レイナと森と病魔
「お、嬢ちゃん達、戻ったか!」
「あ、門番さん」
街に戻ると私達が街を出る時に出会った門番さんがまだ立っていた。
「あの後、森の方で猛吹雪と大火災が発見されてな、心配していたんだが……大丈夫だったみたいだな?」
「え、ああ、はい」
なんてことだろう。街から離れているから見られてないと思ってたのに、どうやら誰かに見られていたようだ。
そしてその吹雪と火災の原因が私だとは言えない、伏せておこう。
そう思ったのだけど。
「森の中で病魔王を名乗る魔王と出会いましたので、そこで交戦した結果です。安心してください」
「そ、そうなのか?!」
「うっ……まあ、はい」
アイシェは門番さんの不安を解消する為にあえて答えたって様子だけど、私としては隠しておきたかった。だってやらかした感あるでしょう。
「それにしても、魔王……魔王か」
「はい、どうやら魔王達は復活しているようです」
「そうか……Sランク冒険者の嬢ちゃんたちが居なかったらこの街は今頃どうなっていたか……」
なんか今物騒な話聞こえなかった? 魔王『達』って聞こえたけど。
「アイシェアイシェ」
「何ですかレイナさん?」
「魔王って複数いるの?」
「え、はい。え、何で知らないんですか?」
「え」
何でって言われてもね、MOA時代は魔王というコンテンツは無かったわけで、この世界になってからの独自設定なんて知らないというかなんというか……。
「前から思っていたのですが、レイナさんって世情に疎すぎませんか?」
「うっ……ま、まあそういうところ無くはないけど」
でも仕方なくない? この世界私が知ってる世界の500年後だよ?
「レイナさんって長命のハイエルフだから第一次魔王界戦の事も知ってますよね?」
「え、知らないけど」
「え」
「え」
そんなの聞いたことも無い。図書館でもっと歴史とか調べておくべきだった?
「レイナさん、何処から来たんですか……」
「えぇ……っと、田舎?」
「どんな田舎なら世界崩壊の危機にあった大戦の情報が入ってこない状態になるんですか……」
「それは……あはははは」
困った時は秘儀、笑ってごまかすの術!
「はあ、まあいいです、魔王は複数います。今回の魔王は前回にも現れたという死の病をばら撒く魔王でしょうね」
「なるほど」
それでかな、アイシェが魔王の名前を聞いても冷静だったのは。
知らない、未知の存在は怖いけど知ってれば大丈夫的な。
でも、普通魔王だって知ってたらビビりそうだけど。アイシェって意外と気が強い?
「あー、嬢ちゃん達? それで、魔王はどうなったんだ」
「あ、はい。レイナさんが倒しました」
「おぉ、本当か!」
「えぇ、まあ」
確かに倒した。倒しちゃった。本来なら勇者の役目のハズの魔王討伐をやらかしてしまった。
大丈夫かなあ。でも神様からも倒したら話が聞けるってことだったし、倒しても良かったんだよね……?
「それなら街のギルドマスターに相談しておくべきだな……一緒に来てくれるか」
「はい、構いませんが、レイナさんは?」
「え、いやあ……うん」
あんまり目立つことしたくないなあと思うけど、やらかしたことにはキッチリ落とし前は付けなければならないと私の良心が叫ぶ。
とりあえず森を焼いたこと、怒られないといいなあ。
「それでは行こうか」
「はい」
「はーい」
アイシェはなんだかちょっと誇らしげに見えるのは気のせいだろうか。
私のやる気のない返事に比べて妙にハキハキとしているように感じる。
「アイシェは何かいいことでもあったの?」
「え?」
「なんか元気だからさあ」
「そうですか? でも、そうですね、自分の師が魔王を倒したというのは、一番弟子としては誇らしいです」
「そういう?」
なんかサラッと一番弟子のところを強調していた気もするけど。なんだろうね。
「さ、着いたぞ。ギルドだ」
「はいはい」
はー、着いちゃったよギルド。どうしよう。
ギルドに着くと門番さんが受付のお姉さんと話しを付けてギルマスに会う事になった。
「こちらのお部屋です」
「ありがとうございます」
そして案内されたギルマスルーム。はあ、ついに来ちゃったよ。
「それで、話は大まかに聞いたが……貴女が噂の流星の魔女で間違いないな?」
「げっ……まあ、はい」
ここでも流星の魔女の名前は通っていたみたいだね。ギルマスともなれば情報通で知っている物なのかな。
「それで、そっちが付き人の剣士のアイシェと……腕前は王国一と聞いている」
「いえ、そんなことは無いですよ、レイナさんの次です」
おぉ……アイシェも意外と有名なんだ? 知らなかったよ。
でも謙遜するついでに私を一番上に置くのは止めて欲しい。
「さて、それでは、この国随一の実力者二人によって魔王討伐が成されたという事なんだが……どうやらまだ問題があるようだな?」
「あ、それそれ」
それ、それが言いたかった。
「森が病気に侵されているみたいで、どうしようかなあと」
「ふむ……自然に回復すると思うか?」
「いえ、難しいと思います」
これにはアイシェが答えた。うーん、確かにアレが自然に元に戻るとは考えづらい。
「ならばどうするべきか……」
「レイナさんが燃やした後は病気が消えているようでしたから、安直ですが、燃やすのが一番手っ取り早いと思います」
「燃やすか……あの広大な森を、できるか?」
「燃やしていいなら、まあ出来ますけど」
一回火を放っちゃえば後は勝手に燃える気もするし、そうでなくてもできなくはない。
広範囲化した炎の魔法を使えば余裕でカバーできる広さだったし。
「そうか、ならば燃やすしかないだろうな。他に手段も無い。人命にも代えられん」
「そうですか」
いいんだ、燃やしちゃって。
そう思った時だった。
「レイナさんは良いんですか? 一応、その、ハイエルフですし」
「うん?」
どういう意味だろうね。この質問。
「いえ、エルフの方々って自然を愛する種族だと聞きますから」
「え、今更何を」
森の中で、やむを得ないと思ったとは言え炎ぶっぱなした私だよ?
「あの時はやむを得なかったんですよね?」
「まあ、そうだけど。大丈夫だよ、別に」
そうそう、大丈夫だ。
ちょーっと植物の声が聞こえたりするけど、まあ、概ね大丈夫。
「さて、それじゃあ行きますか」
「焼きに行くんですね」
「うん。病気の元は早く絶っておくべきだしね」
そんなわけで、私達はまた森に戻ることにした。
はあ、早くこの一件が終わると良いなあ。
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