レイナとレコンと予選
「おぉ~! 賑わってる!!」
「そうですね」
私とアイシェはついに、帝国の港町、レコンへと到着した。
そしてね、居るわ居るわ、人ヒトひと!
そして人以外も、たくさんいる。
「やっぱり人の集まる町っていいね、見てるだけで楽しいよ」
「そうですね、活気がある町はこちらも気分が高揚する気がします」
それになにより、この町にはイベントがある。そう、それは……。
「見てアイシェ! たこ焼きだよ!」
「たこやき?」
私は嬉しくなってつい走り出す。そのあとをアイシェが追ってくる。
「いきなり走り出さないでください!」
「だってたこ焼き!」
「意味不明です。子供じゃないんですから、大人しくしてください」
「えぇー」
アイシェママが厳しい。私は自由な生き物でいたい。
「いやあ、流石に料理大会が開かれるだけあって、出店も食ばっかりだね!」
「そうですね、レイナさん、食べるの好きですもんね……」
なんかアイシェが私を食いしん坊扱いしてくるよ。なんでかな。
「これは私たちも出店やるしかないね!」
「どういう理屈でそうなったんですか……」
だってこんな楽しい雰囲気、乗らなきゃ損だよね?
「大丈夫、私に秘策があるから」
「秘策?」
「アウェーなこの地でも周りの出店に負けない、見て楽しい、食べておいしい、みんなでハッピーな食を提供してみせるよ!」
「あの……なんか色々間違ってませんか?」
間違ってるって何をだろう? 方向性かなあ?
「すべての食は美味しく楽しく幸せであるべきだと主張します!」
「レイナさん、変なテンションになってませんか……」
「そお?」
「いや、いつもかもしれないですね」
「サラッとひどくない?」
それだと私が年中変なテンションの人みたいだ。あったかい子じゃないよ。
「出店はともかく、レイナさんなら大会に出場したがるだろうなとは、思ってました」
「楽しそうだからね!」
「まあ、それもそうなのですが……」
「うん?」
なんだろ、楽しい以外に何かあるのかな。
「優勝賞品が、神との謁見なので」
「……ん?」
なんで優勝賞品が、そんなえげつないものになっているの?
「神ともなれば、まあレイナさんは神託があるので要らないかもしれませんが、エルフの国について聞くこともできるかと」
「おぉ」
「それにここの神はなんでも、元ハイエルフだそうですから」
「おぉう」
それはすごいね。ハイエルフって神様になれるんだ。
「まあ、本当かどうかは知りませんが」
「そだねぇ」
まあ、その辺はよくわからないよね。神様ってそもそもどうやってなるのとか、っていうか神様って何とか。色々。
「ですから、まあ本当にハイエルフの神様なのでしたら、エルフの国について聞けるかと」
「なるほど、アイシェ天才」
それならただ楽しそうだから料理大会に出るっていうちょっと阿保みたいな理由じゃなく、しっかりした旅の目的に沿った理由で出場できるね。
「じゃあ早速、大会に出るために情報を集めよう」
「そうですね、こういうのは商業ギルドが取り仕切っていることが一般的ですから、そちらを探しましょう」
「だねえ。おっけーくーくる」
「はい、なんでしょう」
私はくーくる先生を呼ぶと、さっさと「レコン 商業ギルド」で調べた。
「出てきた。ここかあ」
「レイナさん、ホントに旅の情緒も何もないことしますね」
っていうか今更だけど……ううん、なんでもない。
私は言ってはいけない一言を飲み込むと、くーくるに導かれるように歩き出した。
「さて、ここが商業ギルドだね」
「大きいですね」
「だねえ」
そして人も多い。というか、うん、出入り口の扉から、ずらっと人が並んでる。
つまり、あれだね、混んでる。
「何時間待ちかなぁ」
「さあ、とりあえず最後尾はあそこのようですよ」
「並ぶしかないかぁ」
ということで、並んで待つこと数十分。
「思ってたよりは早く受付できそうだね」
「そうですね」
この間も無駄に時間を過ごさないよう、くーくるを使って色々調べたよ。
料理大会に出る方法とか、この国の神様である元ハイエルフのこととか。
「次の方、どうぞ」
「はーい! こんにちはー」
「はい、こんにちは」
私は受付のお姉さんに挨拶すると、さて、早速本題を切り出す。
「料理大会に出たいんですけど」
「あぁ、予選希望の方ですね」
「おぉ、予選」
まあ、そうだよね、これだけ人数居たら、予選とかあるよね。
ここにいる人たち全員、大会出場者とは限らない。観光の人もいるだろう。
あるいは食材を売ってる商人とか。
でもね、それでも出場者はそれなりに多いだろうとは思う。だって賑わい方凄いもん。
「それでは早速予選の説明をします。よろしいですか? よろしいですね。はい。まず予選では、出店を出していただきます」
「うわぁおゴリ押しだぁ」
私の後ろにも人が長蛇の列を作っている。説明一つとってもサクサク進めたいのだろう。
「出店にはこちらで振り分けた番号が付きますので、予選期間内に一定量の売り上げと投票を集めた出店の主だけが、料理大会本選に出場できます」
「おぉ、なるほど」
「それって先に始めた出店が有利では?」
「あ、確かに」
「そこはご安心ください、こちらで登録してから5日以内の売り上げと投票数を見て、商業ギルド側で公正な判断の上、出場者は決定します」
「ギルドが買収されたりしないの?」
「……しません」
「レイナさん、すっごく失礼ですよ」
「あ、ごめん」
うん、確かに失礼だったね。でも割とありそうな話だし、うん、気になるじゃない?
「じゃあ今からでも間に合う?」
「そうですね、登録は本日が最終日ですので。ここから5日が最後の勝負です」
「おぉう」
でもラッキーだね、間に合ってよかった。
「出場なさいますか?」
「するする。番号札くださいな」
「では手数料として100リーネいただきます」
「100リーネ?!」
これに驚いたのはアイシェだ。100リーネかぁ。
「どしたのアイシェ」
「だ、だって、そんな大金、予選に出るだけですよね?」
「この大会は神に捧げる大事な催しでもあります。下手な商人や料理人を参加させるわけには参りません」
「そ、それにしても……」
「??」
なんでアイシェが渋るというか、驚くのかわからない。
100リーネってあれでしょ、ゲームだとスライム100匹分。
この世界じゃ食事つき宿が確か5リーネで10日。10リーネで20日だから。宿200日分かあ。
あー……高いね?
「まあでもいいや、払っちゃえ」
「レイナさん?!」
「参加表明ありがとうございます。レイナ様。本選出場を楽しみにしております」
「ありがとー」
まあ今のはテンプレっぽいけど、一応楽しみにしてくれてる人がいると、勝手に思い込んでおこうと思う。
「さて、まずは出店だね!」
「れ、レイナさん、大丈夫なんですか?」
「ん? 料理?」
「いえ、レイナさんの料理の腕は知っています……そうではなくてですね……」
「?」
そうじゃないってなると……お金?
「お金ならあるよ?」
「いえ、それもですけれど、それ以前に、商売、したことあるんですか?」
「……?」
商売? えーっと。
「なんで商売?」
「レイナさん、売り上げも競うんですよ??」
「……あ」
私、投票されればそれでいいと思ってたけど。
それなら美味しいものを提供してれば、自然とどうにかなると思ってたけど。
「美味しいものを、適正価格で売って、商売になるんですよ?」
「う……」
つまりあれだ。この世界の、MOAの知識があっても、常識のない私には、難しい。
「な、なんとかなるよ」
「そうですか?」
「うん、アイシェがいるし」
「私を頼られても困ります……」
「ダイジョブ大丈夫!」
まあ、まあ。
「やってやれないことはない!」
「はぁ……」
こうして、私とアイシェは料理大会の予選として、出店をすることになった。
五日間の売り上げと、人気投票的な物で決まるこの戦い。
商才のない私とアイシェで、どこまで戦えるのか……。
「わくわくするね!」
「前向きすぎます……」
とりあえずは何を提供するか、そこから考えないとね!
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