レイナと収束と酒
「あ」
「どうしたんですか?」
私がふと大事な事に気が付くと、アイシェがそれに気づいてか疑問を投げかけて来た。
「いやあ……森に人とか居たらどうしようと思って」
「いや、あんな森に人なんて……いますかね?」
まあもう既に病魔の巣窟と化している森だ。人なんていないとは思う。
でも一応安全確認くらいはしておくべきだった。
「ちょっと見て来るよ」
「私も行きます」
そんなわけで早速マップとサーチで人がいるかを確認する。
「サーチ、人種……居ない。亜人種……も居ないっと」
エルフやドワーフは亜人種なのでうっかりしてるとやらかしかねない。
まあ今回は流石に大丈夫だったみたいだけど。
「人は居そうですか?」
「居ないね。いやあ危なかったあ」
森もすでに半分以上が燃えている。これで人とか居たら大変だった。
因みに死んでたりしたらそれはそれでわかるから……うん、誰も死んでないよ。
「もうそろそろ森も燃えきりますか?」
「そうだね、もう森の悲鳴も大分聞きなれたよ」
「そんなの聞こえてるんですか……」
そりゃもう、熱いだの痛いだの結構えぐいのが聞こえてきている。
でも私は気にしない。気にしていたら生きていける気がしない。
「自然の声が拾えちゃうのはエルフの性だからね、仕方ないよ」
「そういう物ですか……」
そんなわけでもうそろそろ流石にここで待っている必要もないだろうということで、とりあえず家をアイテムボックスに仕舞うことにした。
「アイテムボックス、家を収納っと」
「便利な能力ですね……」
「昔は割と誰でも使ってたんだけどね」
まあ私が言う「昔の誰」でもはプレイヤーだけど。
「さてと、それじゃあ街に帰ろうか」
「はい、レイナさん」
そんなこんなで、よーやく、事件がひと段落して街に戻る。
街に戻ると私達はその足でギルドに向かう。
ギルドマスターに一応、終わったと報告するつもりだ。
「ギルマス居ます?」
「あ、レイナさん! こちらへどうぞ!」
受付のお姉さんに声を掛けると直ぐにギルマスの居る部屋に案内してもらう。
すると。
「お、おぅ……戻ったか……」
「あれ、体調悪そう」
出会った時と違って急に体調の悪そうなギルマス。大丈夫かな。
「プロパティ……うわっ、キュア」
「おぉ?!」
見てみたらギルマスも肺ペストだった。怖い怖い。
「この街全体、まだ病に掛かった人が潜伏してそうだよねぇ……」
「すまないレイナ、まさか俺まで病気に掛かっていたとはな……」
いやまあ、仕方ないよね、ギルマスと言っても人間だ。掛かるものは掛かる。
「この街の人、一旦一気にキュアしたいなあ」
「さっきの魔法のことか?」
「そう」
そうしたら一気に問題解決して先に進めるというものだ。
「なら人手を使って街の人間を集めさせよう。手配するからその後、治療を任せてもいいか?」
「お、話が早くて助かります」
そんなわけで、三時間後。
「はーい並んで並んでー」
街の大広場にたくさんの人々を集めると、なるだけ多くの人が入る様に整列してもらう。
そして。
「オールキュア」
はい、おしまい。
「これで皆病気から解放されたよ」
「本当か? こんなあっさりと……」
「いやいやいや」
あっさりとって言うけど、ここまで人を集めたり、整列させるのだって結構な苦労だ。
その部分を負担して貰えたからこその今だ。
「後は動けない人とか、重症の患者さんが居れば個別に治すよ」
「あぁ、頼んだ」
私はそういうと、ギルマスからリストを受け取る。
病気で広場に来られなかった人や足が不自由な人のリストだ。
これからこの人達の居る家に赴いて、しっかり治していく。
そんな仕事を夜まで続けて、漸くこの事件は収束を迎えた。
「はー終わったー」
「お疲れ様ですレイナさん」
お疲れモードの私をアイシェが労ってくれる。
「今日は凄くキュア使ったなあ」
「便利な魔法ですよね」
「そだねえ」
まあ、どんな状態異常でも基本的には治るからね。
呪いとか特殊なのは解呪魔法が必要だけど。
「さてさて、今日は後は宿のご飯を頂いて寝るだけだね」
「そうですね、そろそろ食堂に行きましょうか」
そうアイシェと話すと、私達は食堂に向かう。
食堂は酒場も兼ねている大きな場所で、私達はその一角に座る。
「あら。誰かと思ったら聖女様じゃない! 今夜はタダで好きなだけ飲んで食べてね!」
「え、あ、はい」
なんか今聞きなれない呼ばれ方をした気がするのは私の気のせい?
「おー、聖女様、こんな酒場で出会えるなんて光栄です」
「こんなで悪かったね」
「おっと、いっけねえ」
「あー」
聞き間違えじゃないね、うん。
私、聖女様って呼ばれてるね?
「ねえアイシェ、どういう事かなこれは」
「どう言うとは?」
「だって、なんか私聖女とか呼ばれてるよ」
「あぁ……まあアレだけ感染力が強くて人が簡単に死んでしまう病を、あっさりと、しかも大人数救ったのですから、そういう風にもなるかと」
「えぇ……」
この世界の聖女の価値観それでいいの?
もっとこう、清楚で凛としてて、それでいて慈愛に満ちたような人じゃない? 違うかな。
「私の思ってた聖女とイメージが違い過ぎるよ」
「そうですか? 私はレイナさんが聖女と呼ばれても違和感を感じませんが……」
人から見るとそうなのかなあ。
「まあいいや、飲んで食べよう」
「はい」
と、ここに来て私はようやく思い至る。
「お酒飲んでも良いのか」
「はい?」
この世界に来て数年、もう私も精神年齢的には20歳を過ぎた。
肉体年齢に至っては不詳のハイエルフだ。
「すみません! シュワシュワ一つください!」
「はいよ!」
というわけで、お酒を楽しんでみようと思う。
「はいどうぞ! 聖女様も飲める口なのかい?」
「いえ、初めてです」
「そりゃいいや。初めての酒、ぜひうちで楽しんで行って!」
それではそれでは、お言葉に甘えて、頂きます。
「ゴクゴクっ」
「どうですか、レイナさん」
「うん! よくわかんないけどシュワシュワしてる!」
正直美味しいかと訊かれたら微妙だけど、でも気分は悪くない。
「私ももうそんな年かあ」
「レイナさんいくつ何ですか……?」
「い、いやあ」
ハイエルフ基準での年齢を訊かれても返答に困る。
とは言え精神年齢を言っても仕方ないしねえ。
「さーて今夜は飲んで食べて騒いじゃうぞー!」
「ふふっ、いいですね、レイナさんの騒いでるところ、ちょっと見てみたいです」
「そお?」
私ってあんまりはしゃがないタイプだからかな?
「さーもう一本シュワシュワだー!」
「おー!」
周りの人達も私が飲むのを楽しそうに見ている、私も楽しい。
あぁ、お酒って楽しく飲むものなんだね。
「そしておやすみなさい」
「え、レイナさん?!」
そして私は気づいたのだ、私お酒めっちゃ弱いと。
二本一気に飲んで酔い潰れた私は、夢の中に落ち。
そして。
「どうも、ご機嫌なレイナちゃん、また神様登場ですよっと」
「あ、どうも……」
私はまた、夢の中で神様と出会った。
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