レイナと出店と一日目
「クリエイトモード」
「?」
私とアイシェは今、出店を出すのに適した場所……もとい、ギルド側から指定された土地で出店を構える準備をしていた。
「くりえい、なんですか」
「ん。まあ、出店の制作準備に入ったよ、的な」
「はあ」
早速私の横文字についてこれないアイシェと、それでもサッサと出店の準備をしちゃう私。
「とりあえず大きさはこのくらいで、おしゃなカフェ風にして。うん、完成」
「相変わらずやることがずるいです」
「言い方……効率的って言ってよね」
別にずるはしてない。あまりに効率的過ぎて周りから妬まれるだけだ。
「で、えっと、何を売ろうかな」
「品物は数種類売っても問題ないそうですよ」
「そうなんだ」
その辺の情報は仕入れてなかったね。アイシェはいつ仕入れたのかな??
「この『るーるぶっく』なるものに書いてありました」
「そんなのどこにあったの……」
「ギルドで配布されていましたよ?」
「うそん」
私気づかなかったよ。テンション上がり過ぎて周りが見えてなかったのかな。
「にしてもルールブックかあ」
「はい?」
この世界にきて、ギルドくらいの横文字は通じても、ちょいちょい横文字の通用しない世界だなと思いつつ、今回のルールブックも若干理解できていないようだ。
ってことはこれは私達側の知識という扱いなわけで。となるとこれを作って配布したのは私達側……つまり転生者か、もしくは……。
「まあ、いっか」
「??」
考えても仕方ないよね。うん、今はいいや。
「それで、何を出すかだよね」
「あ、はい。あまりがっつりと食事というものよりは、軽食なんかがよいかと」
「そうだよねぇ。そしたら……うーん」
私はちょっと考えて、二パターン想像した。
「一つはタピオカ」
「たぴおか」
「うん……通じてないね。で、二つ目は夏祭り風屋台」
「夏祭りとは?」
「夏の祭りだよ」
「はあ」
さて、どっちにしようかな。
「たぴおか? というのはどんなものですか」
「うーんと、ぐにっとしてて、ほんのり甘くて、食感の楽しい食べ物で、一般的には飲み物に入れて楽しく飲むものかな」
「なるほど、わかりません」
「だよねー」
うん、説明下手なのもそうだけど、説明されてもわからないよね。
「これだよ」
「どこから出したんですか」
「アイテムボックス。あるいはインベントリともいう」
「相変わらずその言葉の意味はわかりませんが……レイナさんらしいとだけ」
「あはは」
それ、褒めてる?
「とりあえず飲んでみて。タピオカミルクティーでございます」
「はあ。では…………こ、これは、美味しいですね」
「でしょう」
まあ、私飲んだことないけどね! 何せ体がアレだったもので!
でも若い女子に特に人気と聞いて、いつかは飲んでみたいと思い。ネット情報からMOAの中で自作を重ねていた。
「確かにぐにっとしていて、それでいてほのかに甘く。そして飲み物のおいしさを引き立てる味わい。何よりやはり食感が面白いです」
「うんうん。好評のようだね」
「というか一番びっくりなのが氷です」
「そこ?」
まあ、こういう世界観だとありがちだけど。
氷が出てくるって珍しいんだね?
「氷、常温ではないすっきりと甘い飲み物。そして食感の楽しいたぴおか。いけそうですね」
「ふふん。いいでしょ」
まあ、私が開発したものではないけどね。
「それと、夏祭り? はなんですか??」
「あ、そっちも気になる?」
じゃあ出しましょうか。そうだなあ、夏祭りと言えば……。
「焼きそばと、たこ焼き、ベビーカステラに、わたあめ、あとお面」
「あの、最後に取り出したもの、飲食物に見えないのですが」
「うん、これ夏祭りの……正装だからね」
「正装ですか」
「そう」
嘘だけど。でもそういうことにしたらアイシェも納得するかなと思った。
なんて説明していいかわからなくて、うん、いいよね?
「それで、これらが夏祭りなのですか?」
「うんと、正確には夏祭りによくある食べ物かな」
「そうなのですね……これはなんですか?」
「わたあめだね」
「わたあめ。なんだかもふっとしてそうですね」
「見た目はね。実際はべたっとしてるよ」
「え」
なんかアイシェがショックを受けた顔をした。可愛い。
多分わたあめに対して、名前から綿を、見た目から雲を連想したんだろうなぁ。
「とりあえず食べてみて」
「は、はい」
アイシェは恐る恐るわたあめを食べる。
「あ、甘いです」
「うん」
「でもこれ……甘いだけです」
「うん……」
まあ、そうだよね。見た目と食感の面白さだけに特化した面白商品だ。
味的には……砂糖だ。
「ですが、話題性はあるかと」
「そっか」
「こちらは?」
「あーそれは焼きそばだね……それでこっちは――」
そのあと、一通りアイシェに夏祭りに関連しそうな食の説明をすると、アイシェはそのたびに驚いたり、笑ったり……うんうん、いい反応するね。
「で、どうかな?」
「そうですね……夏祭りとタピオカ、両方ではだめですか?」
「おぉ、全部乗せ」
それは考えてなかった。すごいねアイシェ。
「全部乗せ? というのはわかりませんが、飲み物と食事、両方出せるなら、それがいいかと」
「なるほど」
確かにそうかも。
「じゃあ両方で」
「材料は、どうしますか?」
「……あー」
やっばい、何も考えてなかった。
材料はいろいろ買いこんであるけど、無難に使える食材ばっかりで……。
タピオカみたいな特殊な食材は持ってない。
まあ、夏祭り系のは、今の手持ちで出せるけど。
「うーん、スキルで増やそうか」
「レイナさん、ずるいです」
ず、ずるくないよ、知恵だよ、技能だよ。
「ま、まあまあ。とりあえずタピオカはスキルで複製して……」
スキル複製は、多く作れば作るほど補正が乗って材料費が安くなる。
そして何より重要なのが、安くなるのは材料費。
材料はインベントリからの消費ではなく、必要な材料の相場となるリーネだけ。
なのでお金持ちの私的には、材料無しでも元の料理さえあれば、いくらでも増やせるわけで。
「なんて便利なゲームシステム」
「げーむしすてむ?」
「わからなくていいヤツだよー」
とりあえずこれで、何を出すかは決まったね。
というわけで、早速出店にタピオカと夏祭り風食品を並べる。
そして、開店から3時間。
「うん、あんまり売れない!」
「ここ、人通り少なすぎませんか」
これはギルドにしてやられたね。こんな場所で商売ができるか!
「と思いつつ、宣伝をすることにした私であった」
「どう思ったのかはさておき、宣伝はいいですね」
さて、そしたら……花火でもあげますか。
「アニバーサリーイベント限定。1周年花火―」
「あにば。なんですか」
「わからなくていいヤツだよー」
MOA一周年記念花火。一周年期間にログインすると毎日もらえる使いどころがウェイ勢にしかない花火。
テンションは高くとも日陰者な私には、使用頻度無しなアイテム。
「さー。うちあげちゃうぞー」
「あの、大丈夫なんですか、それ」
「うん?」
私が火をつけると同時。アイシェが心配する。
……そういえば、勝手にこれ、あげてもいいのかな。
そう思った矢先、花火が打ちあがる。
『ひゅ~~~~。ドンっ!!』
「レイナさん?!」
「ご、ごめん!」
めちゃくちゃうるさい。そして、すっごい目立つ。
「こんなもの勝手に街中で使ったら苦情が来ますよ?!」
「ごめんって!!」
私にだって予想外のことはある。うん、どうしよう。
「……まあでも、綺麗で、すごく目立ちますね」
「そ、そうでしょ」
この辺、気づいたけど出店が私達しかない。
そういう意味では、目立てばたくさんの人を導入できる広さがある。
ピンチはチャンス。商機はここにある!
「もう一発いっとく?」
「レイナさん?」
「ご、ごめんて」
冗談です……すみません。
「あ、人が集まってきましたね」
「わ、私天才!」
「レイナさん」
「すみません」
ごめんなさい、調子乗りました。
アイシェさんが怖いので、調子乗るのはこの辺にしておこうと思います。
「さて、始めるよ、アイシェ」
「はい、レイナさん」
こうして私とアイシェの出店一日目が始まる。
しかしこのとき、私は知らなかった。
適正価格というものが、何なのかを……。
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