レイナと山賊と薬物
「さて、サクッと片づけますか」
「はい」
山賊に囲まれている以上、やりあうしかないわけで。
でも、えっと? 御者さんは大丈夫かなあ。
「御者さんちょっと隠れててね」
「あ、あぁ? わかった」
御者さんなんかきょどってるけど大丈夫なのかなあ。
まあ大丈夫でなかろうと、やることは変わらない。
「てい」
とりあえず私に正体がバレたのに悠々と目の前に座っている山賊の一人を攻撃してみる。
「およ」
結果はと言えば、分かり切っていたけどあっさり倒せた。
なんで余裕ぶってたのかな……。
「他のもやっちゃうよ」
「半分は任せてください」
「あら、半分も」
アイシェやる気だねえ。まあアイシェの実力なら負けることはないだろうし、いっか。
そうして数分後。サクッと戦いは終わったので……。
「で、なんで私達を襲うかな」
「へっ誰が口を割るかよ」
「俺達を舐めるなよ。俺達はあの鷹の団だ」
「そうさ、この辺りじゃ知らない者はいないあの山賊団よ」
「「へっへっへ」」
「おおぅ」
なんか凄い自信ありげだね。拷問されても吐かない自信があると見た。
「じゃあ一人ずつ磨り潰して行こうか……」
「レイナさん、そんな恐ろしい事できるんですか?」
「…………できないね?」
私とて年頃の女の子だ。グロはまあまあ見れてもスプラッタな事を自分からする気にはならない。
「じゃあ……チャーム。はい、何で襲ったのかな」
「そりゃあ魔王様の命令だからよ」
「お、おい!」
「ほほう」
今の反応を見るに、本当に魔王に命令を受けているらしい。
人間にも魔王に加担するグループがいるんだねぇ。
「なんて魔王?」
「へへっ聞いて驚くなよ、俺らのトップはあの大麻王さまさ」
「大麻王?」
大魔王とかでなく? 大麻王…………。
「それって気分がハイになるやつ?」
「あぁ……大麻王様の言葉のことか? 確かに聞いていると気分が高まって来るぜえ」
「お、おい、何をべらべら喋ってるんだ!」
「シャラップ」
「……! …………!!」
私が魔法で黙らせると、急にシンと静かになる。
他の山賊達も私の魔法を見て無駄だと悟ったのかな?
「で、その大麻王の命令って?」
「この道を通る連中を襲って大麻王様の城まで攫うのさ」
「ほうほう。それで?」
「後のことは知らねぇよ。でもきっと皆幸せなはずさ」
「なんで?」
「そりゃああのブツにありついているだろうからよ」
「あのブツって……まさかと思うけど、大麻?」
「あぁ、あの薬は大麻王様の名前を取ってそう呼ばれることもある」
「あそう」
最初は病魔で、今度は大麻かあ……。駄洒落好きなのかな、魔王は。
「まいいや。後は貴方達を街に連行してから、ゆっくり聴取しようかな」
「あぁ。俺の知ってることならなんだって話すぜ」
「そ、ありがと」
さて、これで……。
「依頼達成ですね、レイナさん」
「そだねえ」
そう、これは依頼だったのだ。
最近この街道……山道だけど。ここらへんでよく馬車が襲われては人が攫われるという事件が発生していた。そこでギルドに依頼が出ていたんだけど、見事に誰も受けなかった。
理由は相手がこの有名な? 鷹の団とかいう相手だかららしい。
なんでも相当の手練れ(ボスのレベルは40だったけど)で手に負えるパーティがそう居ないというのが理由だったそうな。
まあもう一個の理由として、複数パーティを雇えるお金がギルドに依頼を出した依頼主に無く。1パーティでの攻略は厳しいからどうしてもやる人が居なかったのだ。
「こういう時にこそ国やギルドが対応して欲しいものですね」
「まあねえ」
そんなわけで、誰も対処できないし、しないから、私達が何とかすることにした。
で、そしたら魔王の影がチラっと見えてしまったわけだけど。
「また魔王かあ」
「今度はどうするんですか?」
「うーん?」
どうするって……うーん。
「サロス達って何処に居るんだろうね」
「サロス君ですか。多分魔族の領土がある魔大陸に向かっているので私達とは別方向かと」
「そっかあ」
それじゃあ勇者にお任せって訳にも行かないのかなあ。
「とりあえず様子だけ見てみようか」
「どうする気ですか?」
「うんとね」
とりあえず、立ち話もなんだし、移動しよう。
「移動しながら話すね?」
「はい。お願いします」
そんなわけで、私達はまたしても魔王との接触の機会を得てしまいそうになっている。
ホントこの世界、どうなってるの……。