乾いた笑いを漏らす。うん、引かれてるね。
『まあとりあえず、これで人手不足は解消だね?』
「そ、そうですね」
魔力消費がえぐいから、瞬間火力を出したいPvPでしか使われないファントム。まさかこんな形で使うことになろうとは。
「……そういえば」
「な、なんですか」
「ん、ちょっと試しに。ファントム」
「ちょっ!!!」
あ、やっぱり。なんか増えた。
ゲームでは8人制限あったけど、リアル……というか、この世界ではどうかなと思ったんだけど。どうやら上限は8ではなかったようだ。
かといってこれは多すぎるので……。
「スキルキャンセル」
「あ。ははは」
アイシェの反応が「もうこんなの笑うしかない」という感じだ。
まあ、増えたり減ったりしたら、そうなるよね。
「さて、さくっとかき氷作っちゃいますか」
「そ、そうですね」
というわけで、私はサクサクっとかき氷を複製。ファントムで増えた私に給仕をしてもらう。
「レイナさんが8人もいると……怖いです」
「なんで」
どういうことかな。
「だって、王国でも過去類を見ない魔女が、増えるって……1人でも国家を一晩で滅ぼせると噂のレイナさんが8人……世界が終わりますよ」
「絶妙に失礼じゃない?」
それって私が暴れん坊みたいだ。そんなことしないよ。
「そんなことしないよ」
「そ、そうでしょうけど……」
まあでも、うん、絵面は怖いかも。
なにせ同じ顔、同じ声の人物が8人だ。うん、ホラーだね。
「まあま、お仕事しましょ」
「そ、そうですね」
そんなこんなで波乱の二日目を私8人とアイシェの9人で乗り切る。
さて、明日からはより一層忙しくなるよ。
「あ、これだしとこ」
「?」
私は秘策であるメニュー表を取り出す。
「日替わりすいーつ?」
「そ」
これが私の秘策。日替わりで適正価格っぽいものを出す。
それも、ちょっと高くても「今日しか食べられない」という悪魔のささやきで買わせようという、闇の力に手を染めた商法だ。
「これから毎日、別の商品売るよ!」
「さ、流石レイナさん」
さ、私たちの戦いはこれからだ!!
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