アイシェとクラーケンと海戦
「はあっ!」
激しく揺れる甲板の上。私は迫りくる魔物に剣を振り下ろす。
敵は空を飛んでいるのが十数。海から這い上がってくるものが数体。
そして……。
「あれが親玉でしょうか」
海の主とも名高い、あれはきっとクラーケンだ。
「レイナさんがいれば……」
つい、そう口走ってしまう。
私の師であり、命の恩人でもあるレイナさん。
おそらくこの世界最強の魔女の名。
「ダメダメ、レイナさんに頼ってばっかりじゃ」
私はあの人に、恩を返せればと思ってついてきたんだ。
それならこれは絶好のチャンスだ。
彼女は今船酔いでちょっと判断力が低下している。なのでいきなり大技を放とうとしていた。
……いや、元から割と大技を打ちまくる傾向はあったけど。それはそれだ。
兎に角、彼女の今の状況を考えれば、代わりに戦うことは、恩に報いることにもなるはず。
「さて、どこから手を付けたらいいんでしょう」
敵は多い。戦える人はほとんどが船体を伝って這い上がってくる魚人の相手をしている。
一部の弓兵が飛行する敵を打ち落としに掛かってもいる。
となると……。
「私の相手は、貴方のようですね」
クラーケン。海の主だ。
「まあ、シードラゴン? とかいうドラゴンもいるらしいですから。正直言ってそこまで海の主って感じはしないのですが」
それでもクラーケンのレベルは30を超えるという話だ。
そのうえ海という人が本来生息しない場所での戦闘。
戦い辛さから、レベルの体感は50をも超えるとされる。
「それこそ魔法を使えるレイナさんなら楽な相手かもしれませんね」
私は剣士だ。どこまで行っても近接戦闘しかできない。
そんな私が、クラーケンに勝てるだろうか。
「ん、船体にクラーケンの触手が……?」
よく見ると、レイナさんの部屋付近にもある。触手が張り付いている。
「あれを伝っていけば、本体まで接近できそうですね」
そしてあとは頭を落とす。そうしよう。
「さて、行きますか」
なんだかちょっとレイナさんがうつってきてるなと、ふと思う。
特に独り言が多い当たりが。
そう思うとちょっと笑える。うれしい笑いだ。
「レイナさんに、いつか並んで見せる!」
そのためにも、これくらいは一人で倒せないといけない。
レイナさんなら、瞬殺だ。
「行きますっ!」
私は船体に張り付く触手に向かって走り出す。
途中、魚人に苦戦している人を助けながら、サクサクと魚人を切り捨てる。
そして船に絡んだ触手に到達すると、ふと気づく。
「あ。とてもテカテカしてる……」
これ、走れる?
「……そうだ」
私は船にあった予備の武器を手に取る。
「これで突き刺したりしながら、うまいことバランスをとっていきましょう」
できるかはわからない。
とりあえず剣を足に括り付けて、地面に、床に、触手に差し込むイメージをつける。
「……まあ、行けなかったら海に落ちるだけですし」
やってみましょう。ちょっとレイナさんっぽいかも。
「いやいや、レイナさんなら空飛びますよね」
多分、そうする。
「行きますか」
私は甲板から飛び出すと、触手に対し、足に括り付けた剣を突き刺すように思いっきり踏みつける。
「刺さった!」
そのまま間髪入れずに次の足を出す。
そして次へ、次へ、次へ……。
「到着! そして!!」
私はクラーケンの頭……腹と触手の間にある頭を落とすため、剣を振りぬく。
「よし! 決まった!!」
クラーケンは見事に頭が飛んだ。
そして、海に落ちていこうとするので。
「転身、サクッと船に戻らないと!」
私は来た道を……触手の上を走って甲板に戻る。
これでクラーケンの脅威は去った。
「戦いにくいだけで、大して強くなかったですね……」
これもレイナさんのおかげだ。クラーケンをこの程度と思えるのは間違いなく私が強くなったからだ。
「ありがとうございます、レイナさん」
そう呟くと、私は残った魔物を倒す手伝いをする。
これでまた一つ、強くなれただろうか。
ふと、私のライバル。勇者を思い出す。
「レイナさんといるうちに、たくさんリードしたいな」
そんな思いも口にしながら、私は魔物を狩るのであった。
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